崩壊する洞窟
その声に、俺の体は即座に反応した。俺達3人、その体をギリギリ覆うような規模で結界を展開する。
アイリスの言葉の意図を考えるより前に、その言葉に従って行動を起こす。
──これは、ファーマントでの7年間の成果といえる反応だ。
女神の眷属の体に作り替えらえてからさんざん特訓させられたとはいえ、それまでは平和な国で戦闘なんて経験した事もなかった俺が、経験豊富な他のオリジナルのディバインアームズの使い手と肩を並べられたのは、アイリスという優秀なサポーターがいたのが大きい。特に当初の頃は重要な際の判断は彼女がしてくれていた。
数年たちいろいろ慣れた頃にはそういった事は減ったが。通常の時は、彼女は俺の行動には殆ど口を挟んでこない(余計な軽口は挟んでくるが)。そのかわり"俺が判断した後では間に合わない"時だけ彼女は強い指示を飛ばしてくれるようになった。
その行動は必ず有為な物だった。だから気が付けば俺の体はアイリスが強く指示をしてきたときは考えるより前に体が動くようになった。
今回のアイリスの指示も、やはり間違いのないものだった。
結界を張った直後、周囲を再び揺れが襲った。いや、それだけじゃない。壁から、床から、天上から激しく波打つ何かが出現する。
根だ。
あらゆる方角から、木の根が土を弾き飛ばして出現し、生き物のように縦横無尽に動き回る。その中のいくつかは結界を打ち付けてくるが、アイリスの力にて張られた結界はびくりともしない……が、その衝撃や打ち据えられたことにより削られる力から、これらの木々がかなりの力をもって暴れ回っている事がわかる。結界なしで直撃を受けていたらただでは済まなかっただろう。
だが結界の中は無事でも、周囲はとてもじゃないが無事とは言えない。荒れ狂う根によってすでに先ほどまで俺達が立っていた洞窟は完全に崩落していた。足元は崩れ、さらに壁や天井も崩れそれらも埋まっていく。
「るー!」
どう考えてもこの場所に残るのはよろしくない。状況もわからないが一度撤退すべきと判断し、俺はすぐ横のるーの方へ振り向いてその名を呼ぶ。が、
「無理、危ない」
《今は危険よ》
耳と、脳内にるーとアイリスからそれぞれ同じ返事が届く。
「空間、マナが乱れてる。この状態で飛ぶと変な所へ飛ぶかも」
続けてるーが否定の理由を教えてくれる。更にそこにアイリスから補足が入った。
《世界樹が荒ぶっているわ。世界を構築できるレベルの存在が大きくマナを乱している。ルーティエの言う通り、今飛ぶのはリスクが高すぎるわ》
これ、モンスターの類ではなく世界樹自体の根なのか? ということはもしかしてまた再編が起こったのだろうか。でも再編は終わったばかりだというのに、この短期間で再び起こるなんてありえるのか? だとしたら今後こんなダンジョン危なすぎて潜れないだろう。俺達は結界があったから良かったものの、下手な探索者なら押しつぶされておわりだろこんなの。
「トワちゃん、ルーティエちゃん……」
俺達の体に回された刹那さんの手に力が入っている。俺やるーは結界がこの程度で突破されない事を理解しているが、刹那さんはやはり不安なんだろう。だから俺も彼女の体に抱き着くように腕を回して──そのタイミングでるーがこちらに殻を寄せてアピールをしてきたのでそちらにも腕をまわして──その上で少しだけ高い位置にある彼女の瞳を見上げて口を開く。
「大丈夫、刹那さん。俺の結界はこれくらいじゃ抜かれないから」
「……うん、信じる」
刹那さんのこわばった腕から少しだけ力が抜けた。
カートリッジはほぼ満タンにしてきてはいるし、根は縦横無尽に動いているだけであってこっちを直接攻撃してきているわけではないから、護りは間違いなく問題ない。問題ないんだけど……ただいつまで続くんだ、これ?
《大丈夫、もう少しすれば終わるわ》
「本当に?」
《ええ、だから今少し耐えなさい》
分かった、任せろ。




