エピソード18 : Aランク初任務
辺境都市ラルス。
冒険者ギルドの掲示板前は、朝から人で溢れていた。
「……これか」
シオンは、一枚の依頼書を見つめる。
――Aランク指定依頼。
――旧鉱山に巣食う魔獣群の殲滅。
「旧鉱山……危険度、高そうですね」
隣でユズが小さく呟く。
「だからAランクだ」
シオンは淡々と答え、依頼書を剥がした。
周囲の冒険者たちが、ざわつく。
「一人で受けるのか……?」
「しかも弟子連れ……正気か?」
だが、シオンは気にしない。
受付で手続きを済ませ、二人は街を出た。
◇
目的地の旧鉱山は、街から半日ほどの距離にあった。
岩肌が剥き出しになった山腹。
崩れかけた坑道が、暗闇へと続いている。
「……空気、重たいですね」
「魔力が淀んでいる」
シオンは眉をひそめた。
「内部に、かなりの数がいるな」
二人は慎重に中へ入る。
◇
坑道の奥。
低いうなり声が響いた。
「……来ます!」
闇の中から現れたのは、黒い皮膚を持つ魔獣たちだった。
猿に似た体型、鋭い爪。
三体、四体、五体。
「数が多い……!」
「慌てるな」
シオンは一歩前に出る。
「まずは間引く」
――重力操作。
周囲の空間が歪んだ。
「……っ!?」
魔獣たちの身体が、地面に叩きつけられる。
骨が砕ける音。
一瞬で三体が沈黙した。
「す、すご……」
「見惚れるな。次が来る」
◇
さらに奥へ進むと、広い空洞に出た。
そこには――。
「……巣、ですね」
岩壁に無数の穴。
床には魔獣の死骸と骨。
中央に、巨大な影が立っていた。
赤い瞳。
通常の倍以上の体格。
群れを統べる、上位種。
「ボス個体か」
魔獣が咆哮を上げる。
同時に、周囲から十数体が現れた。
「ユズ、後衛支援」
「はい!」
戦闘開始だった。
◇
「氷結陣――!」
ユズが地面に魔法陣を展開する。
冷気が広がり、魔獣の動きが鈍る。
「よし」
シオンは跳躍した。
空中で体勢を変え、拳を突き出す。
「圧縮――衝撃」
圧縮された魔力が炸裂。
前列の魔獣が吹き飛ぶ。
だが、ボス個体は耐えた。
「……硬いな」
巨大な爪が振り下ろされる。
シオンは紙一重で回避。
「師匠!」
「問題ない」
◇
今度は、ユズが前に出た。
「私も……戦えます!」
彼女は深く息を吸う。
「氷刃生成――」
右手に、透明な氷の剣が形成される。
シオンが一瞬だけ目を細めた。
「……成長したな」
ユズは駆け出した。
凍った地面を利用し、滑るように接近。
魔獣の足元を斬る。
「ギィィッ!」
動きが止まった。
「今だ」
シオンが呟く。
――重力反転。
魔獣の身体が一瞬、浮く。
その隙に――。
「はああっ!」
ユズの剣が閃いた。
首元を正確に捉える。
血飛沫と共に、巨体が崩れ落ちた。
◇
沈黙。
残った魔獣たちは、すでに動かない。
「……終わりました」
ユズは剣を消し、座り込んだ。
肩で息をする。
「初任務としては、上出来だ」
シオンは素直に評価した。
「本当ですか……?」
「ああ。Aランク相当だ」
ユズは、嬉しそうに笑った。
◇
帰還後。
ギルドは騒然となった。
「単独討伐……!?」
「しかもボスまで……」
受付嬢も目を丸くする。
「依頼、達成確認しました……」
報酬袋が差し出された。
高額だった。
「……これが、Aランクか」
ユズは呆然と呟く。
「まだ序盤だ」
シオンは淡々と言う。
「ここから、もっと厄介になる」
だが、その背中はどこか誇らしげだった。
弟子は、確実に育っている。
次の戦場は、さらに過酷になる――。




