第57話 光と闇の魔法
翼獅子は、イリヤとアルルを乗せて、山脈のドラゴンがいた洞窟へと入って行った。もう空は明るくなりかけていた。
奥の神殿の手前で地面へ降りると、歩いて中へ入っていった。
神殿の右手のベッドへ近づくと、身を低くしてアルルを下ろした。そして、イリヤの胸の服を齧って持ち上げ、ベッドの上へ下ろした。
アルルは飛行中、イリヤに治癒魔法を施していた。傷はすっかり塞がったが、まだ意識は戻っていない。
「まだ起きないね……何でだろう?」
アルルがそう言うと、ピーちゃんがアルルの胸ポケットから出てきて、羽をパタパタさせた。
「はー! 窮屈だった!」
翼獅子のシオンはまだ変身を解かず、鼻でクンクンしながら部屋の何かを探していた。
「何探してるの?」
「アルルは、喉乾かないか? 俺は乾いたから、池を探して水を汲んでくる。入れ物ないかなーって思って……。あった!」
翼獅子は、大きな布袋を咥えていた。
グゥ……。
アルルの顔が真っ赤になった。お腹を押さえている。
「何も食べてなかったからな……何か食べるものも探してくる」
「……ありがとう」
「木の実もあったらよろしく!」
ピーちゃんもすかさず頼んだ。アルルの目には、翼獅子が笑って見えた。翼獅子は、颯爽と神殿の出入り口に消えて行った。
アルルも何かないか神殿の中を探し始めた。神殿は殺風景に見えていたが、意外と重ねられた木の箱には生活用品など、色々なものが入っていた。
(眠い……)
一晩中、シオンの背中に乗っていて眠れなかったからだった。
長方形の大きなテーブルがあり、椅子があったので、アルルは椅子に座った。イリヤの方を見たが、まだ意識は戻っていなかった。
テーブルに突っ伏すと、いつの間にか眠っていた。
◇
「……ルル。アルル」
呼ぶ声でアルルが起きると、テーブルをはさんだ椅子にはシオンとイリヤが座っていた。テーブルにはパンとスープ、ローストされた厚切り肉、大きなチーズ。そして、果物など豪華な食べ物が乗っていた。
ピーちゃんは、食べ終わったのか大きなお腹をテーブルにつけて座り、ゲップをしている。
「イリヤさん、元気になったの?」
アルルは、スープを啜っているイリヤをまじまじと見た。
「はい。アルル殿のおかげですっかり元気になりました」
イリヤが笑うと、魔族という種族関係なく、普通の人間に見えた。アルルは、テーブルの上の料理を指さした。
「この食べ物は……?」
すると、シオンが少し小さい声で言った。
「近くに家があってね、ちょっと脅し……ゴホゴホッ。パンと水とリンゴをおすそ分けしてもらったんだよ。魔石置いてきたからいいだろ……」
アルルは、シオンを睨んだ。イリヤが振り返って神殿の奥を指さした。
「奥にキッチンがあるんだ。スープはそこの材料で作ったんだよ」
グウゥゥ〜。
(もうやだ……。お腹鳴っちゃう)
アルルは、お腹を押さえた。ピーちゃんが、またリンゴを突き始めた。
「アルル! いっぱい食べなよ! うまいぞ!」
アルルは遠慮がちにスプーンを手に取って、スープに口をつけた。
(美味しい!!)
アルルは、パンやロースト肉を頬張った。喉が詰まって、胸を叩いた。
「ほら、水!」
シオンが水を渡す。
「よっぽど、腹が空いてたんだな」
「ふっとたへてなかったもの……」
(美味しすぎるー!)
