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第64混ぜ 圧倒的な魔法



お待たせしました!

よろしくお願いします!



 


 スタートの合図と共に、戦うリングの隅っこに岩が現れた。

 そこは、フランが立っていた場所で今現在フランの姿は無い。


「……自分で閉じ籠った?」


 注目していたからこそ、フランが岩の『中に』居る事がわかる。

 そこに閉じ籠り、周りが戦い終わるのを待つのか、それとも秘策でもあるのか。

 リングに立つ他の戦士達も、何かしらの罠を警戒しているのか、岩に対しては攻撃はしていない。


「キャサリンさん……あれは、なんです?」

「あれは私にも……戦闘訓練でも見せてはいませんでしたしね」


 次々に戦闘が始まっていく中、岩には何の変化もみられない。

 キャサリンさんも知らないとなれば、今日思い付きでやり始めたという事だろうか。


「うぉ~い……ホムラよ、ちと(・・)寒いぞ(・・・)?」


 膝上に座って寛いでいるディールが寒いという。

 ディールにプレゼントしたローブは、ローブ内を自動的に快適な温度にしてくれる。それを着ているのに……いや、着ているからこそ服の中と顔で感じる温度さに気が付けたのだろう。


 たしかに、うっすらと寒さを感じる。この国は季節的な温度の変化というものがほとんど無い。最近暑い、最近寒いと少しばかり感じる程度だ。

 だから、今感じている寒さは――不自然だ。そういえるものであった。


「お、おい! 上っ!! 上だ!」


 観客の誰かがそう叫んで、一斉に上空を見上げる。俺もその中の一人で……ソレを見た瞬間に、口を開けてポカンとしてしまった。


氷塊(ひょうかい)!? 馬鹿か!? あのデカさ……絶対フランだろ!? あはははははっ! 最高だっ」


 リングどころか、観客席に達しそうなくらいの横幅と数メートルの高さの大規模な魔法。氷の塊が上空に現れていた。

 まだフランの制御下にあるからだろうけど、氷塊は落下してこない。ただ……その魔法はそこに存在しているだけで他者を圧倒している。

 弱い火魔法ではどうにもならない質量。判断の早い者からリングを降りている。観客席の最前列に座っていた者達も、後ろの席に避難し始めている。


「――いけ、フラン」


 一人、先んじて岩という防御手段を取っていたフランに向けてそう言った。

 決して聞こえる距離ではないのだが、奇跡的にタイミングが重なり……氷塊が空気を振動させ、鈍い音を周囲に轟かせながら落ち始めた。


 ゴオォォォオォォォ――氷塊が近付くにつれ、より轟音が鳴り響く。

 氷によって冷やされた空気が、肌をチクチクと刺してくる。

 寒いのが苦手なのか、ディールは顔もローブへと沈めていた。


「ははっ、CGが盛り沢山の映画でも観ているみたいですねキャサリンさん」

「素直に称賛をば。フラン様の魔法規模は……少々異常ですよ」


 リングに氷塊が落ちた。自由落下による重力の力も加わり、地面を割った。そして、立ち向かおうとした予選参加者達を容赦なく潰しに掛かった。


「あの規模だと……フランはあと何回魔法を撃てるんですかね?」

「あの魔法だけで力尽きるとは思えませんが……把握しかねますね」


 火魔法や水魔法、風魔法なら発動して、地面にでもぶつかれば自然に消えていくものだが、氷魔法に関してはその限りではない。

 魔力を氷に変換しているという事だから、地面にぶつかろうとも消える事はない。

 氷魔法を使える魔法師が商業関連の人に人気があるのは、溶けない限りはその場に在り続ける氷を生み出せるからだ。


 つまり、馬鹿みたいに大きい氷塊。それが今、リングに突き刺さり消えることなく在り続けている。


「……邪魔だな。フランの奴……おそらくここまでは考えてなかったな」

「彼女の長所は思い切りの良さですが……短所もまた、思い切りの良さになりますね」


 リングの片隅にひっそりと存在していた岩の塊が、その形を崩しただの土に還る。

 そして、悠然と立つフラン。反対側からは氷塊で見えないだろうが、俺達サイドの観客のほぼ全員の注目を一人で集めた。リング上に立っているのはフラン一人だけ。

 一瞬の様にも思える圧倒的な勝ち方に、ザワザワとした声だけが各所から伝わってきた。


「クルス! せっかくだからかき氷をするネ! 私はイチゴが良いヨ」

「味なんてどれも一緒だろうに……。まぁ、それは置いておくとしても……どう片付ける気だ? リングの修繕は魔法師団の役割のはずだけど」


 エレノアのアイデアは頭の片隅に置いておき、今は氷塊問題に頭を回した。

 あれをどうにかしないことには、三組目も四組目の予選が行えない。


 この二組目の勝者は二人も選ばれずにフランの一人勝ちだとしても、ここで終わる訳にもいかないのが国の考えになるだろう。

 来賓の方や観客の期待値はフランのお陰もあってか、高まっている。ここで中止にしようものなら、ブーイングの嵐になるだろう。まぁ、一般人の俺達観客が実際にそんな事をすれば、問答無用で逮捕され、不敬罪とかなんかでブタ箱行きだ。


「う~ん……粉々にでもなれば弱い火魔法でもそれなりの効果を見せると思うんだが……」

「丸々ひとつの塊ですからね。ホムラ様からの指示であれば破壊して参りますが?」


 たしかにキャサリンさんなら、何かしらの方法で巨大な氷塊をグラスに四つ入る程度の大きさにカットできるだろう。だが、急にメイド服姿の人物が氷を破壊し始めるのも躊躇われる。

 一番良いのはフラン本人が片付ける事だ。そうすれば、何事も問題はない。魔法師団も自分の所に所属しているフランが片付けるのであれば、面子は保たれるだろうし。

 だが、フランの様子が少しおかしい。自分で出した魔法のはずなのに、やけにフランはあたふたしている様子に見えた。


(自分でも予想外の威力だったのか?)


