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無人島で50年も修行したら、強くなりすぎたので弟子を育てる事にした  作者: ダイス
王都機密ダンジョン編

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エピソード20:月一報告

王城への道は、来た時と変わらなかった。


だが、ユズの目に映るものが違った。


道行く人々の顔。

屋台の煙。

石畳の継ぎ目。


ダンジョンの中で過ごした時間が、外の世界を少し違って見せる。


あそこには光がない。

音が違う。

空気の重さが違う。


外に出るたびに、自分がどこにいるかを確かめるような感覚がある。


昨日の夜、シオンと一緒に記録を整理した。


ゴーレムの欠片。

各階層で確認した導管の特徴。

実験区画の表記と場所。

魔物の異常活性化の状況。


書き出してみると、一枚の羊皮紙に収まらなかった。


シオンは淡々と整理し続け、ユズも横でそれを手伝った。


そうして初めて、自分たちがどれだけの情報を積み上げてきたかがわかった。


毎日、少しずつ。


ダンジョンの奥に近づいていた。


「緊張してますか、師匠」


「していない」


「私はしてます」


「そうか」


「師匠はなぜ緊張しないんですか」


「緊張しても変わらないからだ」


ユズはその言葉を嚙み締めた。


変わらないから、緊張しない。


そういう考え方もあるのか、と思った。


王城の門をくぐると、案内の衛兵が待っていた。


前回と同じ謁見室へ通される。


廊下が長い。


両側に飾られた武具や絵画が続く。


シオンは一切目もくれずに歩いた。


ユズも真似て前を向いた。


扉が開く前、ユズは一度だけ深く息を吸った。


国王が椅子に座っていた。


「よく来てくれた。報告を聞こう」


シオンが口を開いた。


「六階層でダンジョンコアの破片を発見しました。意図的に砕かれ、台座に置かれていた跡があります」


「コアが、か」


「はい。これが魔物の暴走の原因と見ています。修復には専門の魔法使いが必要です。また、コアの光は日ごとに強くなっています。状況は進行中です」


国王が少し眉を寄せた。


「七階層以降は」


「人工的に加工された構造です。誰かが長い時間をかけてダンジョンを改造している。魔力の導管が壁の中に刻まれており、八階層には実験に使われた台座の跡が複数あります」


シオンは懐から布に包んだ欠片を取り出した。


「ゴーレムの破片です。紋様は人工的なもので、自然生成ではありません」


国王が受け取り、手の中で静かに見た。


紋様の細かさに、表情が少し変わった。


「……『実験は続く』か」


「六階層の壁に刻まれていた文字です。九階層では『第二実験区画・転送路』という表記も確認しました。区画が複数存在しており、さらに深層に第一区画があると見ています」


沈黙があった。


国王が顎に手を当て、しばらく考えた。


「ダンジョンの外に魔物が溢れるまでに、どれくらいの時間があると思う」


「わかりません。ただ、コアの光が強くなるほど、限界は近くなります」


「急ぐ必要があるか」


「はい。ただし慎重に、です」


「お前たちの見立てでは、誰がやっていると思う」


シオンが少し考えた。


「知性を持つ者です。魔法の知識が深く、長期的な計画を実行できる。可能性として、魔族が高い」


国王がユズを見た。


ユズは姿勢を正した。


「お前はどう見る」


「罠の作り方が、とても丁寧でした。急いでいる部分と、慎重な部分が混在しています。目的が一つではないかもしれません」


「なぜそう思う」


「目的が一つなら、もっとシンプルなはずです。でも、守る必要のない場所に罠があり、魔物が守るように配置されていた。何かを隠している、という印象を受けました」


国王が少しだけ目を細めた。


「若いが、よく見ている」


「ありがとうございます」


「引き続き、頼む。追加の報酬はすでに手配してある。コアの修復については、専門家を手配する。ボスの撃破後は衛兵に申し出れば通す」


謁見が終わり、廊下に出ると、一人の老人が待っていた。


白い法衣を着ており、腰が少し曲がっている。


「コアの修復を担当するガーネット師だ」


衛兵が紹介した。


老人が頭を下げた。


「六階層まで同行させていただきます。保護をお願いできますか」


「もちろんです」


シオンが答えた。


「コアの状態によりますが、早ければ半日、長ければ三日で修復します。傍で守っていただければ、必ずやります」


「わかりました。よろしくお願いします」


ユズが頭を下げると、老人は少し嬉しそうな顔をした。


「若い方が護衛ですか。頼もしい」


「精一杯やります」


老人は穏やかな目をしていた。


手に細かい傷が多い。


長く魔法を使い続けてきた職人の手だ、とユズは思った。


王城の門を出ると、昼の日差しが降り注いでいた。


宿に戻ると、昼食の時間だった。


「明日からまた、ダンジョンですね」


「そうだな」


「怖くないといえば嘘ですけど……でも、行けると思います」


シオンが少し間を置いた。


「行ける」


断言だった。


スープを一口飲んだ。


温かかった。


今の自分なら、行ける。


その確信が、温かさと一緒に体に溶けていった。


食事を終え、夕方には双剣を手入れした。


明日から、また深く潜る。


ガーネット師を守りながら。


コアを修復しながら。


そして十階層のボスに向かいながら。


やることが多い。


でも、一つずつやればいい。


ユズはそう思って、剣を鞘に納めた。


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