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無人島で50年も修行したら、強くなりすぎたので弟子を育てる事にした  作者: ダイス
王都機密ダンジョン編

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エピソード21:コアの修復

翌朝、ガーネット師が宿の前で待っていた。


白い法衣に旅の外套を羽織り、背に大きな革袋を担いでいる。


年老いた体には少し重そうだったが、表情は穏やかだった。


「おはようございます。昨夜よく眠れましたか」


「はい。ガーネット師は」


「こういう仕事の前は眠れないものですよ」


少し笑いながら言った。


ユズは少し驚いた。


こんなに落ち着いているのに、眠れないのか。


「でも不思議と体は動きます。気が張っているんでしょうね」


「私は逆に、緊張すると眠れなくて……」


「若い頃はそうでしたよ。そのうち変わります」


老人が歩き出す前に、ユズに向かって言った。


「怖くなくなるんじゃないんです。怖さに慣れるんです。それが経験というものです」


ユズは少し黙ってから頷いた。


怖さに慣れる。


シオンの「慣れた」という言葉と、どこか重なった。


一階層から六階層まで、二人がガーネット師を挟む形で進んだ。


シオンが前を歩き、ユズが後ろについて守る。


魔物は出た。


一階層で赤目のゴブリン二匹。

三階層でリザードマン一匹。

四階層で異常個体のオーガが通路の奥に一体。


だがガーネット師は、一度も慌てなかった。


後方で静かに待ち、戦闘が終わると「ありがとうございます」と頭を下げた。


その都度、ユズは「大丈夫ですか」と確認した。


老人はいつも同じ穏やかな顔で「大丈夫です」と答えた。


六階層に入ると、空気が変わった。


ガーネット師が立ち止まった。


「……強い魔力ですね。これは」


「はい。コアの破片があります」


広間の中央、台座の上に砕けた破片が置かれている。


昨日より、破片の光が少し強くなっている気がした。


ガーネット師がゆっくりと近づいた。


破片を手で包むように触れる。


しばらく何も言わなかった。


ユズも、シオンも、何も言わなかった。


「意図的に砕かれていますね」


「そうです」


「……こんなことをする者が、まだ深くにいると」


「おそらく」


老人が目を閉じた。


「わかりました。始めます」


「時間はどのくらいかかりますか」


「この状態なら……一日半、というところです」


「外に出なくていいですか」


「ここで食事と睡眠を取れれば大丈夫です。修復の途中で席を外すと、また最初からになります」


「わかりました。交代で見張ります」


シオンが言った。


ユズも頷いた。


修復が始まった。


ガーネット師が破片に両手を当て、静かに魔法を流し込む。


光は見えない。


音もほとんどない。


だが、破片の周りの空気が少しずつ変わっていく。


「師匠、魔力の流れが変わってきていますね」


「ああ。修復が始まっている」


ユズは広間の入口に立ち、通路の奥を見張った。


六階層には魔物は来ない。


魔力が強すぎて、普通の魔物は近づけないからだ。


だが、異常個体は別だ。


そして、もっと危険な何かが来る可能性もある。


ユズは双剣に手をかけたまま、立ち続けた。


一時間が過ぎた。


石の床は冷たく、空気は重い。


シオンがユズに目で合図した。


交代だ。


ユズが壁に背をつけて休んでいる間、シオンが入口に立つ。


その間、ユズはガーネット師の手元を見ていた。


老人の指が微かに動いている。


魔力が糸のように流れ込み、破片の内側で渦を巻く。


まるで、砕けた器を内側から繕っているようだった。


昼食の時間、ガーネット師がわずかに目を開けた。


「少し食べます。五分だけ」


「はい」


老人は携帯食を口に入れながら、破片を見続けた。


「ここには、長い時間が積み重なっていますね」


「何か感じますか」


「コアが砕かれた後にも、定期的に誰かが手を入れている。魔力の痕跡が重なっています。月に一度か二度か……つまり、まだ近くにいるということです」


ユズはその言葉を胸に入れた。


まだ近くにいる。


「今も」


「かもしれません」


老人が再び目を閉じた。


修復が続く。


ユズは入口に戻り、通路の奥を見た。


何も来ない。


静かだ。


だが、静かさの中に、何かが潜んでいる気がした。


今はまだ動かない。


でも、いつか動く。


それがわかっていた。


ユズは双剣を握り直し、立ち続けた。


夜が来た。


シオンが先に仮眠を取り、ユズが見張りに立った。


広間の奥に、砕けたコアの破片がある。


ガーネット師の手が、その上で静かに動いている。


光の見えない修復が続く。


闇の中で、ユズは一人立っていた。


怖くはなかった。


やるべきことがあるから、立っている。


それだけで、十分だった。


一人で立っている夜に、ガーネット師の言葉が浮かんだ。


怖さに慣れるんです。


そうか、とユズは思った。


師匠の「慣れた」も、同じことだったのかもしれない。


恐れを消すんじゃなくて、恐れと共に立つ。


それが経験だ。


ユズは静かに息を吐いた。


通路の奥は、変わらず暗かった。


でも、ここに立っていられる。


それで十分だった。


しばらくして、シオンが起きた。


「交代だ」


「はい」


ユズは壁に背をつけ、目を閉じた。


仮眠の中でも、手は双剣の鞘にかかっていた。


ダンジョンの深部に、何かが待っている。


明日の朝、修復は終わる。


そしてまた、深へ向かう。


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