エピソード 6 : 疑い
「新人。本当にお前がやったのか?」
低い声だった。
筋肉質の冒険者が
ユズを睨んでいる。
腕を組み、
露骨に疑う目だ。
ギルドの視線が
一斉に集まる。
周囲の冒険者たちも
興味深そうに
こちらを見ている。
ユズは落ち着いて答える。
「はい。私が倒しました」
男は鼻で笑った。
「嘘くせぇな。新人がゴブリン二十七匹?しかも巣だと?」
近くの冒険者が
口を挟む。
「普通は無理だろ」
「一匹二匹ならともかく」
別の男も言う。
「巣ってことは十匹以上いるぞ」
「新人の仕事じゃねえ」
ざわざわと
疑いの声が広がる。
ユズは少し困った顔で
シオンを見る。
シオンは落ち着いた声で言う。
「気にするな。事実なんだからな」
その言葉に
冒険者が眉をひそめた。
「随分余裕だな」
男は一歩前に出る。
「証明してみろよ」
ユズは少し考える。
「証明、ですか」
男は笑った。
「そうだ。口だけなら誰でも言える」
周囲の冒険者たちも
面白がり始めていた。
「やれやれ」
「新人が大口叩くとこうなる」
ユズは
小さく息を吐いた。
「どうしましょう」
シオンは軽く肩をすくめる。
「好きにしろ。どうせすぐ分かる」
男は
さらに挑発する。
「どうした?できないのか?」
ユズは少しだけ考え、
背中の双剣を外した。
カチャリ。
鞘から刃を抜く。
ギルドの灯りが
刀身に反射した。
細く、
鋭い刃。
それを見て
何人かの冒険者が呟く。
「……双剣か」
ユズは周囲を見た。
ギルドの柱。
太い木柱が
天井を支えている。
ユズは
その柱に向かった。
男が笑う。
「おいおい、柱壊す気か?」
ユズは答えない。
静かに双剣を構える。
その瞬間。
風が
わずかに動いた。
シオンは小さく笑う。
「お、もう気づいたか」
ユズの双剣。
刀身に
わずかな風が纏う。
次の瞬間。
シュン。
風が走った。
一瞬だった。
ユズは
すでに剣を下ろしていた。
誰も
何が起きたか
分からなかった。
男が言う。
「……は?」
その時だった。
ギルド奥の扉が
ゆっくり開いた。
ギィ……
重い音が響く。
冒険者たちが
一斉に振り向く。
そこから
大柄な男が歩いてきた。
ギルドマスターだった。
背が高く、
分厚い肩。
無言で歩くだけで
空気が変わる。
先ほどまで騒いでいた
冒険者たちが
自然と道を開けた。
男はゆっくり歩き、
ユズたちの前で止まる。
まず
カウンターを見る。
並べられた耳。
二十七。
次に
ユズを見る。
そして
シオンを見る。
「……お前がシオンか」
低い声だった。
シオンは軽く頭を下げる。
「はい」
ギルドマスターは腕を組む。
「報告は聞いている。地方で魔将獣を倒した冒険者だな」
その言葉で
ギルドがどよめいた。
「魔将獣?」
「Sランク級だぞ」
「マジかよ」
シオンは困った顔をする。
「大げさですよ」
ギルドマスターは
短く言う。
「大げさではない」
そして
視線を動かした。
ユズだった。
「それで?」
顎で示す。
「この新人がゴブリン二十七匹か」
受付嬢が
慌てて頷く。
「は、はい。討伐証明も確認しました」
ギルドマスターは
耳を見る。
そして
床を見る。
柱を見る。
静かに言った。
「なるほど」
その時
さっきの冒険者が言う。
「ギルマス!でも新人ですよ!そんな簡単に信じるんですか!」
男はまだ
納得していない。
ギルドマスターは
ゆっくり振り向く。
そして言う。
「柱を見ろ」
全員が
柱を見る。
次の瞬間。
ミシッ。
柱の上部が
ゆっくりと滑った。
ズレた。
切れていた。
誰も
気づかなかった。
あまりにも
滑らかな斬撃。
冒険者たちが
凍りつく。
「……今のか?」
「いつ斬った?」
男は
言葉を失った。
ユズは
少し困った顔をする。
「証明になりましたか?」
ギルドマスターは
小さく息を吐いた。
「十分だ」
そして
ユズを見る。
「新人」
低い声で言う。
「名前は?」
ユズは
姿勢を正す。
「ユズです」
ギルドマスターは
ゆっくり頷いた。
「覚えておこう」
その一言で
ギルドがまた
ざわめいた。




