第65混ぜ 錬金武装
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◇◇◇
『始めッ!』
疎らに配置された訓練用の傀儡人形。それが、師匠の合図で一斉に襲い掛かってくる。
「はっ! ハァッ――!!」
傀儡から放たれる拳を下から上へと弾き、腹部へ自分の小さい体を潜り込ませて掌底を打ち込む。
時には蹴りを、時には投げ技を。錬金に使う陣の作成と並行して鍛える戦闘技術……それが、幼少期の私の日課となっている訓練だった。
『よろしい。うーん…そろそろこのレベルの傀儡では相手になりませんねぇ』
『おししょー! クルスの所に遊びに行きたいネ!』
『またですか? まだ陣も上手く描けない子にそんな余裕は無いと思いますが?』
『うぅっ……でも、おししょー? おししょーはライバルと競争しろとよく言っているヨ?』
『あらあら、口答えですか? ……そうですね。では、私に傷をひとつでも付けれたら許可しましょう!』
錬金術界隈では、私の師匠とクルスの師匠がトップに君臨している。
破天荒でめちゃくちゃなクルスの師匠と、理知的で統率力もある私の師匠。
二人は仲が悪い――なんて噂話が横行しているけれど、それも含めていろいろと違う。
本当にめちゃくちゃなのは、私の師匠の方だ。
理知的なイメージは、本気で暴れる姿を見せなくなってから付いただけに過ぎない。
その秘密をよくよく知っているクルスの師匠は、私の師匠と会うといつも『窮屈そうだね』と言っている。
それを聞くと師匠は『誰のせいで……』とプルプル怒りを表して、クルスの師匠へと襲い掛かるのが恒例となっていた。
師匠がそんな姿を見せるのはレアで、クルスの師匠には心を開いている証なのだと思う。
たぶん私の師匠は……前にクルスに教えて貰った『ツンデレ』ってやつなのろう。
しかし――。
『……ぅ、うくっ……かはっ……』
『あらあら、それだとホムラ君に愛想を尽かされてしまうかもしれませんねぇ』
尊敬もできて、可愛い部分もあるけれど……それでも、一度戦闘になれば私の師匠は――甘さは無く、恐ろしい程強い。
純粋な戦闘力なら、クルスの師匠には負けないと思う。キャサリンさんとどちらが上かは分からないけど、フル装備の師匠なら負けることは無いと思う。
幼少期の私だと、師匠に錬闘師としての力を使わせる事どころか、半径十センチ動かすのが関の山だった。
ずっとそんな師匠とばかり訓練して、他の人の強さを知らずに育った私は……自分は弱いのではないかと、よく自信を無くしたものだ。
そんな厳しい訓練でも頑張っていれば、クルスの所へ遊びに出掛ける事をたまに許可してくれた。師匠は厳しいけれど、弟子思いなのは私が一番知っている事だ。
クルスの所へと遊びに行き、そこで私は癒しを得ていた。
クルスもキャサリンさんから教えを受けていて、その頃の実力はほぼ互角で……それが、とても楽しかった。
私が右のストレートを繰り出しても、それを逆手に投げ技を使い、私が上手く着地して蹴りを繰り出すと、今度は避けて距離を取る。それでまた、組手を再開させる。
そんな訓練が、あの頃の私にとっては、とても楽しい事だった。
次第に……私もクルスも錬闘師や錬金術師として本格的な修行が始まり、会える回数は少なくなった。それでも、ある一つの約束を糧にして、私はクルスに負けないように頑張ってきた。
『エレノア、次の仕事よ。武装集団の壊滅の依頼が来てるわ』
『師匠、クルスとクルスのお師匠さんどこ行ったネ?』
『さぁね? まったく、こっちの気もしらないでいつも勝手なんだから……エレノア、どうせまた向こうから来るから今は仕事に集中しなさい』
――クルスが居なくなってから、数年が経っても帰っては来なかった。
追われる事になった経緯は軽く聞いているけど、もう会えないかもしれないと思うと寂しかった。約束も無効になるのかと、不安だった。
それが仕事での簡単なミスに繋がって、あの頃は師匠によく怒られもしていた。
でも、そんなある日――クルスは突然現れた。約束した綺麗な宝石を持って。
この世界で結婚なんて夢のまた夢の話。いつ死ぬかも分からない事をしているからだ。それでもクルスは私をお嫁さんにしてくれた。
私の師匠に許可を取ってくれて、この新天地に連れて来てくれた。
「うん――だから、クルスの役に立ってみせるネ!」
観覧席に居る、クルスの方を見る。
近くには新しく仲間になったディールちゃんが居る。私をより強くしてくれたキャサリンさん、クルスの魅力を理解してくれるお嫁さん候補のミルフとフランも居る。今は席を外しているビスコさんやマユエルちゃんも含めて、私達はパーティーを作った。
目的は――ダンジョンの攻略。
個人的には、その上で私はクルスのお師匠に結婚の許可を貰う目的があるけど。
とりあえず、その為に必須なのが……『強さ』だ。
クルスのお師匠が作ったダンジョン。強さは攻略に必要な最低条件と、クルスは言った。
クルスが言うのなら間違いは無い。どれ程強くなれば良いかなんて指標は無いけれど、この武道大会で躓くレベルじゃ到底ダメだと思っている。
周囲には強そうな人が多い。でも、クルスの為にもみんなの為にも……何より私の為に負ける訳にはいかない。
先の試合でフランは勝ち上がった。それも、圧倒的に。なら、私だって出し惜しみはしていられない。
『出場者の皆様が出揃いました! それでは、第三組目の試合を始めたいと思います! ――始めッッ!!』
本当は、普通の女の子として可愛いと褒めて貰いたい。それ故に、あまり戦っている所は見て欲しくないと思う部分もある。
(でも! クルスなら返り血に塗れた私でも,勝てば褒めてくれるに違いないネ!)
