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十一話「願いと代償」

「あれま、リセちゃんが捕まえてくれたの?」

「あー、えーっとまぁ、そんなところです……ははは」


 素直に二人して追いかけてきた店員さんから逃げました! って言うのも何だかあれなので、ここは適当に笑って誤魔化しておく。ちっちさんは細目をさらに細めて笑った。ちっちさんの後ろからドイさんがのっしのっしと重量感のある歩き方でやってくると、私の横に立っていたオルドがビクリとしてさっと私の後ろに隠れる。おいおい、女を盾にするなよ男の子……。


「すっかりドイに怯えちゃってるねぇ。ドイ、そのでかい図体なんとかならんのかい」

「無茶言わないでくださいよ……」

「まぁ何はともあれ無事でよかった。これから幸与様のところに行こうと思っていたんだ」

「さちのところに?」


 思わず口を開くと、ちっちさんが理由を説明してくれた。幸与様は人間と妖の世界を繋げる道を持っていらっしゃる。だからそれを少しお借りしようと思って……とのことだった。でも、何だかちっちさんの表情がかたい。ドイさんも難しい表情をしている。ちっちさんがポツリと、「うまくいくかねぇ」と呟いたのを確かに聞いた。

 

 え、あの歪みを使わせてほしいって頼むだけでこんなに深刻な雰囲気になるの? 流石さち、神様やってるだけあるなー……。私を頭を握りつぶそうとしたけどな! 一生言い続けてやるぞあのこと。痛かったしアザまで残ったんだから! ちなみに今はもうアザは綺麗に消えて、また羽のヘアピンで前髪をまとめている。


 もうすぐ夜になるから……と言うかもう日が沈み始めているからと理由で、私の妖の世界探索は急遽打ち切られることになった。オルドが巻きこみやがったせいだよねー……。ちくしょう、元の世界に戻るから私の貴重な時間を返せぇ! とも言えないし。……ま、いっか。どうせ朝は明日もやってくるんだし。今はオルドが無事に元の世界に戻れることを祈るだけだよね。


 四人でさちの家に向かった。


「歪み? そう簡単に使わせるわけにはいかんな……」


 ニヤリ、と悪巧みをするように笑うさち。美形は何しても様になるね、羨ましいかぎりですよまったく。

 内心ふてくされていると、またもやさちが口を開く。


「願いには代償がつきものだ。第一、その子供がここにきたのは自分で歪みに触れたからだろう? 自業自得じゃないか。俺が祀られていた村では、十年に一度俺に供物を捧げるからと約束したから願いを叶えてやってた」


 元の世界に戻りたいと言う願いを叶えてほしくば代償を差し出せ、と。実に神様らしい言い分だった。なるほどねー、ちっちさんとドイさんが難しい顔してたのはこのせいか。さちがこう言うことわかってたのね。確かにオルドの自業自得な部分は否めないけど。


「そうだな……代償とまではいかないが、誠意を見せろ」


 ……はぁ? 何か突然浮気された彼女が彼氏に別れたくないですって縋られたからじゃぁ誠意見せろやって言ってる女みたいなこと言いだしたよ。女々しいぞー、さちー。


「一週間ちっちの店で自分にできる精一杯のことをしてこい。そうすれば人間の世界に戻してやる」


 それだけ言って、さちはクルリと踵を返して部屋へ引っ込んでしまった。

 オルドは、一週間ちっちさんの店で働けと言われて絶望的な顔をしている。そりゃそうだ。王子様は働いたことなんてないだろうし、相手が妖じゃぁねー。ビビるよね、そりゃ。可哀想だけど、手や足の一本ぐらいよこせって言われなかっただけマシじゃないかなぁ、オルド君や。


「……仕方がないね。できる限りフォローはするから、うちで働きな」

「もちろん、無茶な仕事はやらせねぇよ」


 オルドは、黙ったままうつむき、僅かに肩を振るわせている。泣くのを我慢しているのだと、わかった。

 私は前、風さんにやってもらったようにオルドの背中をゆっくりと撫でる。


「ちっちさん、私も一緒に働かせてください! 足手まといになるかもしれないけど……」

「オルド君のためだね? いいよ、フォローは大人たちに任せなさい! 頑張って働きな」


 豪快にわはは、と笑ってちっちさんが言う。ちっちさんの言葉に、うつむいていたオルドが少し反応した。

 ドイさんも、肩を揺らして笑いながら言った。


「そうそう。人間の子供が働いてる姿なんて中々見れないから、うちの店有名になるかもな!」


 優しい二人の言葉に、ついにオルドが顔を上げた。目を潤ませ、今にも泣きだしそうだ。だけど、ぐっとこらえるように唇を噛みしめて頭を下げた。


「ありがとう、ございます!」


 オルドが頭を下げたので、私も頭を下げた。


「二人とも、ありがとうございます。頑張って働きます」

「うんうん、頑張ろうな」

「朝の七時に喫茶店においで。オルド君はうちにきなね」

「はい」


 玄関口で、オルド、ちっちさん、ドイさんと別れる。オルドは半分泣きながら手を振ってバイバイした。

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