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癒しの雫  作者: 蒼井みつき
第2章 アルル・ベリファードと古代魔法

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第49話 古代魔法の継承者

 ベルノアから、川を越えて北東に進んだ森の中。


 森の中のポツンと大きな家が立っているそばに、二台の馬車が停まっている。離れたところにもう一台も停まっていた。


 その家の広いリビングにざっと二十名ほどが集まっている。アルルは椅子に座らされて、その部屋の真ん中寄りにいた。


 真ん中のソファーに座っているのは、三十歳前後のリーダー格の男と、その隣に同じくらいの年代の男が二人とその傍らに女性が一人立っていた。


 アルルは、馬車で移動中にその三十歳前後のリーダー格の男と挨拶を交わしていた。


 馬車に揺られながら、アルルは恐怖心がないことに驚いていた。


「俺の名は、《ローガン・ヴァレス》。古代魔法が使える。君、硬直の古代魔法使ってたろ? 襲われてたシオンを助けてくれた。名前はなんという?」


「アルル・ベリファードです」

 

 ローガンは、右手を出して握手を求めた。アルルも右手を差し出した。


 (ジャックさん以外にも古代魔法使える人いたんだ……)


 ローガンは、杖は持っておらず、魔法使いらしくなく剣を携えていた。嫌味のない笑顔だった。


 アルルは、我に返ると目の前に座っているローガンに視線を戻した。


「俺の名は紹介したな。ローガン。みんなにはボスと呼ばれてる。隣にいるのは、エドガー・レインとシオン・グレイス。その隣に立ってるのが、俺の妹のネフィラ」


「「「よろしく」」」


 ローガンは、偉そうな態度をせず、両膝に肘をついて前傾姿勢で真剣な表情で話し始めた。


「俺たちは、魔王国の情報を仕入れながら、同志を集めてるんだ。いつか……魔王国を倒す!」 


 ローガンは右手の拳を左手の掌にぶつけた。


「君は古代魔法が使えるようだけど、どこからきたんだ?」


「ルーヴェンの近くです」

 

「もしかしてルーヴェン魔法学校の……?」


「はい」


「まさか、ミシェル大魔法師のゆかりがあるのか?」


「ミシェルさん……知ってるんですか?」


 その瞬間、周りの空気が変わった。緊張感が流れる。


 アルルは一瞬、言おうか言うまいか迷ったが、ローガンの笑顔を思い出して言うことにした。


「ミシェル……大魔法師の子孫らしいんです」


 周りの人々は、驚きに満ちていた。


「本当だったんだ! ミシェル様の故郷に子孫がいるという噂は」


 ローガンやその他の人々は、アルルにひざまずいた。


「アルル様……ご無礼お許し下さい。我々の一族は、昔ミシェル大魔法師から古代魔法を教わり、代々受け継いでいます」


 アルルは逆に恐縮してしまった。


「そんな……みなさん顔をあげて下さい。普通に座って下さい」


 アルルがそういうと、皆座り直した。


 アルルは古代魔法やミシェルについて、もっと知りたくなった。


「ローガンさんは、古代魔法について詳しいんですか?」


「……はい。代々伝えられているものなら」


「ミシェル……大魔法師は、大昔にこの街に来ていたんですか?」


 ローガンの話によると、ルーヴェンで生まれたミシェルは、魔法の才が高く、自分で幾つも魔法を編み出すほどだった。


 修行と、そして古代魔法を広めるため、各地を回り、二度目にベルノアを訪れた際に、アリアという女性と出会って結婚したらしい。


 結婚後、故郷のルーヴェンに戻って余生を過ごしたという。


「二人で不死魔法をお互いに使った。永遠の愛を得るために」 


 ローガンは、淡々とミシェルの歴史を話した。


「ところが、大喧嘩した時にアリア様は自分の不死魔法を解除してしまった。《一度解除すると、不死魔法は二度とかからない》」


 アルルは黙って、両手を膝の上に重ね聞き入った。


「当然、アリア様だけ歳を重ねていった。ミシェル様はいつも苦悩していたらしいです」


「そしてついに、アリア様の寿命が尽きてしまった……」


「ミシェル様は、しばらくの間外に出られなかったようです。その間、ますます魔法の研究にのめり込むようになった。そしてついに、《時渡りの魔法》が出来た……」


 アルルが思わず、息を呑んだ。


「その魔法、聞いたことあります。……ミシェルさんが過去に連れていった生き物が魔物化したって……」


「その通りです。そしてその魔法は、古代の遺跡のどこかに封印されているといいます」


「ピピピ!」


 ずっとおとなしくしていたピーちゃんが、急に暴れ出した。


「アルル! 教えるな!!」


 ピーちゃんが低い声で叫ぶと、みんな目を丸くした。


「ほう……喋る鳥ですか!」 


「ピーちゃん、教えるなって何を?」


「その指輪が封印を解く鍵ってことだよ……あっ!!」


 ピーちゃんは、顔を股の下にうずめた。


 (思いっきり言ってるじゃない……)


