アイリスさん、出番です
日本語じゃないのは間違いなく、英語……でもないよな、これ。
俺は刹那さんと真砂さんの方に視線を送ってみたが、意図を汲み取ってくれた二人の反応は双方ともに首を振るというものだった。
そもそもの話ダンジョンに海外の人間がいる可能性はあまりないんだが、帰還者であれば一応可能性がある。
何を言っているかわからないからまともに意思の疎通ができている訳ではないので、そもそもモンスターと同種でダンジョンが作り出した存在の可能性もあるが。
ダンジョンのモンスターはあくまで異界の存在を映しているだけであり、言うなればプログラミングされた内容通りに動くゲームのエネミーのようなものだ。一件知性を持っているような連中もいるが、意思の疎通もできない。こいつらが発しているものは一見言語のように聞こえるが、ただの鳴き声のようなものの可能性もある。
後は、アメルとラメルのような異世界人の可能性もあるが……
《くーおーんー?》
ん? 何だよアイリス。
《ここはお姉さんに頼る場面じゃない?》
お姉……さん?
《ちょっとなんで疑問系なのよ。これまで力を貸し、成長を見守ってきたお姉さんポジションでしょ私は》
いや、どう考えてもただの民間人を戦いの中に引きずり込んだ邪悪なマスコット枠では?
《邪悪はひどくない!? 私神様だよ?》
自称元神様の一部だろ。それよりなんだよ?
《むー、まぁいいわ。まず最初に伝えておくけど、この子たちはダンジョンの生み出したレプリカではないわ。ちゃんとした生命体》
ふむ。
《その上で意思の疎通ができないなら……私がいるでしょ》
あ、そっか。アイリスは言語通じない相手でも意思の疎通ができるんだった、アメルとラメルとの時みたいに。モンスターじゃなくて生命体なら倒して終わりってわけにもいかないしな、うん、アイリス頼む。
《あー、でもなー、邪悪だって言われたしなー》
よろしくお願いしますアイリスお姉様。
《……いや、そうあっさり言われても何か違う気がするんだけど……まぁいいわ。一応動かないように固定しておいて》
OK。
俺は小さな結界を作り、頭、腕、肩、腰を固定する。まぁ上半身が動かなければ問題ないだろう。
ディバインアームズから伸びるケーブルに彼らは目を見開きそれから逃れようとするが、結界に完全固定されているので全く動くことができない、そうしている間にケーブルが彼らの頭部に触れる。
それでも彼らはなんとか逃れようとじたばたしていたが、1分ほどしたら諦めたのか大人しくなった。ひとまずのファーストコンタクトが上手くいったのかもしれない。後はアイリスがいろいろ聞きだしてくれるのを待っているのでいいだろう。
「ねぇ、これ何してるの? 脳みそくちゅくちゅいじったりしてる?」
「そんなエグイ事してませんよ。今俺のディバインアームズに宿ってるアイリスってのが、彼らと意思の疎通を試みてます」
「あー、アイリスちゃんね。聞いたことある」
俺の返答に彼女はディバインアームズに興味深そうな視線を向ける。そういえば何も説明しないで動いちゃったからそりゃ驚くか。
とりあえず彼らがダンジョンのモンスターではなく帰還者にしろ異世界人にしろ生命体なのは間違いないと伝えたら撃たなくて良かったわーと真砂さんは笑った。いや本当にね? 刹那さんも苦笑いしてるし、冗談で言っていると思うんだよね。
……そういや刹那さんで思い出した。さっきの彼女の行動、一つ引っかかるところがあるんだよな。
さっき彼女は、狙撃が放たれる前に動き出していた。俺達も反応はしたけど、それはあくまで狙撃が放たれてからだ。なんらかの手段で感知したのかもしれないけど、彼女は波多野さんのような突出した感知能力はないからなぁ……それについでにいえば、彼女は先ほどの根っこが暴れていたときもアイリスの警告よりも早く反応を起こしていた。あれはそれこそ感知したとかいうレベルじゃないだろう。もしかしたら──と、刹那さんに声を掛けようとしたところで、
《おっけー、久遠。拘束解除していいわよ》
アイリスからそう意思が伝わってきた。まぁ刹那さんの件は急ぐ話じゃないし後でいいかと一度頭の中にしまいこんで、結界を解除する。
拘束を解除された彼らは、一度自分達の腕を確認してからこちらを今度は敵意のこもっていない瞳でこちらをみつめ、それから立膝をつくと大きく頭を下げた。
何事ー?




