第17話 救国の女神が目を覚ますと…。
メーライトはいつの間にか眠っていた。
目を覚ますと馬車の中ではなく、木造の家で、ベッドも固く布団も薄い。
自宅に居るような感覚に陥り、全て夢だったのかと自嘲してしまう。
よく見れば窓の位置も部屋の広さも自宅と変わらない。
寝ぼけてしまったのか、それならもうすぐ姉が部屋に入ってくる。
「メーライト!まだ寝てんの!?」
「私はお父さん達とこれから畑仕事!アンタは弱っちいんだから家に居るんだよ!知らない人が来ても扉を開けないんだよ!」
顔を歪めて怒鳴ってくる姉。
だが口調は両親が聞いているからまだ優しい。本来なら「足手まといなんだから家にいろ」、「何があっても扉を開けるな」くらい言われただろう。
だが、怒鳴ろうがなじろうが、姉は姉で、あんな火で焼き殺される姿を夢見るなんて自分は悪い子だ。
姉に会ったらキチンとおはようを言おう。
変な夢を見てごめんと言おうと思うが、自室にしては生活感がない。
父がくれた【メイド物語】もない。
堪らない嫌な予感と違和感。
メーライトは恐る恐る「救済のペン」を呼び出すと、掌には女神が授けてくれたペンが現れた。
夢じゃない。
ならここは何処?
今はいつ?
これからナイヤルトコの襲撃が始まる?
不安な気持ちの中、ドアが開くと入ってきたのは、姉でもアーセワでもなく老神官だった。
「し…神官様?ここは?」と言いながら、慌てて起きようとするメーライトを手のひらで制止して、「女神様、まずは使徒様を一度お下げください。アジマー様は眠られている間に帰られておりますが、その他の使徒様は皆健在で御座います」と穏やかに話した。
「何故ですか?」
「女神様のお心が乱れると、使徒様達のお心も乱れると伺いました。女神様が眠られている間のお話をさせていただく、私が大任を仰せつかりました」
不安な顔で「心が…乱れる?」と聞くメーライトに、「はい」と答えた老神官は、「アーセワ様からの言伝で御座います。『私達は喚んでくれればすぐに出てこられますから、安心して一度帰らせてください』との事です」と説明する。
アーセワが言うのならと、メーライトはアーセワ達を消すと、老騎士がドアをノックして現れた。
老神官にアイコンタクトを送ると、メーライトに「おはようございます。後ほど」と言ってから退室した。
老神官はまず深々とお辞儀をすると、「無事にヤヅマーミ砦に撤退する事が出来ました。ありがとうございます」とお礼を言う。
「え?撤退…出来たんですね」
「はい。今日は馬車に乗り込んでから約1ヶ月が経過しました」
メーライトからしたら一晩のつもりだった。
驚くメーライトに、「女神様は使徒様のお力の反動でお倒れになられました。そして今日までお眠りになられてました」と言って説明を始めた。
メーライトには、恐らくアジマーの魔法で竜を凍り付かせて、城を氷のドームで覆ったところまでの記憶しかない事をアーセワは察していて、そこから先の話をメーライトにして欲しいと老神官は頼まれていた。
「あの直後、凍り付いた竜が一撃で粉々になり、アルデバイト城を覆った使徒様の氷が破壊されました」
この説明にメーライトは耳を疑い「え?」と聞き返す。
アジマーの魔法は物凄く、とても砕かれるイメージなんてなかった。
「嘘偽りなく破壊…砕かれたのです」
老神官は口惜しそうに話し始めた。
メーライトはキラキラと光る氷のドームを馬車から見ながら、「アジマーさん!ありがとう。すごくキラキラして素敵!あれなら司書様も本を用意できるわ!」と声を上げ、アジマーも「そりゃあ大魔法使いだからね」と鼻高々に言う。
なんとかなった勝利ムードは、馬車を操る老騎士にも伝わり、それが前の馬車にも伝わっていく。
穏やかな空気の中、索敵を受け持つアナーシャが「あれ…何?」と言って天を指差す。
アーシルが「何か…落ちてくる?」と反応をすると、キィィィィという音と共に、ようやく姿を視認できたアナーシャが、「人間!?あんな高さから!?おかしいわ!アーシル!警戒して!」と指示を出した。
次の瞬間、落ちてきた人型の何かは、凍り付いた巨大な竜の背中に落ちると、爆発音と共に竜は砕け散る。
「マジか!?」
「何今の!?」
爆音と共に飛び散ってくる氷のカケラ達。
おかしい。
異常な中、また何かが飛び上がった。
「飛んだ!?」
「アナーシャ!それは飛翔!?跳躍!?」
「わからない!また高高度からの攻撃なのかも!」
ここでメーライトが次の目標に気付き、「まさか、お城が!?司書様が!!」と感情を乱してしまう。
「ダメです神様!感情を抑えて!」
アーセワの言葉も届かずに、メーライトの言葉にアナーシャとアジマーが反応をしてしまう。
「やらせない!硬さ自慢なら電撃!ライトニングアロー!」
「同意見!大魔法使いのライトニングボルトを喰らいな!」
キィィィィと言う音が聞こえる中、落下地点に向けて落ちてくる目標にアナーシャとアジマーの攻撃が当たり、急降下してくる何かは一度は弾かれるが、すぐに再始動して天高く跳び上がる。
「まずい!狙いが変わった!こっちに来る!?」
「あんな攻撃喰らったら馬車が全滅だよ!」
「アーシル!アルーナ!頼みます!」
アーセワの声にアルーナとアーシルは、「頼むって言われても出力が」、「神様の負担がヤバいよ!」と返すが、キィィィィと言う耳鳴りのような音は大きくなってくる。
「泣き言を言わないで!ここで防げなければ神様が殺されてしまいます!」
アーセワとアノーレがメーライトを庇う形で覆い被さる。
その必死な声と顔を見たメーライトは、死の危険で感情を乱してしまうと、目の色を変えたアルーナ達はメーライトの負担を無視して今打てる限りの攻撃や防御を行った。
「撃ち落とす。ナイブレイド!行くぞ!バーフォレーション・レイ!」
「フレイムーアロー!ブリザードアロー!ライトニングアロー!アースアロー!」
「隔絶結界!アイソレーション・ウォール!」
「土魔法!インターセプション・キャノンボール!!」
アルーナ達の放った攻撃は迫る影に直撃して、影を吹き飛ばし、馬車は守られたが、あまりの高負荷にメーライトが「キャァァッ!」と悲鳴を上げて痙攣しながら気絶をする。
常時接続の指定をされていなかったアジマーだけは現世から消えてしまい、我に返ったアルーナ達は慌ててメーライトを案じて警戒に当たった。
老騎士は「メーライト嬢は?使徒様達は?」と心配をしながら馬車を走らせる。
アーセワがメーライトの口に布を押し込んで舌を噛んだりしないようにしながら「神様はあまりの事に気絶なされました。恐らく高負荷に耐えられず、また直前の記憶もなくなると思います」と言い、アノーレが「私達は常時接続になってたから消えないで済んだけど、私達が居るから神様は起きられないし、この状況だと一般兵には負けないけど、今はそんなに力も出せない。無理する度に神様が起きられるのが遅くなる」と続ける。
「…だが、メーライト嬢と使徒様達がいなければあの攻撃でわれわれは壊滅していた。感謝します」
老騎士の言葉に、アーセワが「我々への感謝は不要です。神様の立場が悪くならないように気を配ってください」と言った時、爆音と共にアルデバイト城を覆っていた氷のドームが破壊されていた。