「時渡りの魔法を解放する鍵が指輪と聞いたことがあります……少し見せていただいてもいいですか?」


 アルルは、ハッとした。


 (時渡りの魔法の鍵なんだ、この指輪……)


 アルルは手をグーのまま左手を差し出した。ピーちゃんが、暴れてアルルの左手に乗った。

  

「アルル! 騙されるな!!」


「ピーちゃん、うるさい……」


 (自分でバラしたくせに)


「ありがとうございます。このピンクの癒しの属性の石は、ミシェル様らしい。ミシェル様は、古代魔法を編み出される前は回復魔法師だったと言われています」


「そうなんだ……」

 

 アルルは、ミシェルが回復魔法師と知り、親近感を覚えた。ふと、ジャックのことを思い出した。


「ローガンさんは、ジャックさんのこと知っていますか?」


「ジャック?」


「ジャック・エルカーンさんです。ミシェルさんと仲が良かったらしいです」


「いやあ……聞いたことないですね。昔の方ですよね?」


「えと……、不死の魔法で今も生きています。私の古代魔法の師匠です」


「……ほほう。アルル様の師匠なんですか」


 周りの人々がざわついた。


「その方も古代魔法を?」


「はい。ちょっと変わった人だけど、色々教わりました」


「アルル様、私に古代魔法を教えていただけませんか?」


「あ……私も、あの爆発魔法? あれ古代魔法ですよね! 私も教わりたいです!」


 アルルが目を輝かせて言うと、ローガンは優しく笑った。


「では、陽が落ちる前にひと運動しましょうか」


「はい!」


 ◇


 家の外に出ると、家の周りだけはひらけていて、周囲は森に囲まれていた。家の前には広場があった。


 アルルは、ローガンの後ろをついて歩く。他の人もゾロゾロとついてきた。

 

「この一帯には、隠蔽魔法と報知魔法を仕掛けてあるんです」


 アルルとローガンは、広場の真ん中でお互いに向き合った。その周りを隊員が丸い大きい円で取り囲んでいる。


 ローガンがアルルに歩いて喋りながら近づいていく。


「我々は、オラン大陸の騎士団でした……」 


 どこからか小さな杖を取り出したのか、右手に握っている。杖を前に出した。


『ウォクス・アリエーナ、タケー!(他者の声よ、沈黙せよ!)』


 アルルは、口を開けても声が出せなくなった。ピーちゃんも、アルルの肩の上で、口をパクパクしている。すかさず宙に飛び立った。


 (ええっ? 喋れない! ローガンさんなんで?!)


 続けてローガンは、古代魔法を詠唱した。

  

『コルプス・リーゲ!(肉体よ、硬直せよ!)』


 アルルの体が固まって、動けなくなった。ローガンが、アルルの左手から指輪を抜いた……。


 (あっ! やばい! 手が動かせない)


 アルルが無詠唱するが、手が動かせないので攻撃が当たらない。


 ローガンが、指輪を目に近づけてまじまじと見ていた。


「やりましたね! ボス!」


 ローガンが、アルルに近づいて言った。


「俺らは、魔王国に勝たないといけないんだ。そのためにはこの指輪が必要なんだ。悪いな」


 ローガンが、指輪を指で弾いた。その瞬間、緑のものが素早い速さで指輪をさらっていった。ピーちゃんだった。


「あっ! コラっ!!」


 ローガンは雷魔法をピーちゃんにかけた。が、ピーちゃんはよろけて落ちかけたものの、そのまま森の方へ飛んでいった。


「くそっ! 追えっ!」


 ローガンの仲間がみんな移動していく。一人が、アルルを見た。


「ボス、この子はどうしますか?」


「……ほっといていい。どうせ、動けないだろう。早く行け!」


 アルルはポツンと一人残された。


 (ああ……、ピーちゃん! ……自分で解除出来るだろうか。やるしかない)


 アルルは、魔力を全身に巡らせた。だんだん体の周りが白くなっていく。


 (我が体を清めよ……)


 体がふわっと軽くなる。同時に体が動かせるようになった。手をグーパーする。


 (よし!)


 《歩ガサス》を召喚する。緑の魔法陣が大きくなり、羽の生えたポニーが姿を現した。


 (ピーちゃん、今行くから!)


 跨ぐと、あっという間に空へと駆け出した。もう空は、夕焼けのオレンジと黒青のグラデーションができていた。

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