第50話 墜落
ピーちゃんは、アルルの指輪を咥えながら、森の上を飛んでいた。
(高く飛んだほうがいいのか、遠くに行ったほうがいいのかわからないや!! 高く飛んでも、奴らが飛べたら目立ってしまう)
ピーちゃんが後ろを見ると、遠くの方にこちらに向かってくる点が見えた。森の上を飛んでいる。
(アルルか?)
ピーちゃんは、しばらく空中で羽ばたいて誰がくるのか見ようとした。
(……本当に酷い奴らだな。あいつら。騙しやがって!)
ピーちゃんは心の中で文句を言いながら、近づいてくる人を待った。
(きっとアルルだ)
ピーちゃんの体に対して、指輪は結構重い。落とさないように気を配る。
(あれ? ……アルルじゃない)
ピーちゃんに向かって猛スピードで飛んでくるのは、アルルではなく、褐色のドラゴンに乗っているローガンだった。
(ああっ! やばい! 逃げろ)
ピーちゃんは、目がいいからまだ距離は遠い。しかし、追いつかれるのも時間の問題だった。
(森の中に入るか? でも逃げる速度は落ちてしまうし、枝にぶつかって指輪を落とすかもしれない……)
ピーちゃんは、このまま森の上を北西に向かって飛行した。真西のはるか遠くには、山脈の影が見えた。
◇
「ピーちゃんどこー?」
暗くなりつつある空を見渡すが、三百六十度遥か遠くまで森が続いているだけだった。
アルルは、一瞬閃いた。
(そうだ、伝書鳥)
手を伸ばすと、空中に魔法陣が広がり、一匹の鳥が魔法陣から出現した。
「ピーちゃんに届けて」
伝書鳥は、コクンと頷くと、パーッと飛び立った。
(あれについて行こう!)
アルルは急いで伝書鳥の後を追った。
◇
「ハァハァ」
ピーちゃんは、どこへ逃げようか判断がつかないまま、森の上を飛行していた。
(しかし、なんで位置わかるんだ?)
ふと隣を見ると、鳩のような鳥が一緒に飛んでいた。こっちを向いている。普通の鳥ではなかった。目が無かった。
「わぁーーっ!」
ピーちゃんは、クチバシを開けてしまった。指輪がピューっと落ちていく。
(まずい!)
ピーちゃんは、指輪へ追いつこうと一緒に落ちていった。しかし、金の指輪は木の影に落ちていく。
(見失うもんか!)
ピーちゃんは、木の枝にぶつかりながらも必死に指輪から目を離さなかった。枝にぶつかり指輪が跳ねた。何度もぶつかり、跳ねながら地面に落ちた。
ピーちゃんは、落ち葉の中にクチバシと頭を差し込んで、しばらく探していた。
(この辺なんだけどな)
「あった!!」
クチバシで指輪を挟んだ時、ズザザザザーッとものすごい音がした。
ピーちゃんは、落ち葉の中から顔を出した。すると、目の前には褐色の大きなドラゴンと、それに乗ったローガンがいた。
「ガオオーッ」
ドラゴンは火を吐いた。
(あちちっ!)
ピーちゃんは慌てて翼を羽ばたかせ、炎から逃れようとした。しかし、炎は地面に落ちても木々に燃え移ることなく、まるで意思を持っているかのように、ピーちゃんの周囲だけを追いかけてくる。
(なんだ、この火!? 普通の火じゃない!)
ピーちゃんは指輪を咥えたまま、必死に炎を避けた。
「逃がすな、ドラグネシアス!」
ローガンが叫ぶ。
ドラゴンは大きく翼を広げ、ピーちゃんの逃げ道を塞ぐように前へ回り込んだ。
(くそっ! このままじゃ捕まる!)
ピーちゃんが方向を変えようとした、その時だった。
「ピーちゃーん!!」
ローガンの後ろの方からアルルの声が響いた。
見るとこちらへ向かって飛んでくる伝書鳥と、その後ろを追ってくるアルルの姿が見えた。
ローガンが振り向く。
「チッ!」
ドラゴンが炎を吐く瞬間、アルルは防御魔法を張った。
アルルの周囲を炎が取り巻くが、アルルには触れられていない。すかさずアルルは手を伸ばして右から左に手のひらを返す。
すると、暴風が起こり、炎を押し返した。
「なんだこれは!」
ローガンは、自分のドラゴンが発した炎に包まれた。
「やめろ! ドラグネシアス!」
ローガンとドラゴンはそのまま竜巻に飲まれた。落ち葉や枝が舞い、ローガンに激しく打ちつけた。
アルルは右手を回転させながら、左手を上から下に動かす。
すると、今度は風と共にキラキラと氷に包まれて真っ白になった。
「くそっ!」
ローガンは氷や枝に打ちつけられ、目が開けられなかった。耐えきれず、森の上空へ逃れた。
アルルはピーちゃんのところに近寄ると、ピーちゃんが指輪を咥えながらアルルの肩に止まった。
「ピーちゃん、ありがとう!」
アルルが指輪を嵌め直すと、ピーちゃんがじーっとアルルを見つめる。
(アルル……俺、喋れない……)
ピーちゃんが目で訴えると、アルルが気づいて解除魔法をかけてあげた。
「やっと喋れた……」
「ごめん、気づかなくて」
「ローガンがまだ近くにいるぞ」
「うん、わかってる」
ピーちゃんは、アルルのポケットに潜ってから顔だけ出した。
アルルは防御魔法を張りながら、歩ガサスで森の上に飛んだ。
案の定、ローガンが待ち構えていた。
『ウォクス・アリエーナ、タケー!(他者の声よ、沈黙せよ!)』
ローガンが沈黙魔法を放った。しかし、アルルの防御魔法に弾かれた。
アルルが手を動かし、魔法を繰り出そうとした瞬間、ローガンが杖を高く持ち上げた。
『エクスプロジオ・マグナ!(大いなる爆発よ、轟け!)』
杖から巨大な炎の塊がアルルに向かって放たれた。アルルの防御魔法は、沈黙魔法を防御したことで溶けていた。
(やばい)
次の瞬間、爆風にさらされアルルの体は遠くに飛ばされた。強い衝撃と熱さがアルルを襲った。
アルルは気を失い、森に落ちていった。歩ガサスは影が薄くなり消えていった。




