表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無人島で50年も修行したら、強くなりすぎたので弟子を育てる事にした  作者: ダイス
王都機密ダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/80

エピソード7:黒刀

一週間が過ぎた。


王都の朝は今日も賑やかだった。


石畳を歩きながら、ユズは少しそわそわしていた。


「師匠」


「なんだ」


「今日、刀できてますよね」


シオンは前を向いたまま答える。


「一週間と言っていたからな」


「楽しみですね!」


「……まあな」


わずかに口元が緩む。


シオンとて、気にならないわけではなかった。

あの黒鋼石がどんな刀になるのか。

グルンデルの腕がどこまでのものか。


五十年間、刀を探し続けた。

鍛冶屋を訪れるたびに、刀を手に取るたびに、どこかしっくりこないものがあった。

重すぎる。軽すぎる。刃の反りが合わない。

細かなことかもしれないが、長年体に染みついた感覚は正直だった。


今回は違う気がした。


やがて見慣れた外壁が見えてくる。

黒く煤けた武器屋。


扉を押すと、金属と油の匂いが漂う。

だが今日はそれだけではなかった。


熱の残り香。

鉄を打った後の独特の空気。


グルンデルが奥から現れた。


いつもより少し疲れた顔をしている。

目の下に隈がある。

だがその目は爛々と輝いていた。


「来たか」


「はい。できましたか?」


グルンデルは無言で頷く。

そのまま奥へ引っ込んだ。


ユズはわくわくしながら待つ。

シオンは静かに立っていた。


しばらくして。


グルンデルが戻ってきた。


その手に、布に包まれた細長いものを抱えている。

丁寧に、両手で。


カウンターの上に、静かに置いた。


「……見てみろ」


シオンは一歩前に出る。


布をゆっくりほどく。


現れたのは。


黒い刀だった。


鞘も黒。柄も黒。全身が黒に統一されている。

装飾は一切ない。ただ無骨に、黒い。

だがそれが逆に、ただならぬ存在感を放っていた。


シオンは鞘を手に取った。


ずしりとした重さ。

だが不思議と、重さが気にならない。


柄を握る。


吸い付くような感覚。


鞘から静かに抜いた。


刀身が現れる。


黒銀の刃。

鋼の中に黒い結晶が溶け込み、刃紋のように走っている。

光を受けると、深い輝きが浮かぶ。美しい、というより、静かだった。


シオンは刀を立てた。


重い。

普通の刀より、確かに重い。


だが。


「……悪くない」


思わず声が出た。


グルンデルは腕を組んで見ている。


「どうじゃ」


「非常に良いです」


「そうじゃろ」


グルンデルは少し得意そうな顔をした。


「黒鋼石は硬すぎて、普通の炉では溶けん」

「魔炉で三日かけて溶かした」

「刃をつけるのにさらに二日」

「柄と合わせるのに一日」


「……一週間、ほとんど寝ずにやったわい」


シオンは静かに頭を下げる。


「ありがとうございます」


グルンデルは豪快に笑う。


「礼はいらん。良い仕事ができた。それで十分じゃ」


シオンはもう一度、刀を構えてみる。


腰を落とす。

右足を引く。

刀を横に払う。


ひゅん。


重いはずの刃が、滑らかに空気を切った。


次いで縦に振り下ろす。

また払う。

突く。


「……」


五十年間。


木の枝で、石で、流木で。

ありとあらゆるものを刀の代わりにして修行した。

島で出会った魔物を、素手で、あるいは粗末な刃で倒し続けた。


だがこれは違う。


これは本物だ。


シオンは刀を鞘に収めた。


ユズがそっと声をかける。


「師匠、どうですか?」


「良い刀だ」


その一言に、ユズは嬉しそうに笑った。


「でしょう! すごく格好いいです!」


グルンデルがユズを見る。


「お嬢ちゃん、何か言いたそうじゃな」


ユズは少し考える顔をして、シオンを見た。


「師匠、この刀、名前をつけませんか?」


シオンは少し驚いた顔をする。


「……名前?」


「はい。こんなに格好いい刀なのに、無名は勿体ないです」


シオンは刀を見る。


黒い鞘。黒い刃。


名前か。


五十年間、道具に名前をつけることはなかった。

島にあったものはすべて、ただの道具だった。

誰かに見せるわけでもなく、誰かと話すわけでもなく。

ただ修行のために、生き延びるために使うだけだった。


「何かあるか」


ユズは少し考えた。


夜空のような黒。

静かで、深い。

月が出ていない夜の、濃い闇の色。


「……黒月、はどうですか」


「黒月」


「はい。黒くて、夜の月みたいに静かな感じがするので」


シオンは鞘を見つめた。


黒月。


「……そうだな」


「決まりですね! 黒月!」


ユズは嬉しそうに笑う。


グルンデルも満足そうに頷いた。


「黒月か。良い名じゃ」


「じゃあわしが彫っといてやろう。鞘の根元に入れてやる。少し待て」


グルンデルは刀を受け取り、奥へ消えた。


金属を削る小さな音が聞こえてくる。


しばらくして戻ってくる。


鞘の根元。

小さく、丁寧な文字で。


「黒月」


と刻まれていた。


シオンはそれを見て、静かに刀を受け取る。


「……ありがとうございます」


グルンデルは笑う。


「弟子が良い名をつけてくれたのぉ」


ユズは少し照れた顔をした。


シオンは黒月を腰に差した。


重さが馴染む。


まるで最初からここにあったかのように。


「さて」


ユズが顔を上げる。


「明日は王城だ」


「そうでした!」


ユズは背筋を伸ばす。


「緊張しますね……」


「普通にしていればいい」


「師匠は緊張しないんですか?」


「しない」


即答だった。


ユズは苦笑する。


「さすがです」


グルンデルが二人を見比べて笑う。


「王城か。しっかりやってこい」


「はい」


「ありがとうございました」


二人は武器屋を出た。


王都の陽光が降り注ぐ。


シオンは腰の黒月に、ふと手をやる。


黒月。


ユズがつけた名前。


五十年間の孤独の中で。

誰かに名前をつけてもらうことなど、考えたこともなかった。


「師匠」


「なんだ」


「明日、頑張りましょうね」


シオンは前を向いたまま答える。


「ああ」


王城への謁見は、明日だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