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無人島で50年も修行したら、強くなりすぎたので弟子を育てる事にした  作者: ダイス
王都機密ダンジョン編

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エピソード 17 : 扉の向こう

七階層の奥は、さらに広くなっていた。


柱の列が続き、その先に扉が見える。


石造りの、重そうな扉だ。


天井の高さは昨日来た広間と同じだが、空気が違う。


魔力の密度が、わずかに増している。


深層から押し上げてくる何かが、ここにも届いている。


だが、その手前に、まず越えなければならないものがあった。


通路の左右から、二体のゴーレムが現れた。


昨日倒したものと同じ造りだ。


黒い紋様。

深紅の眼孔。


ただし、今回は二体同時だった。


「どうする」


シオンが問う。


ユズは一瞬だけ考えた。


「片方ずつ処理するより、両方を同時に動かした方がいいと思います。片方を誘って、もう片方の継ぎ目を狙います」


「やってみろ」


ユズは右のゴーレムに向かって走った。


注意を引くように、剣先を向ける。


ゴーレムが反応した。


腕を振り上げる。


その瞬間、ユズは急ブレーキをかけ、横へ跳んだ。


ゴーレムの腕が空を切る。


その隙に左のゴーレムへ回り込む。


膝の継ぎ目。


右の短剣を叩き込む。


昨日より、角度を意識した。


刃が、深く食い込んだ。


昨日の反省が、ちゃんと形になっていた。


亀裂が走る。


ゴーレムの右足が崩れかける。


「よし」


思わず声が出た。


だが、右のゴーレムがすでに向き直っている。


間に合わない。


「退け」


シオンの声と同時に、ユズは跳び下がった。


重力魔法が左のゴーレムを床に叩きつける。


砕け散った。


右のゴーレムがシオンに向かう。


シオンは動かなかった。


ゴーレムの腕が振り下ろされる寸前、黒月が一閃した。


継ぎ目ではなく、胴の中心だった。


斬れた。


上半身と下半身に分かれ、それぞれが倒れる。


「剣で斬るなら、継ぎ目じゃなくていいのか……」


ユズは呟いた。


「俺の剣と魔力があればな。お前にはまだ早い」


「わかりました」


簡潔な答えだったが、ユズには十分だった。


師匠は今の自分との差を、正確に伝えてくれる。


否定ではなく、現在地だ。


その言葉を地図代わりに、ユズは歩いている。


自分で戦術を考え、一体の膝を崩した。


右手の感触も、昨日より確かだ。


それだけで、今日は前に進んだと言えると思った。


二体を倒した広間を横切り、扉の前に立つ。


シオンが手をかざした。


魔力を探るような、静かな動作だ。


「向こうに何かいますか」


「気配は、ない」


「罠は」


「……ある」


シオンが扉の端を指さした。


細い溝が走っている。

金属の板が埋め込まれているようだ。


「五階層と同じ仕掛けか」


「もっと精巧だ。作った者が同じかもしれない」


ユズは扉の周囲を観察した。


溝の深さ、金属板の幅、魔力の流れ方。


「これ、扉を開けた瞬間に作動しますね。踏み板じゃなくて、開閉に連動してます」


シオンが少し目を細めた。


「気づいたか」


「たぶん、ですけど」


「合ってる」


シオンが懐から細い道具を取り出した。


解錠具だ。


冒険者が持ち歩く標準的なものではない。

もっと細く、精密な造りをしている。


扉の溝に差し込む。


数秒後、かすかな音がした。


「解除した」


「師匠、そういう道具も持っているんですね」


「必要だからな」


「無人島で、独学でですか」


「そうだな」


ユズは少し黙った。


無人島で、五十年。

罠の解除まで、一人で身につけた。


どんな日々だったのか、ユズには想像もつかない。


いつかは、ちゃんと聞いてみたいと思った。


扉を押すと、滑らかに開いた。


向こうは通路だった。


天井が低く、壁が迫っている。


七階層の広間とは、作りが違う。


空気も変わった。


湿った、冷たい匂いがする。


石と泥が混ざったような、地の底の匂いだ。


「構造が変わりましたね」


「八階層に近づいている」


ユズは通路の先を見た。


暗い。

奥まで見えない。


魔力の流れが、ここでも深層から上に向かっている。


何かが、奥で動いている。


その気配が、ユズの肌にかすかに届いた。


「師匠」


「なんだ」


「今日はここまでにしますか」


シオンが少し考えた。


「そうだな」


珍しく、すぐに同意した。


「情報が多い。整理してから進む」


二人は来た道を戻り始めた。


足元で、低い振動が続いていた。


昨日より、少しだけ強くなっている気がした。


宿に戻ったのは、日が沈みかける頃だった。


シオンがテーブルに昨日回収したゴーレムの欠片を置いた。


「今日の罠の仕掛けと、これは同じ人間の手だと思う」


「なぜですか」


「精度が似ている。素材も、似た魔力の癖がある」


ユズは欠片を見た。


黒い紋様。

細かく、整然と刻まれている。


誰かが、丁寧に、時間をかけて刻んだ跡だ。


「魔族の技術ですか」


「わからん。だが、一般的な職人の仕事じゃない」


「月一の報告が近い。そのときに王城に持っていく」


シオンは欠片を布に包み、懐にしまった。


ユズは窓の外を見た。


夕暮れが街を染めている。


調べなければならないことが、また一つ増えた。


それでも、足は止まらない。


八階層。

九階層。

そして十階層のボス。


先は長い。


「師匠」


「なんだ」


「明日も、行きます」


「そうだな」


シオンは目を閉じた。


それだけで、十分だった。


ユズも双剣を手入れしながら、目を閉じた。


夜はまだ、始まったばかりだった。


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