第7話 静かな血脈
次の休日。
アルルは街にササリーフエキスとササリーフを売りに出かける。
「アルル、少しでも違和感を感じたら、ベルフィーのところに行くのよ」
ベルフィー・ノアとは、ドリフィーの実の妹で、街に住んでいる。ベルフィーは夫のカイル・ノアと街に住んでおり、夫婦で商いを営んでいる。戦争時代は、カイルは物資補給係として街におり、戦闘に行かなかったため、生き残った。
「わかったよ。おばあちゃん」
最近は訪れていないが、ドリフィーが街で働いてた頃、アルルはよくベルフィーの手伝いに行ったものだ。
今でもドリフィーは、たまに手伝いに行く。
「やっぱり、私も顔出そうかねえ」
魔王の手下との一件もあり、思い直したようだった。
◇
街までは歩いて一時間かかる。荷物を持ちながらだと結構きつい。ドリフィーも荷物を持ってくれた。
今日は晴れていて、空は雲ひとつない快晴だ。
「売り終わったら、ベルフィーの家に行きましょう」
「ベルフィーさん、久しぶりに会うな」
アルルの頭の中では、ベルフィーは肝っ玉母ちゃんのイメージだ。息子が三人いる。三人はもう成人して、そのうち二人は家庭を持っている。一人は店の手伝いをしている。
市場に行くと、まだ朝早いのに売り場スペースが埋まってしまっている。運良く端っこが一箇所空いていたので、二人はそこに簡易テーブルと椅子を二脚置いて、店を広げた。
「よっ、アルル」
鍛冶屋のシド・フォルジだ。妻のマリー・フォルジを連れている。アルルのササリーフエキスをいつも買ってくれる人。
「エキスが切れそうだったよ。助かる」
「アルルちゃんのエキスは魔力が高いから良すぎて、他のは買えなくなっちゃったわ」
マリーは補助魔法師で、シドが製作する武器に属性魔法を付けて、その分高く売っている。属性付きの武器は他にないので、よく売れているらしい。
「いつもご購入ありがとうございます」
アルルは、にっこり笑ってお礼を言う。
「マリーさん、アルルに補助魔法そろそろ教えてあげてくれないかしら?」
ドリフィーが頼むと、マリーは笑顔が消えた。
「まあ……そのうちね」
「いつもそのうちって言うじゃないか」
ドリフィーが珍しくイライラしている。
「おばあちゃん、マリーさんも忙しいんだから……」
アルルが取りなすと、マリーがため息をついた。
「まあ、いつもお世話になってるし、お店終わったらうち来る?」
「残念だね。今日は、ベルフィーのところによる予定なんだよ」
「あら、残念ね。じゃあ、また今度ね」
シドとマリーは仲良さそうに、自分のお店の方に歩いて行った。
「おばあちゃん。買ってくれてるのに、無理言わない方がいいよ」
「アルルがさ、補助魔法習いたがってたじゃない。まあ、教える気がないんだろうね……みんな補助魔法できる様になれば、武器売れなくなるからね」
「おばあちゃん……」
アルルは、ドリフィーの気持ちもわかって嬉しかったが、エキスが売れなくなることのほうが、重大だった。
お昼は、いつものドリフィーの作ってくれた卵のサンドイッチを食べ、夕方までには全部売り切れた。
「良かった、全部売れた」
「アルル、お疲れ様。さて、後片付けしてベルフィーのとこ、行こうかね」
二人がベルフィーの一軒家に着く頃、《虎ック》に乗るベルフィーが反対側から走ってきた。
「やあ、ドリフィー!」
「ベルフィー、元気?」
ベルフィーは、召喚士で、乗っている虎のトラックは召喚獣だ。速度は遅いが、体長四メートルほどあり、荷物も運べるし、水陸両用だ。泳ぐ時は八本の足で水をかくようにして進む。
「これ乗ってみたい!」
アルルが言うと、ベルフィーはこう言った。
「運転してみる?」
「ええっ!? いいの?」
「いいわよ。家すぐそこだし。私らは後ろに乗っとくわね」
アルルは、虎の大きな顔の下に付けられたあぶみに脚を乗せると、首の付け根にまたがり、手綱を握った。
「ドウドウ!」
アルルが手綱を引くとゆっくり歩き出した。
《虎ック》の後方では、二人が会話している。
「買い出し?」
「うん。港町まで行ってきたわ」
「そりゃ大変だったね。あっちは魔王軍多いからね」
「今日大きな商船が来たからね」
「なるほど。今日は聞いて欲しいことがあってさ……」
ドリフィーが、話を切り出そうとした。
「そっちじゃないよー!」
アルルが《虎ック》の操縦に困っていた。
「代わろうか」
そう言って、ベルフィーがゲラゲラ笑っていた。
ベルフィーの家に着くと、アルルとドリフィーは荷物を下ろす作業を手伝った。
ベルフィーの夫のカイル・ノアが出てきた。ベルフィーと対照的に、痩せて背が高くひょろっとしていた。
「久しぶり! いらっしゃい」
「カイルさん、お久しぶりです」
「まだ、時間もそんなに遅くないし、ご飯食べていけば?」
ベルフィーがそう言うと、ドリフィーも「そうね」と答えた。
今日の晩御飯は、煮込み料理(根菜と干し肉)、黒パン、野菜スープ、保存野菜の漬物。
湯気の立つ鍋を三男のミロが運ぶ。
煮込まれた芋と肉の匂いが、部屋に広がる。
ベルフィーはパンをちぎりながら、切り出す。
「ドリフィー、なんか言いかけてなかった?」
「ああ、うん……。魔王の手下がね、指輪を奪いにきたの。襲われたわ」
「そうなの!? 大丈夫だったの? 怪我はなさそうで良かった」
ベルフィーは、ドリフィーの肩に手を置いた。アルルは、左手の指輪を見せた。
「家に隠蔽魔法かけたけど、正直怖いわ。一人ならいいけど、アルルがいるから……」
「そうだね。しばらくうちに来たら? 学校には少し遠くなっちゃうけど……。ここで住めそうなところ探しておこうか?」
「でも迷惑かけちゃうし……」
「いいのよ。みんなで守ればいい」
「襲われるくらいなら、指輪渡したらダメなの?」
アルルの一言にみんなびっくりする。
ベルフィーとドリフィーが目を合わせてお互い頷き合った。
「アルル、お前には言っていなかったことがあるわ」
「何? おばあちゃん」
「その指輪はね……古代魔法を解放する鍵なのよ」
「ええっ!?」
「正確に言うと、魔王は古代魔法を全て掌握できてはいないの。だから、何故かバレたみたいだから、バレた以上は必死に探すと思うわ」
ドリフィーが説明すると、ベルフィーも続けた。
「もし、魔王にそれが渡ったら、魔王の力はもっと強力になって世界を自分の思うがままにしようとするわ」
アルルは、ほぅっ、と長いため息をついた。
……でもなんで?
「でもなんで、そんな指輪がここにあるの?」
ドリフィーは、落ち着いた声で言った。
「私たちは、古代魔法を使っていた、古代人の末裔なのよ」
アルルの額に汗が滲んだ。
――教科書に載ってた、あの古代人? 私たちが末裔?
……嘘でしょ?
アルルは手にしていた黒パンを落とした。
◇
同じ頃――
グレンは兄のシグルド・バルドに剣を打ち込んでいた。
何度弾かれても、無言で構え直す。
「……遅い」
短く言われると、グレンはわずかに踏み込みを速めた。
それでも、刃は届かない。
日が落ちても、庭には木剣の音だけが残っていた。
虎ック
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