俺の結界はスキャンもできる
「それじゃ、ちょっとこの周辺をスキャンするよ」
「うん、お願いね、トワちゃん」
「がんばえー」
あれから俺達は順調にダンジョンを下へと進んでいった。
途中何度も虫やら植物やらのモンスターと遭遇したが、特に大きな問題が起こる事もなく今の所誰も怪我すら負っていない。
ただ、進むにつれて敵のレベルが上がってきているのは体感できている。相手の攻撃に関しては問題なく捌けているけど、こちらの攻撃は通りづらくなってきた。それにともなって、魔力の消費も増えてきている。
それと植物・虫系以外のモンスターも増えてきた。刹那さん曰くダンジョンの中盤あたりから、この世界樹が内包していている世界のモンスターが出現してくるらしいんだよね。ちなみに出現したのは獣型と獣人型なので、今の所この先にあるのはオーソドックスなファンタジー世界である可能性が高いかな。刹那さんが見たことない種類だったらしいので、今回の再編でこの先にある世界が差し変わってる可能性は高そうだ。
ちなみに中盤を超えてくるとダンジョンの様相も大分変ってくる。序盤の辺りは割と蜘蛛の眼のように通路が張り巡らされていて結構どのルートを通っても下にいけたりするんだけど、この辺りまで来ると一本の通路が長くなってくる。だからルート選択を間違えて行き止まりルートを選んだりしてしまうと無駄に消耗してしまうわけで。
そこで俺の結界の出番というわけだ。
俺の結界は別に何かを防ぐだけじゃない。房総ダンジョンで見せたように、そこにあるものを隠蔽したり、敵の接近を感知したりすることも可能である。
自身を中心に結界を作る。その結界は何かを弾くモノではなく、通り過ぎたものを感知するものだ。房総ダンジョンで使ったモンスター感知に近いけど、それを更に精密に感知できるようにした感じ?
結界を広げていくと、それに触れた地形がそのまま俺に認識される。ようは3Dスキャンである。あんまり詳細に感知すると脳みそが情報を処理しきれずに死ぬので、そこに存在するのが気体なのか液体なのか個体なのかくらいの判別と大体の温度、それに魔力を強く呼びたものがあればそれの存在も……くらいかな。
これによってダンジョンの形状は概ね理解できるし、モンスターやMADの所在も認識できる。感知能力が強い存在だと感づかれるのが面倒ではあるけど……こういった現時点でルートがが判明していないダンジョンでは非常に有効な手段だ。
じゃあなんで中盤まで使わなかったのって話もあるだろうが、そもそもあんまり連発すると疲れる技ではあるし、当然アイリスを使った術だからカートリッジに蓄積している魔力を消耗する訳で。ここらあたりまでは普通に使わないで進んできた方が魔力の消費コストが良かったというそれだけの話だ。
「ふう……」
ある程度通路が伸びていると思われる方向のみに絞っているとはいえ、それでも大きく感知をかけると距離が遠くなるほどかかるコストも脳の負担も大きくなる。ある程度までの距離をチェックして、俺は術を解除した。
「どう?」
「右の通路が当たり。正面は割とすぐ途切れるし、左は途中のモンスターが多い上に大分いかされた上で行き止まりだった。MADはどのルートでも見当たらなかったかな」
「OK、助かるわ」
「ここいらでテレポートのポイント設置しておくー?」
「ここに戻ってきてもあまり意味がないからなぁ、いらんだろ」
「あい」
この先の分岐ルートの2つ外れだからな、行く意味がない。というか多分このまま進んで駄目なら入口の時点で外れを引いた事になると思うので、完全に一から出直しだろう。
「多分この辺りは丁度中間地点くらいだと思うから、まだ先は長いわ。これまでの傾向から下の方に行くほど下に進みづらくなるしね。行きま──」
そこまで言いかけた刹那さんが突然言葉を切った。そして間髪入れず体を翻すと俺とるーの手を取って、その力いっぱい引き寄せてきた。
周囲にモンスターの気配やそれ以外の危険の予兆もなかったため特に気を張っていなかった(そもそもその前の術で周囲の状況は詳細に感知している)俺とるーは、彼女にひかれるまま彼女の腕の中に抱き込まれた。
「刹那さん?」
「いや……」
突然の彼女の行動が理解できず、彼女の吐息を感じるほどの近い距離から掛けた声には曖昧な言葉が帰ってくる。一体何が、と思った瞬間地面が揺れた。
「地震……?」
一瞬脳裏に房総ダンジョンの時の一件が頭に浮かぶか、その時ほどの揺れではない。それに揺れは一回大きなのが来ただけで、その後に揺れは継続しなかった。この程度ならあの時のように崩落はおきないだろう。まぁ起きたところで今回はるーがいるから、避難は容易だ。
刹那さんはこの地震に気付いて反応したのかな? だとしたらもう大丈夫だろうと、いまだ力を込めて左右の手で俺とるーを抱きかかえている刹那さんに声を掛けようとしたその時だった。
脳裏に、これまで静かにしていたアイリスの声が響き渡った。
《久遠、今すぐ結界で皆の全身を包んで!》




