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無人島で50年も修行したら、強くなりすぎたので弟子を育てる事にした  作者: ダイス
王都機密ダンジョン編

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エピソード22:光が戻る

夜明け前、ガーネット師が静かに声を上げた。


「……終わりました」


ユズが目を開けた。


シオンはすでに立っていた。


広間の空気が変わっていた。


昨日まで漂っていた、重く淀んだ魔力の感触が薄くなっている。


「本当に終わりましたか」


「はい。まだ完全ではありませんが、コアとしての機能は戻っています」


老人が手を離すと、破片の黒い濁りが薄れていた。


内側に、かすかな光がある。


白く、清らかな光だ。


昨日まであった濁った黒光とは、まるで違う。


「これが、本来の色ですか」


「そうです。ダンジョンコアは本来、こういう光を持っています」


ユズはその光をしばらく見ていた。


静かで、穏やかで、重くない。


ダンジョン全体に満ちていた息苦しさが、少しだけ薄れた気がした。


「修復できたことで、魔物の暴走は収まりますか」


「すぐには無理です。ただ、これ以上悪化はしません。時間をかけて、少しずつ落ち着いていきます」


「わかりました」


「あとは……砕いた者の問題が残っていますが、それはあなたたちの仕事ですね」


老人が立ち上がった。


膝が少し震えていた。


一日以上、ほぼ動かずに集中し続けた体だ。


ユズが手を差し伸べた。


「ありがとうございます、ガーネット師」


老人が手を取って、ゆっくりと立ち上がった。


「いいえ。これが私の仕事ですから」


「上まで一緒に行きます」


「ありがとうございます。足が少し心配ですね」


「私が横についています」


ユズが老人の隣に寄った。


シオンは先を歩く。


広間を出る前、ユズは一度だけ振り返った。


台座の上に置かれたコアの破片が、白い光を帯びている。


その光が、石の壁にかすかに反射していた。


ここから始まった謎の、最初の答えがここにある。


でも、終わりではない。


ユズは前を向き、足を進めた。


三人は六階層から出口へ向かった。


帰り道は、来た時より空気が少し軽かった。


気のせいかもしれない。


でも、ユズにはそう感じられた。


四階層の黒い染みは、まだ壁に残っていた。


でも、なんとなく昨日より薄くなった気がした。


「染みが薄くなっていませんか、師匠」


シオンが壁を見た。


「……そうだな。修復の効果が上の階にも届いている」


「ならコアが完全に修復されれば、もっと薄くなりますか」


「おそらく」


ガーネット師が穏やかに言った。


「時間はかかりますが、必ず戻ります。ダンジョンには自浄作用があります」


「傷ついても、時間をかけて癒えようとする力が、ダンジョンにはあります。人が手を貸せば、もっと早くなります」


ユズはその言葉を飲み込んだ。


傷ついても、癒えようとする力。


ダンジョンも、人も、同じなのかもしれない。


一階層を抜けると、夜明けの光が差し込んでいた。


地面が朝露で濡れている。


空が白く染まりかけていた。


ガーネット師が立ち止まり、空を見上げた。


「きれいですね」


「はい」


「ダンジョンの中は外の空気がありませんから……長くいると恋しくなります」


老人の目が、少し細くなった。


年老いた職人の、静かな表情だった。


「また呼ばれたら参ります。次はもっと早くできると思います」


「ありがとうございます」


ガーネット師が王城の方向へ歩き出した。


小さな背中が、朝の光の中に消えていく。


シオンが空を見た。


「これで一つ片付いた」


「はい」


「次は十階層だ」


「……はい」


ユズは双剣に手を当てた。


コアの修復は終わった。


でも、まだ終わりではない。


砕いた者がいる。


深層に何かがいる。


それを片付けるのが、自分たちの仕事だ。


「師匠」


「なんだ」


「十階層のボスが近いですね」


「剣士型の魔物だという情報がある」


「私が先に当たりますね」


「ああ」


短い答えだった。


でも、それは許可だ。


ユズは少し背筋が伸びた。


「今日は休んで、明日から入ります」


「そうだな。体を整えておけ」


宿に戻ると、ちょうど朝食の時間だった。


ユズはパンとスープを頼んだ。


シオンは何も言わずに同じものを頼んだ。


食事をしながら、ユズは窓の外を見た。


朝の王都が動き始めている。


荷馬車が通り、店が開き始め、子どもが走っている。


ダンジョンの外の世界は、何も変わっていない。


でも、ユズは少し変わった気がした。


一日と一夜、闇の中に立ち続けた。


怖さと共に、立ち続けた。


その時間が体に残っている。


「師匠」


「なんだ」


「一つ、強くなりましたか」


シオンがパンをちぎりながら、少し間を置いた。


「なっている」


ユズはスープを飲んだ。


温かかった。


パンを一切れちぎり、口に入れた。


素朴な味が、体に染みた。


昼過ぎまで、ユズは宿で双剣の手入れと体の回復に当てた。


夕方、ユズは窓の外の街を眺めながら、明日の動きを頭の中で繰り返した。


九階層の迷宮を抜け、十階層へ。


剣士型の魔物。


自分が先に当たる。


押されたらシオンが来る。


怖さは、ある。


でも、怖さに慣れてきた。


だから動ける。


夜になり、ユズは目を閉じた。


すぐに眠れた。


これも、変化だ。


もう、眠れないとは言わせない。


明日、また潜る。


今度は十階層のボスへ向かう。


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