喫茶店にて
「なんかここまで頻繁に会うとちょっと運命的なものを感じちゃうかも?」
「俺今口説かれてます? この状態で口説かれる所誰かに見られると燃えそうで怖いんですけど」
「してないわよ?」
目の前にいる黒髪の女性が、そう言って苦笑いを浮かべる。
今俺がいるのは、モール内の喫茶店だ。そこの一席に、先ほどあった女性と向い合せで腰を下ろしている。
──正面に座っているのはこちらの世界ではかなり見慣れた顔の枠に入る女性、刹那さんだった。彼女は消耗品の買い出しにここにやってきていたらしい。
こういった探索者向けの施設はここだけにしかないわけじゃないけど、数が多くあるわけでもないので同じ地方に住んでいるなら同じ場所を利用する可能性は高いので、遭遇する可能性はないわけじゃないけど……こないだの佐渡ダンジョンの時みたいに用件が被っているわけでもないのに同じタイミングで利用するのはかなり低確率な気がするね。
別に運命を感じるわけじゃないけど、確かに刹那さんとは鉢合わせる事が他の人に比べて圧倒的に多い。房総ダンジョンに始まり、こないだは目的地が一緒という理由があったとはいえ行きの船で一緒だったし、今回は完全に偶然だ。他の人に比べて妙に縁があるのは事実である。
そうして今、彼女の方から声をかけられて、こうして一緒に喫茶店で時間を過ごしているというわけだ。まぁ俺はメインの用件済んだし、刹那さんも必要なものは購入して発送をお願いした後らしかったので。(通販でいいのでは? という気もするが、彼女は新作のアイテム等は直接見たいタイプらしい)
「それにしても、本当に男の子に戻っても顔は変わらないのね」
「刹那さんは以前も見てるでしょ?」
「あの時はいろいろどたばたしてたしそれほど顔を合している時間はなかったから」
「あー、確かに。でも体格とかはちゃんと変わってますよ」
「服の上からじゃあんまりわからないわ、胸がないのは解るけど……あ、こないだの配信の時みたいに胸を開けなくていいからね?」
「見てたんですか、アレ」
「あー、うん。最近はちょっと時間開いてたから」
刹那さんも佐渡から戻ってきた後はしばらくのんびりしてた感じかな。知り合いに見られていたと言われるとちょっと恥ずかしい気持ちはあるけど、あの回はあまり妙なことはしてないしまぁいいか。
いや普段からあまり妙な事はしていないけども。
「というか、トワさん口説いてたら私の方が燃えそうだけど……」
「いや、それはないでしょう」
「そうかなー……」
ないですって。女状態の俺を泊さん辺りが口説いてきたら、泊さん燃えると思うけど。
「ああ、そういえば配信で思い出したんだけど。引っ越しするんだっけ?」
「はい。今住んでいると事だとるーと一緒に暮らすには狭いんで」
ワンルームだからな、あそこ。個人のプライベートはほぼないし、ベッドに至ってはるーと一緒に使っている。ファーマント時代も一緒のベッドで寝ている事はあったけど、あっちの時とはベッドのサイズが違いすぎるからな。狭いことこの上ない。それに、そもそもの話生活空間と配信部屋は分けたいんだよな。
「あー、たしかにトワちゃんはセキュリティがちゃんとした場所に引っ越した方がいいかも。知名度どんどん上がってるし」
「今はまだ大丈夫ですけど、その内近隣に迷惑をかけかねないですしね」
「引っ越し先の目途ってついているの?」
「こないだ佐渡の帰りに東風ヶ瀬さんとにもちょっと相談したんですけど、ダンジョン近郊の協会の関連施設の近くに引っ越そうとは思っているんですよね、メディア対応とかもしてもらえるって話だし」
俺の答えに刹那さんは「そうね、それがいいわね」とうんうんと頷く。
「ただ、どこのダンジョンの近くから決めていないんですよね。当面は燕三条のダンジョンに行くつもりだったんですけど、あそこは装備作成の為だったからホームとはちょっと違うじゃないですか」
「それに、しばらくは燕三条は潜れないでしょうしねぇ」
そうなのである。
燕三条ダンジョンは現在実質の閉鎖状態になっている。ただ別に燕三条ダンジョンで問題が起きている訳ではなく、アメルとラメルが持ち込んだあのキューブを用いて呼び出せる機体の分析、確認、そして訓練のために協会が利用しているのである。
あのキューブはすでに事前に発見されていたあの白銀の騎士と同種のものというのが確認されている。そのことからすでに利用者がおり、佐渡に現れた異世界の軍勢に有効なのもすでに確認済みなことから利用が検討されているらしいのだ。そうしてそのキューブが発見された燕三条ダンジョンは佐渡ダンジョンと同じ世界がベースになったダンジョンが高いということから、その場所を利用しているわけである。まぁ佐渡と近いのもあるだろうけど。
佐渡ダンジョンだけど、どうやら下層の状況は俺達が撤収後悪化したらしく非常に異世界と繋がりやすくなっているそうだ。要するに、いつ異世界からの侵攻が発生してくるかわからない状況である。
……冷静に考えると結構ヤバイ状況だよな。異世界との本格的な戦争が起こってもおかしくない状況だ。あの連中の最終的な目的が何か次第ではあると思うけど……ただアメルとラメルへの襲撃だけではなく中層でもこちらに攻撃を仕掛けてきているのを見ると、ろくな理由ではない気もする。
現在佐渡ダンジョンの下層の状況に関して、連中が何かしたのか、或いは自然的なものなのか、そしてダンジョンコアはどこにあるのかを含めて現在一級探索者を中心として調査、分析中らしい。波多野さんとか絶対駆り出されているよな……そして、侵攻が始まった時の対策のため大魔導を含めた協会直属や協会と契約している探索者が張り付いている状況だ。
連中に特効があることが確定しているあの機体が数で準備できるのであれば、その一級探索者の拘束状態が解消されるからな。それにあの機体を求めて燕三条に潜っていた連中も多い。搭乗希望者はいくらでも見つかるだろう。




