エピソード 13 : ユズの試み
四階層を進みながら、ユズは考え続けていた。
魔法で状況を作り、剣で仕留める。
シオンの言葉が頭に残っていた。
昨日のオーガとの戦いは、あっという間だった。
重力魔法で巨体を地に縫い付け、無駄のない一閃で終わらせる。
派手さは一切ない。
だが確実だった。
自分には重力魔法はない。
だが身体強化と属性魔法はある。
火、水、風、土、雷。
どれが使えるか。
炎は広間なら有効だが、通路では壁に当たる。
水や土は動きを鈍らせるのに使えるかもしれない。
雷は一点に集中できる。
そして風は。
足元に叩きつければ、体勢を崩せるかもしれない。
ユズは歩きながら、頭の中で組み合わせを試していた。
「師匠」
「なんだ」
「少し試していいですか。次の魔物で」
シオンはちらりとユズを見る。
「何を試す」
「魔法で状況を作ってから剣を使う、というのを」
「具体的には」
ユズは少し考えた。
「風魔法で相手の動きを乱して、その隙に踏み込む、という感じで」
シオンは少し黙った。
「風魔法で動きを乱す。どうやって」
「相手の足元に向けて風を叩きつける。体勢を崩す」
「なるほど」
シオンは頷く。
「やってみろ。ただし」
「はい」
「うまくいかなかった時の引き際を決めておけ」
「わかりました」
───
しばらく進むと、広間に出た。
中央に二匹。
リザードマンだった。
ただし体の一部に黒い染みがある。
四階層の異常個体だ。
ユズは立ち止まった。
二匹。
どちらも体に染みがある。
純粋な力では、一階層二階層の敵より手強い。
「行きます」
一歩踏み出す。
リザードマンが気づく。
二匹同時にこちらを向いた。
ユズは右手に意識を集める。
風魔法。
「風」
手のひらに風が集まる。
それを一気に放つ。
低い位置へ。
二匹の足元に向けて叩きつける。
風が床を走る。
リザードマンの一匹が体勢を崩した。
よろける。
「今だ」
ユズは踏み込んだ。
体勢を崩した一匹へ。
身体強化で速度を上げる。
一瞬で距離を詰める。
双剣を振る。
喉を狙う。
ズバッ。
一匹目が倒れた。
だが。
もう一匹が来ていた。
風の影響を受けなかった方だ。
体勢が崩れていない。
速い。
ユズは体を捻る。
爪が肩をかすめた。
「っ」
痛みが走る。
浅い。
だが確かに当たった。
距離を取る。
肩を確認する。
防具が裂けている。皮膚は無事だ。
「止まれ」
シオンの声。
ユズは後退した。
リザードマンが追おうとする。
シオンが一歩前に出る。
それだけで、リザードマンが止まった。
気配に当てられたのだ。
シオンはユズを見る。
「肩は?」
「大丈夫です。浅いです」
「続けるか」
「はい」
シオンは後退する。
リザードマンの視線がまたユズに戻る。
ユズは息を整えた。
風で崩す。
一匹目はうまくいった。
二匹同時だったのが問題だった。
一匹ずつやればいい。
「風」
今度は一匹だけに向けて。
集中した風を足元へ。
リザードマンが体勢を崩す。
踏み込む。
身体強化。
速度を上げる。
喉へ。
ズバッ。
倒れた。
静寂が戻る。
ユズは双剣を下ろした。
「……できました」
シオンは歩いてくる。
「肩を見せろ」
ユズは素直に従う。
シオンは傷を確認する。
「防具で止まっている。問題ない」
「ただ」
「はい」
「二匹同時に風を当てようとしたのが失敗だ」
「そうですね。威力が分散しました」
「それだけじゃない」
シオンは言う。
「風で崩せるのは一匹だった。もう一匹は普通に来る。それを考えていたか」
ユズは少し考えた。
「……考えていませんでした」
「魔法を使う時は、使った後の状況まで想定しろ」
「魔法は使いっぱなしにするものじゃない」
ユズは深く頷いた。
「わかりました」
「でも、基本的な方向は合っている」
シオンは短く言う。
ユズは少し顔が明るくなった。
「ありがとうございます」
「礼はいい。次に活かせ」
「はい」
シオンはユズの双剣を見た。
刃に細かな傷がついている。
戦闘でできたものだ。
「双剣の調子はどうだ」
「良いです。手に馴染んでます」
「グルンデルの目は確かだったな」
ユズは双剣を見て、少し笑った。
「ダンジョン深層で手に入れたって言ってましたね」
「ああ」
「あの爺さんも、相当な場所まで行ったんだろう」
ユズはグルンデルのずんぐりとした姿を思い出した。
豪快な笑顔。
それでいて武器に向ける目は、鍛冶師そのものだった。
良い武器を持てた、とユズは改めて思った。
ユズは双剣を鞘に収めた。
風魔法と身体強化の連携。
まだ荒削りだ。
二匹同時への対応が甘かった。
魔法を使った後の動きを読めていなかった。
だが、形は見えた気がした。
磨けば使える。
繰り返せばもっと速く、もっと正確になる。
「師匠」
通路を歩きながらユズは言う。
「なんだ」
「次は土魔法も試していいですか」
「何に使う」
「足元に土の隆起を作って、動きを止める。その後に踏み込む」
シオンは少し考えた。
「発想は悪くない。だが」
「はい」
「土魔法の消費は風より大きい。連戦の中で乱用すると後半に響く」
「……それは気をつけます」
「使うタイミングを選べ。ここぞという時だけ使え」
「わかりました」
ユズは頷いた。
魔力の配分。
戦闘の組み立て。
一つひとつが、まだ課題だ。
だが確実に、昨日より見えているものが増えていた。
ユズはそれを感じながら、通路の奥へと歩き出した。




