エピソード3 : 王都の仕立て屋
ドワーフの武器屋を出ると、王都の大通りには昼の賑わいが広がっていた。
石畳を行き交う人々。
商人の呼び声。
冒険者たちの笑い声。
無人島で長い年月を過ごしてきたシオンにとって、この喧騒はいまだ少し騒がしく感じる。
「……相変わらず人が多いな」
ぼそりと呟く。
その隣でユズが、ふと思い出したように声を上げた。
「あ、師匠」
「なんだ」
「王城からの手紙に、仕立て屋の紹介状も入ってました」
ユズはポーチから封筒を取り出す。
王城の紋章が刻まれた召集状。
その中に、もう一枚の紙が挟まれていた。
シオンはそれをちらりと見る。
「……服か」
王城に呼ばれている以上、あまりみすぼらしい格好というわけにもいかない。
「行くか」
「はい、師匠!」
ユズは元気よく頷いた。
───
王都中心区。
市場とは違い、落ち着いた通りだった。
宝石店。
高級武具店。
魔道具店。
その一角に、静かな佇まいの店がある。
看板には美しい文字。
『月糸の仕立て屋』
扉を開くと、小さな鈴が鳴った。
店内には上品な香りが漂い、色とりどりの布地や装備が整然と並んでいる。
奥から一人の女性が現れた。
長い銀髪。
透き通るような白い肌。
そして細く長い耳。
エルフだった。
見た目は二十代後半ほど。
だが、その瞳には長い年月を生きた者の落ち着きがある。
女性は優雅に微笑んだ。
「いらっしゃいませ」
ユズは少し緊張しながら紹介状を差し出す。
「王城からの紹介で来ました」
女性は手紙に目を通し、静かに頷いた。
「承知いたしました」
「私はこの店の店主、エルミナと申します」
優雅に一礼する。
そして柔らかく尋ねた。
「それで、本日はどのような品をお探しでしょうか?」
シオンが答える。
「王城に呼ばれてまして。最低限まともな装備が必要でして、いくつか見繕ってもらえませんか?」
エルミナは視線をユズへ向けた。
「あなたは軽装の方がよろしそうですね」
「はい! 双剣を使います!」
「なるほど」
エルミナは静かに微笑む。
「では、いくつかご提案いたします」
───
エルミナは棚から一着の外套を取り出した。
黒い外套。
光を受けると、わずかに鈍い光沢が浮かぶ。
「こちらはブラックワイバーンの皮を使用した外套です」
ユズが目を丸くする。
「ブラックワイバーン!?」
「ええ。上位種の飛竜です」
エルミナは布地を指でなぞる。
「非常に強靭で、魔法耐性にも優れております」
外套の内側をめくる。
「内側には魔繊布を使用しております」
「魔繊布?」
「魔力の流れを妨げない特殊繊維です。魔法を扱う方には非常に相性が良い素材ですね」
さらに縫い目を指差す。
「縫製にはミスリルの銀糸を使っています」
軽く、強く、魔力伝導も優れている金属糸。
まさに魔法使い用の高級装備だった。
「試してみますか?」
シオンは外套を受け取り、羽織る。
驚くほど軽い。
ブラックワイバーンの皮とは思えないほど、動きを邪魔しない。
「……悪くない」
エルミナは満足そうに微笑んだ。
───
次にユズの装備。
エルミナは軽装防具を取り出した。
黒に近い深い茶色の革装備。
「影鹿の革です」
「影鹿?」
「森の深部に棲む魔物です」
エルミナは革を軽く曲げて見せる。
柔らかい。
「非常に軽く、柔軟性が高い」
「さらに足音がほとんど出ません」
双剣使いには理想的な素材だった。
「そしてこちら」
腰装備を取り出す。
「双剣ホルダーです」
左右に剣を装着する構造。
抜刀が非常に速い。
ユズは装備してみる。
体を動かす。
軽い。
まるで何も着けていないようだった。
「すごい……!」
思わず笑顔になる。
ユズは振り返った。
「どうですか、師匠!」
シオンは一度見て言った。
「……似合ってる」
「ありがとうございます!」
ユズは嬉しそうに笑う。
エルミナも優しく微笑んだ。
「とてもお似合いですよ」
───
細かな調整が終わる。
ベルト位置。
革の締め具合。
外套の丈。
すべてが完璧に整えられた。
「これで問題ございません」
エルミナは丁寧に頭を下げる。
「また何かございましたら、いつでもお越しください」
店を出ると、王都の空気が少し軽く感じられた。
ユズは腕を軽く動かす。
新しい装備。
体に馴染む感覚。
「師匠」
「なんだ」
「武器が完成するまで一週間ありますよね」
「ああ」
ユズは少しわくわくした顔になる。
「それまで、軽く魔物討伐しませんか?」
双剣の慣らし。
シオンは少し考えた。
「……そうだな」
王都の外なら、ちょうどいい相手がいるだろう。
「行くぞ」
「はい、師匠!」
二人は王都の門へ向かって歩き出した。




