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癒しの雫  作者: 蒼井みつき
第2章 アルル・ベリファードと古代魔法

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第53話 ドラゴンの巣穴

 シオンとアルルは、馬車でドラゴンの巣穴へ移動していた。少しでも魔力を温存するためだった。それに、急いだところで花嫁は食われるわけではなく、花嫁としての扱いは受けるらしかった。


 花嫁の馬車を見送ったあと、村のとあるお婆さんが色々教えてくれた。昔、花嫁が一度だけ実家に戻ったことがあるという。


 当時の花嫁は、母親の具合が悪い時に嫁に出され、どうしても一度帰りたいと毎晩泣いていたそうだ。すると、『一晩だけだぞ』とドラゴンは許した。一晩だけ実家に帰り、母親と過ごしたそうだ。母親は、次の日亡くなってしまったが、穏やかな顔をしていたという。


「ちょっと待って下さい」

 

 アルルは、おばあさんの前に手を出して制止した。


「ドラゴンは、喋れるんですか?」


「ああ、そうらしいなあ。なんでかは知らんが……」


 (ピーちゃんと同じ?)


 もうピーちゃんは、ドラゴン討伐に反対するのは疲れたようで、すました顔をしてアルルの肩で毛繕いをしている。


 (なんかあったらシオンをドラゴンのエサにして、アルルを逃がそう……)


「あんたら、ドラゴン討伐はやめた方がいいと思うけどなあ。もし、災いが来たらどうしてくれるんじゃ?」


 その言葉に、アルルは返す言葉がなかった。


 シオンが口を出したそうに、はっきりとした口調で聞いた。


「婆さん、ドラゴンの巣穴はどの辺にあるんだ?」


「教えたくないが……」


 お婆さんは口ごもった。シオンが小さな革袋をおばあさんに渡した。お婆さんは、袋の中身を覗くと、急に明るい表情になった。キョロキョロと周りを見回したあと、小声で言った。


「ここから街道沿い西にずっと行くと左手に山がある。その山の頂に向かって歩いていくと、断崖絶壁に大きな洞穴がある。その奥にいるそうだよ」


「ありがとう」


「まいど!」


 お婆さんは革袋を大事そうにしまうと、そそくさと街の中へ行ってしまった。


 アルルはなんとなく察した。

 シオンがここまで乗ってきた馬車を指差した。


「これで行こう」


 アルルがコクンと頷いた。


 ◇ 


「花嫁か……」


 シオンが馬車の窓に肘をついて、呟いた。

  

 アルルは、シオンの顔を見た。


「花嫁に何かあるの?」


「うちのボスの妹、ネフィラとエドガーは恋仲なんだ。でも、ネフィラは諜報活動してるから、表向きなんもないのさ。結婚式なんてとてもとても……」


「なら、仲間うちだけでも挙げられないの?」


「……ボスがなんて言うか……。恋愛禁止! までは行かないけど、反対してるからな」


「そっか……」


 アルルは、ドラゴンの花嫁や、結婚式ができない花嫁の話を聞いて、胸がチクンと痛んだ。ふと、アランのことを思い出した。


 (アラン、今頃何してるのかな……。私がもうシェンルーにいると思ってるかな?)


 シオンがアルルの方に顔を向けた。


「アルルってさ、古代魔法なんでもできるんだよな?」 

 

「なんでもってわけではないけど……どうして?」


「俺たち、それぞれ固有の魔法しか出来ないんだ」


 シオンの話によると、ローガンは、爆発魔法と硬直魔法、ネフィラは氷魔法と沈黙、エドガーは暴風魔法が使えるが、他の魔法は使えないらしい。


「使えないという言い方は、語弊があるな。別系統の魔法を覚えようとすると、元々覚えていた魔法が弱くなっていく。それに、同系統の違う魔法は使えない。攻撃魔法や補助魔法は系統ごとに一つしか覚えられない。召喚獣も同じ種類の動物は一種類しか召喚できないだろ?」


「そうなんだ……」


 (そんなこと考えたことなかった。魔法なんでも使えると思ってた)


「アルルは……たぶん、ミシェル大魔法師の血族だからだよ」


「そ、そうなのかな?」


「そうだと思う。それしか説明がつかない」


 (あれ? ジャックさん……ジャックさんはなんで、なんでもできるんだろう?)


