エピソード4 : 双剣の慣らし
エピソード4
双剣の慣らし
王都の外れに広がる森は
昼でも薄暗かった。
高い木々が空を覆い
湿った土の匂いが漂う。
ユズは腰の双剣に
手をかける。
「この辺りなら
出そうですね」
シオンは周囲を
軽く見回した。
「そうだな」
「ゴブリンなら
すぐ見つかるだろ」
その時だった。
茂みがガサリと揺れる。
小さな影が
飛び出してきた。
「ギャッ!」
ゴブリンだ。
一匹ではない。
次々と姿を現す。
全部で六匹。
棍棒を振り上げ
こちらへ走ってくる。
ユズは双剣を抜いた。
ヒュン、と
空気を裂く音。
「行きます!」
地面を蹴る。
その瞬間だった。
体が軽くなる。
風が背中を
押すような感覚。
「速い…!」
思った以上に
前へ出た。
一匹目。
双剣を振る。
ズバッ。
ほとんど抵抗もなく
首が飛んだ。
二匹目が
棍棒を振り下ろす。
ユズは体をひねる。
そのまま横薙ぎ。
ズバッ。
胴体が裂けた。
三匹目が
後ろから飛びかかる。
ユズは振り向く。
双剣が閃く。
ズバッ。
ゴブリンが倒れる。
「切れ味も
すごいですね」
四匹目。
踏み込みながら
双剣を振る。
ズバッ。
五匹目。
ほとんど反応も
出来なかった。
ゴブリンが
地面に崩れる。
残るは一匹。
ゴブリンは
怯えた顔で後ずさる。
「ギッ…!」
背を向けて
逃げ出した。
ユズは踏み込む。
その瞬間。
「待て」
シオンの声。
ユズはぴたりと止まる。
ゴブリンはそのまま
森の奥へ逃げていった。
ユズは振り返る。
「師匠?」
シオンは
逃げた方向を見る。
「逃がせ」
「たぶん巣に戻る」
ユズの目が
輝いた。
「ああ、なるほど」
「巣を見つけるんですね」
シオンは頷く。
「そうだ」
「双剣の慣らしにも
ちょうどいい」
ユズは嬉しそうに笑う。
「それ最高ですね」
二人は
逃げたゴブリンの跡を
追い始めた。
折れた枝。
小さな足跡。
それを辿りながら
森の奥へ進む。
しばらく歩くと
岩壁が見えてきた。
その下に
小さな洞穴がある。
入口は暗く
中から腐臭が漂う。
そして――
「ギャッ」
「ギギッ」
ゴブリンの声。
ユズは双剣を握る。
「ここですね」
シオンは
洞穴を見つめる。
「巣だな」
「数もいそうだ」
ユズは少し笑う。
「いっぱい
試せそうですね」
シオンは
軽く顎を引く。
「好きにやれ」
「慣らしだろ」
ユズは頷いた。
「はい!」
洞穴へ踏み込む。
奥にいたゴブリンが
こちらに気づく。
「ギャッ!」
警戒の叫び。
棍棒を持った
ゴブリン達が走る。
ユズは踏み込んだ。
その瞬間。
また風が体を押す。
速い。
一瞬で距離が縮む。
双剣が閃く。
ズバッ。
一匹目。
続けてもう一閃。
ズバッ。
二匹目。
三匹目が
飛びかかる。
ユズは双剣に
魔力を流した。
その瞬間。
刀身が
わずかに伸びる。
「やっぱり…!」
本来なら
届かない距離。
だが刃が届く。
ズバッ。
ゴブリンが倒れた。
洞穴の奥から
さらにゴブリンが現れる。
十匹以上。
ユズは笑った。
「良いですね」
「どんどん
来てください」
踏み込む。
斬る。
斬る。
斬る。
双剣が円を描くたび
ゴブリンが倒れていく。
魔力を流す。
刃が伸びる。
距離を無視して
斬り裂く。
洞穴に悲鳴が響く。
風のように動き
ユズは止まらない。
やがて――
最後の一匹が
震えながら立っていた。
ユズは歩み寄る。
「ごめんなさいね」
双剣が閃く。
ズバッ。
静寂が戻った。
洞穴の中には
ゴブリンの死体が
積み重なっている。
ユズは息を整えた。
「ふぅ…」
双剣を見る。
刃はほとんど
汚れていない。
「切れ味も良いし」
「風で体も軽い」
「それに――」
魔力を流す。
刃が少し伸びる。
「この伸びるの
便利ですね」
その時。
シオンが
洞穴へ入ってきた。
周囲を見渡す。
「結構いるな」
ユズは苦笑する。
「耳回収
大変そうですね」
シオンは
淡々と言う。
「依頼だからな」
ユズは肩をすくめた。
「ですよね」
こうして二人は
山のような
ゴブリンの死体から
討伐証明の耳を
回収することになった。
この数が後に
ギルドを騒がせることを
二人はまだ
知らなかった。