 岩に閉じ籠り、邪魔されずに集中力を高めて詠唱を唱える。

 土魔法を使いながらの氷魔法の併用……実はかなり高度な事をしていたフランだが、そこに気が付く人は僅かしか居ないだろう。

 それほどまでに氷塊の大きさのインパクトは強かった。

 それがどう威力を間違える事に繋がるのかは分からないが、個人的な感想としては『娯楽ココに極まり!』的なものが見れてラッキーだった。


「あ、クルス! 次、私の番だったネ! 準備しに行くヨ」

「あぁ……うん。頑張れよ、エレノア」

「クルスの応援があれば百人力ネ!」


 次の出番の準備をするための準備をしなければならない状況だが、そんなのは気にしないのか、エレノアは足取り軽やかに去っていった。


「キャサリンさん……申し訳ないけどフランをお願い出来ますか? お偉いさんがフランに集まってきたみたいですし……おそらく氷の件もあると思いますから」

「かしこまりました。優先順位はどうなさいましょうか?」

「次の試合の再開を早める事ですかね。氷とかくれてあげても構いませんよ」


 キャサリンさんは頷き、気配を消した。

 数秒後にはフランの近くに立ち、フランの代弁者としてあれこれ話し始めていた。

 この試合で、フランの苦手な部分とかをしりたかったが、それが見れなかった事だけは残念かもしれない。

 ……フランの弱点は『どこかが残念な奴』ということかもしれないな。


 ◇◇


 会場の空気、リング、その他諸々が無事に回復するまでに数十分は要した。

 当人であるフランは、前の椅子に座ってやや落ち込んでいた。勝った事に対する言葉も氷塊に関する称賛も、届いてはいない様子。

 その理由は、勝ち残ったのにも関わらずキャサリンさんとの戦闘訓練が確定したから、らしい。

 キャサリンさんも、よりフランに合った戦い方をレクチャーするつもりなのだろう。だから、フランから救いを求める目を向けられたとて、俺にはどうすることもできない。


「でもフラン、臨時収入があったんだから良かったじゃないか」

「はぁー……微々たるものよ」


 氷はバラバラに砕かれて、小分けにされたのを商業ギルドが買い取っていった。ちょっとした報酬を得たというのに、キャサリンさんとの訓練の大変さが上回るのか、フランの表情に変化はなかった。


「フラン、私は指導を受けるべきだと思うぞ?」

「ミルフ……そ、そうよ! 一緒に訓練受けて! 一人はヤ!」

「い、いやそれは……キャサリンさんもフランの為を思ってだろう?」


 遠回しに自分は遠慮しておくと言っているミルフさん。だが、フランも引かずに上目遣い等を駆使してミルフさんを落とそうとしていた。

 自分より年下で可愛い奴に猫なで声で「ミルフ~……」なんて言われ、落ちないミルフさんじゃない。陥落するまで後数分というところだろう。

 フランの心のケアはミルフさんに任せ、俺は視線を中央のリングへと戻した。


「次はエレノアか……戦闘面ではだいぶ差をつけられただろうなぁ」

「錬金術師としての目指す先が違うので、それは仕方のない事でしょう。エレノア様も頑張っておられる事ですし」

「まぁ……そうなんですけどね。頼りなく思われたら嫌じゃないですか、やっぱり」


 予選第三組目に参加する人達がリングへと入ってきた。もちろん、エレノアを注目して見るつもりだ。むしろ、エレノアしか見ない。

 エレノアには頼って欲しいという気持ちがあるが、冒険者としての活動や俺の護身レベルの体術とは比べ物にならないエレノアの格闘技をもってすれば、戦闘面では俺の方が守られる側になるだろう。

 もちろん俺が頼られる事もあるだろうが……今の段階では料理と回復くらいしか無い。どうにか持ちつ持たれつのバランスは保っていきたいと考えてはいるのだが……。

 他の誰に(あき)れられたりしてま構わないが……エレノアからそう思われたらかなり凹みそうだ。


「ちょっと従者、情けない事を言うんじゃないわよ!」


 落ち込んでいたはずのフランから、急に激励が飛んでくる。

 その瞳は真剣そのもので、まるで自分の事かのように心配してくれているのが伝わってきた。


「お、おぅ……たしかにフランの言うとおりだな」

「ちゃんとみんな頼りにしてるわよ! ――あんたの料理は世界一なんだからっ」

「……ちょっと転職の神殿にでも行ってくる」

「ホムラ様、その様な建物は存在を確認されていませんよ」


 フランめ……。

 ディールもむしゃむしゃと俺が作った軽食を摘まみながら座ってるだけで、何も言ってはこない。自分の存在意義を見失いそうだ……。

 とりあえず、今度フランの飯だけ激辛にしてやろう。そう決意した。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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