「あ、シオンは、なんの魔法ができるの?」


「俺は……これさ」


 シオンが何か呟くと、シューという音と共に、体が小さくなっていった。 


 馬車の座席には、一匹の可愛らしいリスがいた。


「ピピピ?!」


 ピーちゃんが目を丸くしてみている。


「変身だ!」 


 アルルは思わず、叫んだ。リスに手を持っていくと、手のひらに飛び乗った。


「変身はあくまで、魔力で姿を変えているだけだ。魔力がなくなれば変身は解除される」

 

 可愛らしい顔からシオンの声がする。アルルは小さく笑った。


 ◇


 何日も馬車を走らせているが、なかなか山に辿り着けない。しかし、だんだんと高い木々は無くなり、高山植物が生えていて、見晴らしが良くなってきた。その代わり、大きな砂利が多く馬車がよく揺れる。


「今日の夕方にはドラゴンの巣穴の近くに着くだろう。いよいよ明日だな」


「花嫁の馬車には追いつけなかったね」 

 

「そうだな。ゆっくり行くものと思ってたんだが、早かったな」 

 

 そんな話をしていると、反対側から白い馬車が走ってきた。悪路なのに飛ばしている。よく見ると、花嫁が乗っていた馬車だった。


 シオンが馬車を降りて、両手を広げて白い馬車を止めた。


 御者が物凄い剣幕で怒っている。ムチでシオンを叩きそうな勢いだ。


「なんだよ、お前! 邪魔すんな!」


「花嫁は?」


「ドラゴンが連れてったよ! とっとと帰るんだからどいてくれ! あー、怖え!」


 シオンが仕方なく体を脇へ避けると、御者は馬に鞭をあててあっという間に過ぎ去った。


 シオンが馬車に戻る。


「……花嫁はもうドラゴンの元に行ったようだ」


「そう……」


 アルルは窓から左手にそびえ立つ山を仰ぎ見た。


 しばらく砂利が多い街道を進むと、左手に断崖絶壁が見えてきた。すでに日は傾きそうな夕暮れだった。


「明日の朝、巣穴に向かおう」


 二人は、テントは張らず、馬車の中で寝ることにした。


 パンを食べた後、アルルは横になった。ピーちゃんは、馬車の外で、虫集め魔法で虫を食べていた。


 隣にはシオンがすでに横になっていて、フードを顔にかけて寝ている。

 

 (シオンて、変身してから戦うのかなあ?)


 ピーちゃんが食事から戻って来た。座席の背もたれの上にとまった。

 アルルは毛布をかぶるが、明日のドラゴンとの戦闘のやり方を頭の中で考えていた。


 (歩ガサスに乗りながら、飛んで魔法を撃つ方がいいのかな? それとも、巣穴の中は歩きの方がいいのかな……)


 そのうちアルルは意識が遠くなっていった。


 ◇


 夜明け前。

 一羽のフクロウが、断崖絶壁を上昇しながら飛んでいく。


 羽音はしない。静かに羽ばたきながらドラゴンの巣穴へ入っていった。

 

 洞窟の中は真っ暗だった。フクロウは暗闇をもろともせず、見えているかのように天井に近い空間を颯爽と飛んでいった。


 洞窟は奥に行くほど、広くなっていった。地面にはところどころボーッと青白く光っているところがある。魔石だった。


 洞窟を進めば進むほど、魔石の数は多くなり、うっすら周りの景色が見えるほどにあちこち光っていた。


 急に高い天井の空間に出た。そこには、神殿のような建物が建てられていた。白い柱に支えられて、白い天井も石でできている。


 フクロウは少しの間、神殿の手前で停滞飛行していたが、ヒューっと吸い込まれるように入っていった。


 神殿に入ったところは、正面が壁に隔てられ、左右に通路が分かれている。フクロウはその壁の左通路を進むと、神殿の中の部屋が見えた。


 壁には蝋燭の灯りが備え付けられており、中が見渡せた。数十メートルもあるような広い部屋で、中央の台座には赤褐色のドラゴンが頭を地面につけて寝ていた。


 右側にはベッドがあり、花嫁が横になって寝ていた。


 フクロウは、ベッドの上に止まった。


「おい……起きてくれ」


 フクロウは、花嫁の頬をつついた。


「痛い!」


 花嫁は、体を起こした。


「何? ……フクロウ?」


「シッ。静かに」


 花嫁は、しゃべるフクロウを目の前にして目を丸くした。

 

「俺は、シオン。変身魔法だ。助けに来た。逃げよう」


 花嫁は、首を横に振った。 


「私が逃げたら……ドラゴンが怒って街を襲うの」


「そうなる前に、俺たちがドラゴンを倒すよ」

 

 花嫁はまた首を横に振った。


「そんなの無理よ」


 その時、何かが大きく軋む音がした。


『誰かいるのか?!』


 フクロウが後ろを振り向くと、ドラゴンの顔があった。


 慌ててフクロウは、出口に向かって飛んでいく。ドラゴンは燃え盛る息を吐いた。


 フクロウは入り口の壁の向こう側へ逃げた。間一髪、炎は壁を焦がした。フクロウは神殿の外に出た。


『待ちやがれ!』


 ドラゴンは巨体を揺らしながら神殿の外へ出た。その時には、フクロウはすでに洞窟の出口へ向かっていた。


 フクロウは洞窟を出ると、少し離れた街道に止まっている馬車の近くへ降りた。


 魔法を唱えると、フクロウから男性の姿に変身した。


 シオンは馬車の扉を開けた。


 空は夜が明けて、もう明るくなっていた。

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