第47話 生き残る術
ザパァーン!
ハロルドとグスタフとロイは、力一杯押して、小型帆船を陸から海水に下ろした。
アルルは、彼らがセレスタで買って来た食料と水を両手いっぱい抱えていた。もちろん、アルルが村長の息子からもらったお金を出していた。
みんなで荷物を船に乗せた。
「何もなければ、三日あれば着くだろう」
手の埃を払いながらグスタフが言った。
「天気はどうなのかな?」
アルルが空を見た。
「この季節は、嵐はよほどのことがない限りこないと思う」
ハロルドも空を見て言った。
「……しかし、なんでこんなところに魔王軍が来てるんだろうな」
グスタフが船に乗せた荷物を整理しながら言った。
「さあ?」
ロイが首を傾げた。
アルルは黙って聞いていた。
「この分だと、エルミナやフェルンの本土の海に近い街も魔王国兵士で溢れかえってんのかな?」
グスタフがアルルに問いかけた。
「魔王国軍に追われてるって言ってたよな」
「うん……」
「……もしかして、アルルを探して魔王国軍が集まってる?」
「うん……」
アルルは頷く。
「まじかよ!」
四兄弟は、一斉にアルルの方を見た。みんな何か言いたげな顔をしていた。
「アルル……何したんだ?!」
「……ちょっと、魔王国の人たちと揉めただけだよ」
「ちょっとってレベルじゃねえだろ!」
グスタフが目を丸くした。
「……何したの?」
ハロルドが怖々聞いた。
「この指輪をね、魔王国が狙ってるの」
アルルは指を揃えて左手の甲をみんなに見せた。
「普通の指輪だが……?」
「なんかすごい力持ってんのか?」
「ま、まあ……そんな感じ!」
アルルは軽く笑った。四人はしばらくアルルの手を見つめていた。
(なんなんだこの子は……)
「そろそろ行くぞ」
「おう!」
アルルは船に乗った。グスタフとロイは船を押した後、乗り込んだ。
「行ってらっしゃい、グスタフお兄ちゃんとロイお兄ちゃん」
ルークが手を振った。
「無理すんなよ。危なくなったら帰ってくるんだぞ」
ハロルドも手を振った。
白い帆を張った小型船は波に揺られながら、夕方の海を北に向けて出発した。
「俺ら、交代で舵取るから、まず俺は寝とく」
そう言って、グスタフは船内の小部屋の奥に入って行った。
アルルは赤くなった空を見ながら、ふと学校の友達やドリフィー、ジャックのことを考えていた。
(リオナどうしてるかな。みんな楽しく学校行けてるかな? アランも……)
(おばあちゃん、ジャックと仲良く出来てるかな)
アルルは肩に乗って眠そうにしているピーちゃんに話しかけた。
「おばあちゃんとジャックさんは、まさかこうなってるとは思ってないよね」
「そりゃ、あのおっきな定期船で船旅してると思ってるだろうなあ」
そう言った後、しばらくピーちゃんは静止した。
「アルル、リンゴ、リンゴ!」
羽をバタバタさせた。アルルは苦笑して、セレスタで兄弟に買い出ししてもらったリンゴを袋から取り出すと、ナイフで割った。
「はい、ピーちゃん」
アルルは、ものすごい勢いでリンゴをつついているピーちゃんを眺めていた。
◇
「明日からだねえ、魔法学校に戻るの」
ドリフィーは、夕飯を食べにきたジャックに話しかけた。
ドリフィーがスープを器に盛ると、ジャックは、テーブルに置いた。
「まあ……体が鈍るからな」
「そんなこと言って、アルルの友達を守りたいんでしょ」
テーブルには、小麦パン、ほうれん草とじゃがいものスープ、鶏肉と玉ねぎの香味炒めが並んでいる。
ジャックは椅子に座ると、何も言わずスープを啜った。
「ああ、うまい」
パンにぱくついて、歯でちぎった。
「……あれから魔王軍は撤退したものの、ちょこちょこ偵察も来るし気が気じゃねえな」
「学校は大丈夫なの? 続けられるの?」
「魔王国の動きと学校の先行きが気がかりだから、俺が戻るんだよ。なんとしても学校は守る。オラン大陸では唯一の戦術が学べるところだからな。王室付属の学校は全て潰された」
「そうかい……」
ドリフィーもスープを飲んで、息を吐いた。
「ところで、今頃アルルはどこら辺かねえ」
「アストラ出たぐらいじゃねえのかな」
「無事に着くといいねえ」
「まあ……なんとかなるさ。ピーがついているし」
「ピーちゃん、ちゃんと食べてるかねえ」
「ピーは、虫の呼び寄せ魔法使えるから、食いっぱぐれはないだろ」
「おー、そうかい。喋れても、やっぱり鳥なんだねえ」
ドリフィーはそう言って笑った。
◇
次の日の魔法学校。
講堂での校長先生の話が始まった。ジャックが校長先生の隣に立っている。
「今日から魔法実践学の先生はこちらのジャック・エルカーン先生になります」
ジャックが一歩前に出た。
「また今日から魔法実践学を担当する。……よろしく」
講堂がざわついた。
「あの先生か! 今度はどんな授業になるんだろう?」
「怖くない授業がいいわ」
校長先生が、手を叩いた。
パンパン!
