エピソード22:王命、届く
同じ頃。
辺境都市リュスト。
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朝のギルドは、いつもより静かだった。
前日の騒ぎが嘘のように、人々はどこか落ち着かない様子で動いている。
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シオンは、ギルド奥の休憩室で、静かに茶を飲んでいた。
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「……少し、騒ぎすぎたな」
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向かいでは、ユズが背筋を伸ばして座っている。
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「で、でも……師匠が英雄扱いされるの、すごいです……」
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「慣れないな」
シオンは正直に答えた。
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その時だった。
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廊下の奥から、慌ただしい足音が近づいてくる。
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「ギルド長! 到着しました!」
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職員の叫び声。
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直後。
重厚な扉が開かれた。
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中に入ってきたのは、白と金の外套をまとった一団だった。
中央には、威厳ある中年の男。
胸には、王都直属を示す紋章。
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「……王都の使者か」
ギルド長が、低く呟く。
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使者は一礼する。
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「王国より参りました」
「冒険者シオン殿に、御用がございます」
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ホールが、一瞬で静まり返る。
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「……俺か」
シオンは立ち上がった。
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「シオン殿」
使者が近づく。
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「こちらを」
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差し出されたのは、金の封蝋で閉じられた書状。
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王家の紋章が、はっきり刻まれている。
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ユズが、息を呑む。
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「……師匠……それ……」
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シオンは黙って受け取り、封を切った。
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中には、端正な文字で記された命令文。
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『魔将獣討伐の功績を称え、王都へ召集する』
『国王陛下、直々の命である』
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短く、しかし重い文章だった。
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周囲がざわめく。
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「王命……」
「すげえ……本物だ……」
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ギルド長が前に出る。
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「……間違いありませんな?」
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「はい」
使者ははっきり答えた。
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「陛下自らの決定です」
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沈黙。
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数秒後。
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「……分かりました」
シオンが口を開いた。
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「いつ出発すればいい?」
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「三日以内に、王都へ」
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「分かった」
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即答だった。
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ユズが、少し不安そうに尋ねる。
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「師匠……行くんですよね……?」
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「ああ」
シオンは頷く。
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「国からの命令だ」
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「……はい!」
ユズは強くうなずいた。
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その日の夕方。
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宿の部屋。
荷物をまとめながら、ユズがぽつりと言う。
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「……王様に、会うんですよね……」
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「そうなるな」
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「……こわいです……」
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「俺もだ」
シオンは正直に答えた。
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「だが、逃げるわけにはいかない」
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窓の外。
夕焼けに染まる街。
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ここは、二人が成長してきた場所だった。
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「……ここから、もっと大きな世界に行くんだな」
ユズが呟く。
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「ああ」
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三日後。
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王都行きの馬車が、街門の前に停まった。
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冒険者、住民、ギルド職員。
多くの人が見送りに集まっている。
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「気をつけろよ!」
「英雄!」
「戻ってこいよ!」
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声が飛ぶ。
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シオンは軽く頭を下げた。
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「世話になった」
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ユズも、深く礼をする。
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「ありがとうございました!」
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馬車に乗り込む。
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御者が手綱を打つ。
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ガタン、と車輪が動き出す。
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辺境都市リュストが、少しずつ遠ざかっていく。
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ユズが、隣で呟く。
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「……師匠」
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「どうした」
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「……もっと、強くなります」
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「そうしろ」
シオンは微笑した。
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「王都は、甘くない」
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こうして。
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英雄と弟子は、国家の中心へ向かう。
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新たな戦いと運命が、待つ場所へ――。