クルスは、見た目が可愛いだけの子にはあまり興味を示さない。それよりも、強い子や技術のある子の方を遥かに重宝する。
だから、ここで勝ち上がれば『よくやった』と頭を撫でて褒めてくれるだろう。もしかすると……ギュッとしてくれるかもしれない。
(むフフ、手加減なんてしてられない――ネッッ!!)
試合開始の合図から、真っ先に私へと飛び掛かってきた相手のアゴに、回し蹴りを入れて意識を奪う。
冒険者として素材の為に気を付けて戦っていたけれど……対人とはいえ、久々に本気を出しても問題はなさそうだ。
◇◇
エレノアから見ていてと言われ、試合開始直後の一撃から動きの全てを観察しているが……一言で言えば圧巻だった。
まるでカンフー映画を観ているのかとすら思えた。相手の間合いに入っては、攻撃を避け、足から崩して地面に叩き付けていく。
「キャサリンさんの動き……とは違いますよね?」
キャサリンさんから指導を受けている俺と、同じくキャサリンさんから指導を受けているはずのエレノアだが……動きが少し違ってみえた。
キャサリン流とでも名付けるとして、その戦い方は至ってシンプルで――流す、折る、砕く、潰すの四つの動作から成り立つ。
相手の攻撃を受け流し、骨を折ったり砕いたりし、時には眼球や鼻などの急所という急所を潰しに掛かる。
武道というよりは武術。それが俺達が習っている戦い方だ。
だが、今のエレノアはそんな単純な戦い方ではなく集団戦をしている様な動きを見せていた。
個人対個人対個人……のはずなのに、エレノアは個人対その他みたいな動きをしていた。
「エレノア様は元々魔女様の弟子ですからね」
「……あれ? でも魔女さんって錬金術の師匠ですよ? 武術もなんですか?」
「あの方は強いですよ。私でも勝てると言い切れる自信はありません」
「マジですか!?」
キャサリンさんの発言に、驚く。
今までキャサリンさんより強いなんて人には会った事がなかったし、あの理知的で温厚な魔女さんがそんな強いとは思った事もなかった。
師匠と並ぶ程強いとは知っていたけれど、それは錬金術を用いた戦いにおいての話だと思っていた。
……どうりでエレノアは昔から強かった訳だ。
「ほら、ホムラ様? しっかり見ていませんと、エレノア様に叱られますよ」
「あぁ……はい。でも、このレベルだと……エレノアの弱点が浮き彫りになりませんね」
遠くから魔法を放ってくる相手に対しても、回避からの速攻で場外に蹴り飛ばしている。
おそらく、移動系の陣を用いて加速しているのだろう。でなければ、相手が簡単な防御魔法を発動する前にエレノアの足が届く訳もないだろうし。
近接戦において今のところ心配する様な場面はなく、自分を狙っている遠距離相手にも、遮蔽物なんかを上手く使って対応している。
「それはどうでしょうか……ルール無用となれば、話はまた変わってきますからね」
「それこそ、エレノアの本領が発揮されると思いますけどねぇ」
エレノアはまだ、身体能力のみで戦っている。エレノアは決して、総合格闘家ではない。
戦うスタイルが近接戦なだけであって、立派な錬金術師――もとい、錬闘師だ。
地面を砕く程の拳や、属性を纏った拳、その他諸々の身体強化など。まだまだ、エレノアには上がある。
「おい、ホムラよ! エレノアはなかなか強いなぁ?」
「まだ、準備体操みたいな物ですよ。エレノアはもっと強いですからね」
「なんと! それは一度手合わせせねばな!」
流石に、ディールと同等のパワーを出すのはエレノアでも難しいのではないだろうか。
一撃で沈むとは思わないが、それは当たり所によるだろう。モロに当たれば骨が粉砕しそうだ……。
「おや……」
「どうしたんですか、キャサリンさん?」
「いえ、やはり気配を消すのが上手だと思いまして」
キャサリンさんが指を指した方を辿ると、エレノアが戦っている場所よりもやや離れた場所にポツンと立つ人物が居た。
それは、よく目を凝らして見なければ見失いそうな程の存在感で、言われなければ最後まで気付かなかったかもしれない。
「たしか……シミラーマンさんの護衛してた子ですよね?」
「はい。人は何もしなくても立ってるだけで存在感は出るものです。ですが……」
王の私室で出会った護衛をしていた小さい子、ただ立っているだけなのに他の参加者には見向きもされていない。
隠密系の仕事においては凄い特殊技能と言えるし、有能だ。
