第18話 悪知恵だけは働くんだから
様子のおかしい後輩からの相談。
とりあえず先生や友達を頼るようにアドバイス。
教室に戻る中、隼人はふと立ち止まって考えた。
このまま教室に戻るのか、どうするかと。
教室に戻れば様子のおかしい後輩はいない。
だがその代わりに、今度は様子のおかしいクラスメイトが待っているのは確定している。
乃愛の教室に行くのも無理。
見つかりたくないし悪目立ちしたくない。
ではどうするのか。
考えた隼人は校舎裏の階段に移動。
一人寂しくお弁当を食べる事にした。
「はぁあぁぁぁ……」
時々通る生徒に好奇の目で見られながら、出来るだけ早く弁当を食べると、そのままグラウンド横にある階段に座ってボケーっと空を眺めていた。
(一体なんなんだよ……)
ふわふわと漂う雲を無心で眺めていた。
ずっと手が届かないと思っていた男子。
密かに思い続けていた城崎隼人。
そんな隼人が乃愛に振られた、今──!
『やぁやぁやぁ! 我こそは城崎隼人の彼女になる者! 大和随一の美少女なるぞ!』
と言わんばかりに、アホみたいなアプローチを開始した明星と翠。
だが、忘れてはいけない大切な事がある。
「はぁぁ……」
意中の好きピは今週の火曜日に振られたばかり。
振られてからまだ五日も経っていない事を。
余程強靭なメンタルを保有するモンスターでも無ければ、振られて五日目はまだ気持ちの整理が付いていない場合が殆ど。
きっと傷付いているに違いない。
今は少しそっとしておいてあげよう。
みたいな。
そんな当たり前の気遣いが全くできていない明星と翠の行動は、傷心真っただ中の隼人の心身に中々の負担を強いていた。
キレられても仕方ない程度には鬱陶しいことこの上ない可能性もある。
(……まあ、空野の方は一応慰めてくれてるのかなぁ。どうなんだろ。……でも、今日飲ませようとしてた薬の中にアポ〇キシンみたいなのが混ざってた可能性もゼロではないよなぁ……。でもなぁ、たぶんだけど、悪意はないようなが気もするんだよなぁ。わっかんねぇんだよな……あいつ、マジで……何がしたいんだよ⋯⋯)
いつからか暴言製造マシーンになった女子。
そんな女子の急激な変化に違和感を覚えつつも、彼女の変化を理解しようと努める、その一方で。
(そう言や、館花の相談は結局なんだったんだろ。めちゃくちゃ言い辛そうにしてたけど、俺に相談するような内容って言えば書道関係だろうから……。順当に考えれば、書道教室で何かあった……とか? 火事にあったとかは聞いてないんだけど、今日帰ったらそれとなく様子見に行ってみるかぁ……?)
「ぅぅーん……」
いつからか心ヘシ折りロボになった女子。
そんな女子が急に挙動不審になったかと思えば、先程彼女が見せた動揺を顕わにした態度を思い出して、思わず心配をする。
「はぁ……」
或いは平時であれば。
隼人はもっと彼女達に寄り添えたかもしれない。
しかし、傷心中であまりにも心に余裕が無い今の彼には、このくらいが限界。
あんまり色々考えたくない彼は、しばらくボケーっと空を眺めてから昼休みが終わる直前に教室に戻った。
「はーやと、一緒に帰ろっ!」
「……はいっすー」
そしてもちろん、放課後に待っているのは美少女とのドキドキな帰宅イベント。
トイレを言い訳に使う事も出来ず。
部活を言い訳に使う事も出来ない。
断る理由が見つからなかった隼人。
周囲の友達も様子見状態で孤立無援。
明星との帰宅と言う強制イベントに巻き込まれる彼は、深く考える事をやめて歩き出す。
「あっ! ところでさ? 今日はどうする?」
「……え? うん? 今日?」
「あっ、うんうん、えっとぉ……今日は帰り家に寄っていくぅ? ぁ、漫画! 漫画ね? 漫画いっぱいあるから! ねっ!」
「あー……。漫画な。んー、どうすっかな」
学校を出て電車に揺られた二人。
自宅の最寄り駅から出た所で、明星が今日も元気にお家へお誘い。
家に引きずり込もうと全力でアプローチ。
「寄っていく……って言うか。あーそっか。じゃあ時間あるなら、いくつか読み終わってるから、返しに行ってもいい? あんまりずっと借りてるとよくないだろうしさ」
「い、いいよぉお! いつでも返しに来て! あでも! ずっと持っててもいいんだけどね? 返してくれてもいいよ!」
「いやいや、ずっと持ってるってなんだよ。返すって。そんじゃあ、一旦家帰って漫画持って来るって事で、今から行けばいい?」
「うん! 今か──あっ!」
「うん?」
今から来て良いよ、と。
そう言いかけた明星の頭が珍しく高速回転した。
(今から来てくれてもいいけど。これって私の都合でいつ返しに来てくれるか決められる……ってこと……だよね? え? それヤバくない? それってつまり明日明後日とか、土日に家に来てもらう事が出来るって事だよね? お父さんとお母さんには何処か出掛けて貰っておけば隼人と二人きりになれるわけでしょ? ……え、ヤバくない? もう同棲じゃん)
両親が居ない休日の自宅。
年頃の男女が部屋の中。
大事なモノも先日大量購入したばかり。
振られて落ち込む男子。
慰める可愛い私。
「ふへっ!」
明星が何を考えてるのかはわからない。
だが、とても楽しそうな事を考えているに違いない明星が突然笑った事で、隼人が怪訝な表情を浮かべた。
「ど、どうした?」
「あっ、ぃゃ、ふへへっ、なんでも! ないんだけどぉ……。んひひっ、あー、えーっとぉ、やっぱり今日はちょっと予定があるかもでぇ」
「そうなのか? オッケオッケ。俺はいつでも良いから、空野の都合がいい時があったら教えてくれたらいいよ。そしたら返しに行くから」
「あ! でねでねでね! それでね!」
「え、うん?」
「明日か明後日とかぁ……漫画返しに来るのって休みの日とかでも大丈夫だったりするかなぁって? あっ! もちろんね? もちろん、予定あるとかなら全然いつでもいんだけどね! 隼人にも色々あるだろうから、バイトだってあるだろうし、全然平日でもいいんだけどね?!」
「休日? 別に大丈夫だよ。俺はいつでもいいって。日曜はバイトあるけど一日中してるわけでもないしな。どっか行く予定もないから、空野が土日の方が都合いいって言うならそれでいいよ」
「ホントぉォお!?」
「ぅおっ、おう」
休日で問題ない。
その言葉が余程嬉しかったに違いない。
思わず隼人に身体をグイッと近づけた明星。
両手を合わせて左頬の横まで持ち上げながら、幸せそうに笑った可愛らしい明星。そんな彼女にグイッと近づかれた分だけ身体を離した隼人もまた、ドキドキしながら頷いた。
(ビビったぁ……頭突きされるかと思ったぁ……)
とてもドキドキしていた。
その後、詳しい予定はスマホに連絡を入れると言う事で解散した二人はそれぞれの家に向かって足を進めた。
強かな女の子なんだからー