「魔法実践学の授業内容は、わたくしが作った授業計画に従ってもらいます」
あちこちで安堵の声が上がっていた。
「つまんないじゃん」
リオナは、そう呟いた。
◇
午後、一年生の魔法実践学の授業。実践なので、授業はいつもアリーナで行う。
ジャックは、咳払いをした。すると、みんなジャックの方を向いた。
「校長先生からの授業計画では、今日は防御魔法の授業をする」
このクラスには、リオナとジュリアンが出席していた。
リオナが手を挙げた。
「魔導士なので、防御魔法使えません」
ジャックの眉間に皺がよる。
「魔導士だろうが、剣士だろうが、防御魔法が使えないということは、死に近づくということだ」
生徒達がざわついた。
「先生、外向きの魔導士と、内向きの回復魔法師は違うって聞きました!」
リオナが手を挙げながら、大きい声で聞いた。
ジャックは、不敵な笑いを浮かべる。
「敵は、お前の職を見て攻撃してくれるのか?」
「う……」
「いいか、お前ら。魔導士は回復魔法師がついていると思うな。回復魔法師も、魔導士や剣士がいてくれると思うな。一人でも生き残れ! 生き残れる術を学べ!」
みんな口を閉ざし、静かになった。
「防御魔法を使ったことないものは、今ここで覚えろ! 防御魔法使っているやつは、より強固な防御が出来るように強化しろ!」
回復魔法師の生徒は、練習を始めた。しかし、魔導士の生徒はなかなか魔法が使えなかった。
「わからない者は、わかる者に聞け! 授業の最後で一人ずつ試験をする。俺が攻撃する」
みんな青ざめた。
ジャックは生徒達の間を歩いて回って、防御魔法ができない生徒に教えていた。
「護れ!」
リオナが杖を振っても、守りの壁が出てこない。
「杖に集中しすぎだ。自分の体の周りに魔力を送り込め。最初は膜でもいい、薄い膜をイメージしろ」
リオナが集中する。
「護れ……あっ!」
リオナの胸の前に膜のような透明なものが出てきた。
「できた!!」
ジャックはリオナの肩に手を乗せた。
「その感覚を忘れるな」
アリーナに、「護れ」の声が重なって響いていた。
授業の終わり前に、ジャックは魔導士と回復魔法師を分けて、一人ずつに雷魔法を撃つ。
パシッ!
うまく防御できた生徒は安堵の笑みを浮かべた。
中には貫通するものもいた。
「痛い!」
「いてっ!」
二人は頭をさすっている。
「いいか、お前ら。今習ったことをこれからずっと復習して強化しておけよ? わかったか!!」
ジャックは腕を組んでいる。
「はいっ!」
「今日の授業はここまで。解散!」
「「ありがとうございました」」
生徒達はお辞儀をして、アリーナを出て行った。
途中からアリーナに入ってきていた校長先生が、ジャックに近づいた。
「あなたのやりたい意味がやっとわかってきたわ……でも、このまま私の授業計画は、守ってくださいね」
ジャックは返事せず、少し微笑んだだけだった。