「倒れてる人から何か取ってますが?」
「死体漁りですね。まぁ、基本でしょう」
漁夫の利というか、賢く生きているというか……まぁ、嫌いではないけどバレたら怒られるだろうに。
いや、きっとシミラーマンさんにはバレてるだろうから確実に怒られるだろう。
「どこまで本気なのやら……」
視線をエレノアに戻したが、ちょっと気になってもう一度探したが……護衛の子は見付からなかった。
エレノアの戦いもそろそろ佳境という具合だろうか。人が次々に少なくなって、今残っている人はそれなりの強者と言えるだろう。
エレノアは序盤から魔法師を狙って倒していた。それが伝播してかは知らないが、魔法師は次々と消えていった。
剣士、槍使い等の戦士ばかりが残っており、観客は分かりやすい力と力の戦いに興奮度合いが上昇していた。
「オラァ! そこだぁ、いケェ!!」
「イイゾイイゾォ! もっとやれェ!」
おじさん達も。
「あの殿方……格好良くありません?」
「あちらの方の筋肉も……ウフフ」
貴婦人も。
「わぁ、格好良いなぁ~」
「俺の方が強いぜ!」
子供達も。みんな盛り上がりをみせている。
それはとても良いことだと思う。ただ――たまに、エレノアに対する声も聞こえてくる。
男性からは下世話な内容、女性からは嫉妬混じりの声。
「注目されるのは仕方ないですが……」
「あら、嫉妬ですか?」
「それが九割なのは認めますが、ちょっと一つの街に長居したなぁ~と思いまして」
「たしかに前程は転々と……まぁ、それは彼女がじっとしてられない性格というのもありますが」
もうこの街に来てから何年経過しただろうか。学園の件もあって仕方ないとはいえ、師匠がいれば二年もせずに次の街へと動いていただろう。
必要とはいえ、やはり長居は長居だったと思う。未だ見ぬ素材があるかも知れないのに留まるなんてのは、師匠の弟子らしくない。
この大会が終わり、諸々片付けたら……そろそろ向かうとするかね、ダンジョン都市へ。
「おい! あの女の子、見たか!?」
「あぁ……見間違いじゃなければ、斧を砕いた……よな?」
客とディールはは驚いているが、エレノアを知るパーティーメンバーは誰も驚いていなかった。
「身体強化……」
「違いますよホムラ様。エレノア様の今のは『錬金武装』……まぁ、身体強化に違いは無いのですが昔よりも陣の強さも伝導率も桁違いですよ」
錬金武装……なにそれ、格好いい。
むしろ、そういうのは男がやりたいやつだろう。
「錬金武装『硬』は自らの防御力を高め、錬金武装『跳』はジャンプ力を高め、錬金武装『鋭』は手刀と化し……他にもあるみたいですが、私が知っているのはその三つだけですね」
「くっ……陣の格好良さをフルで活かしてて羨ましい」
魔力を込めると固くなる盾、跳躍力の上がる靴、よく切れる刀。どれも作れるが、それをエレノアは自分の体を使ってやる。それが、どれだけ格好良いか。
魔力の問題もあるが、攻撃を受ける瞬間、跳ぶ瞬間、斬る瞬間……その一瞬だけに魔力を注げば消費も少なくて済む。
おそらく、それくらいは出来ているだろう。つまり……エレノアって本当に強くなったという事だ。
「今まではアイテム頼りだったが……俺も必殺技的なのが必要かもしれないな」
「そうですか? ホムラ様はアイテムの一つ一つが必殺技足り得るかと」
「……そ、そうですかねぇ?」
たしかに、アイテムは一つ一つを丁寧に作っており、その中には必殺技になり得る物も存在する。
そう考えると、俺は今まで通りでいいのかもしれない。人を使い、アイテムを使う。その使い方をどうするか、が俺の仕事だな。
「勝ったよクルスー! 見てたネー?」
中央のステージからエレノアが手を振ってくる。
最後の相手を蹴り倒す所までしっかりと見ていた。
最後の相手……というのは、残り三人の内の一人の事だ。二人が勝ち抜ける予選での戦いでは勝者は二人居る。
エレノアと……まさかの護衛の子だ。最後まで逃げ切ったらしい。
「後でちゃんと褒めてやらないとな」
「なんか! 私の時と対応違くないっ!?」
フランが振り返ってそんな事を言う。はははっ……当然じゃないか、嫁ぞ。エレノアは嫁ぞ。
フランは納得いかないのか、プンスカ怒り出したがいつも通りの反応だ。だから俺も、それをいつも通りに流すことにした。
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