アルルは、口の中の肉をスープで流して飲み込んだ。
「シオンは食べたの?」
「とっくに食べたよ。アルルが寝てる時に……。ねみぃ」
シオンは、ベッドに行って横になると、すぐに寝息を立て始めた。
アルルは食べながらふと気になった。洞窟の奥にいると、時間の感覚がなくなるようだ。
「今は何時ごろなんだろう……」
「今は、夜になった所ですね。アルル殿は、昼から夕方まで寝ていました」
イリヤは上品にパンをちぎりながらスープに浸して食べている。
アルルは、魔王について色々と知りたくなった。情報を仕入れられるのは、今しかないかもしれない。
「イリヤさん。魔王って強いんですか? その……弱点とか無いんですか?」
イリヤの手が止まる。しばらく、スープを見つめていた。
「バエルは、私と同じ《不老不死》の魔法がかけられています。……どこかにその魔法を解除する魔法があるといいます。魔族たちはまだ《不老不死》の魔法は手に入れていません。もちろん、解除する魔法も」
(その魔法は、ジャックさんが守ってる魔法だわ……)
「噂ですが、《不老不死》の魔法は一度きりしかかからないとか。もしそれが本当で、魔王の不老不死を解除できたら、それが弱点かもしれないですね」
イリヤはそう言って、静かに微笑んだ。しかし、その後眉間にシワを寄せて厳しい顔をした。
「ただ、魔王の魔法力、魔力、それに軍の力は強大です。簡単には太刀打ちできないでしょう……」
イリヤの声がだんだん暗くなってきた。しかし、アルルは逆に声が大きくなっていった。
「イリヤさんの古代魔法を教えてください!」
「……それは構いませんが、アルル殿は魔族と違うから、光属性の古代魔法しか覚えられないかもしれません。私の魔法は闇属性なんです」
「そっか……。でも、試したい!」
アルルは目をキラキラさせた。
「光と闇は交わらないはず……。アルル殿、もう食事はいいんですか?」
「……もうお腹いっぱい。イリヤさんは?」
「私もです。ここはシオン殿が寝ているから、神殿の外に行きましょう」
「アルル、俺もいく!」
ピーちゃんがアルルの方に飛んだ。
「まだ俺は、信用したわけじゃないからな!」
ピーちゃんは、イリヤを睨んだ。
「ピー殿は、アルル殿を守る騎士ですね」
イリヤはピーちゃんを見て微笑んだ。
「フンっ」
ピーちゃんは鼻を鳴らした。
◇
神殿前の広場に出た。
「アルル殿、変身魔法と爆発魔法、どちらが習いたいですかな?」
「どっちも習いたいです!」
アルルは、ニコニコしながら答えた。
「……では、変身魔法からに致しましょう。アルル殿は召喚魔法は出来ますか?」
「はい」
「変身魔法は、召喚魔法と同じで、同じ種の生物は概念が寄ってしまうために一つしか変身できません。また、召喚魔法とは違い、消費魔力が大きいために長く変身できません」
ピーちゃんが口を挟んだ。
「ドラゴンに変身はやめてくれよ! アルルを守れないから!」
イリヤは、ピーちゃんの方を見た。
「……わかりましたよ」
『メタモルフォーゼ!(変身せよ!)』
すると、黒い波動がイリヤの体を包み、みるみる小さくなっていった。
「あれ? どこ?」
よく見ると、一匹の大きな蜂がブンブン飛んでいた。
(この蜂がイリヤさん?)
蜂は、ピーちゃんの頭に止まろうとした。
「やめろっ!」
ピーちゃんは、慌てて飛んで行った。
「蜂は相性悪いんだっ!」
蜂は、アルルの肩に止まった。
「変身してみてください。どんな生き物でも構いません」
「あの……。人間にも変身できるの?」
「したことはないのでわかりませんが、できるはずです。ただし、一度変身したら違う人間にはなれません。召喚獣と同じく概念が固定化されてしまうからです。ですから、あまり色々な種類は変身しない方がいいです。あと、大きい生き物ほど、魔力を消費します」
「……なるほど。それも召喚獣と同じね!」
アルルはしばらく、顎に手を当てて考えていた。
(何に変身しよう?)
ピーちゃんが戻ってきて、蜂と反対側のアルルの肩に止まった。
「まずは偵察用に飛べる小さな生き物がいいんじゃない?」
「ピーちゃん……たまにはいいこと言う」
「たまにはってなんだよ!」
ピーちゃんが羽をばたつかせると、アルルは笑った。
「あ! いいこと思いついた」
アルルは含み笑いをする。
『メタモルフォーゼ!(変身せよ!)』
アルルが唱えると、黒い波動が体を包み、みるみる小さくなっていった。やがて、一羽のメジロが姿を現した。
その黒い波動を、イリヤは見逃さなかった。
メジロが二匹飛んでいた。
「ばっ! 何でメジロなんだよ」
ピーちゃんは、アルルのメジロの周りを回って飛んだ。
「メジロになってみたかったんだもん」
「クスクス」
蜂から笑い声が聞こえた。
(アルル殿は、光と闇の魔法が使える……。もしかすると、この世界の希望の光になるのかもしれない)
二匹のメジロと蜂がしばらく洞窟の中を飛び回っていた。




