第46話 四兄弟の誘い
アルルは着替えるのに、木を探した。すると、草原の中にポツンと一本の木が茂っているのを見つけた。
アルルは、木の根元に降りると、自分の背より高い木の所と地面の四箇所に『隠せよ』と、ルーン文字を指で描いた。
すると、ルーン文字で結ばれた空間が外から見えなくなった。
「ちょっと着替えるから待ってて」
「ピピ」
ピーちゃんは、木の枝に飛んで行って止まった。
周りには誰もいない。アルルの姿も隠れて見えない。風が草を揺らすサササッという音しか聞こえなかった。
しばらくすると、アルルの姿が見えて、血で黒く染まった服からいつものアルルの服に綺麗な姿になっていた。
「おまたせ」
「ピピ」
ピーちゃんは、アルルの肩に止まると羽をばたつかせた。
「この服はポケットないよ!」
「あ……」
アルルは服の胸の辺りに手のひらをかざすと、新たにポケットができた。
「すっかり『形を変えよ』魔法、上手くなったね」
ピーちゃんは、ポケットに潜った。
「縄を蛇に変えてから、自信がついたの」
アルルは、《歩ガサス》を召喚してまたいだ。
「船で魔王国の兵士に捕まりそうになった時か」
「うん」
返事すると、あっという間にまた空中へと駆けて行った。
◇
「グスタフ、帰ろうぜ」
四兄弟は、まだ戦闘した道沿いに馬車を停めていた。
「ダメだ! さっきの子の名前を聞くまでは帰らん」
「リュネ村に行ったんじゃないのか? リュネ村の子かもしれないし」とハロルド。
「いや、あんな魔法の使い手、聞いたことねえ」とグスタフ。
「お腹すいた!」
ロイの腹の虫が鳴った。
「稼ぎも無くなったし、畑荒らして帰ろうぜ」
「もう少し……待ってみたい」
「グスタフ兄ちゃん、あの子のこと好きなの?」
ルークがグスタフに聞いた。グスタフは、慌てた。
「強いから……あの竜巻魔法を知りたいだけだ。あんな魔法見たことないぞ。しかも、空飛んだんだぞ!」
ちょうどその時、上空をアルルが通り過ぎた。
(あれ? あの兄弟がまだいる?)
「あ、あの子だ。おーい!」
グスタフが、両手を振ってアルルに叫んだ。
「なんか呼んでる」
「アルル、行かなくていい」
ピーちゃんがポケットから顔を出した。
「でも……」
振り向いて下を見た。グスタフがずっと両手を振っている。
アルルは、空中でターンして降りて行った。
ドサッ。タカタカ……。
《歩ガサス》の蹄の音が響いた。
アルルは、《歩ガサス》に乗ったまま声をかけた。
「何かある?」
「名前! 教えて」
グスタフが身を乗り出している。
アルルは一瞬躊躇したが、小声で答えた。
「……先にそっちから名前言わないの?」
「俺は、グスタフ。隣の兄はハロルド。後ろの馬車の中にいるのは、ロイとルーク」
「……アルル」
「アルル、俺たちの仲間にならないか?」
グスタフがそう言うと、ハロルドやロイが慌てた。
「おい!」
ロイがグスタフの肩を掴んだ。それでも、グスタフは続ける。
「俺は、あんたの力に圧倒された。あんたとならなんでもできる」
アルルはため息をついた。
「御者を傷つけたり、お金を盗む人には協力できない」
アルルははっきりとした声で言った。そして、グスタフをまっすぐ見た。
「……俺たちは、リュネ村の奴らに恨みがある」
隣のハロルドが言った。
「俺たちの両親は魔王国と戦って死んだ……」
ロイの声が震えた。
「リュネ村の奴らは、戦う人を見捨てて、自分たちだけ安全な道を選んだ」と、ハロルド。
「それに……御者は、ルークを棒で殴ったんだ。それで、つい……」と、ロイ。
「俺らんとこに来ないか? セレスタに魔王国の軍が来ているから、一泡吹かせないか?」
「軍が来てるの?」
「数日前から来てる」
(海に近い街には、もう魔王軍が来てるのか……)
アルルは、この後どうしようかと思案した。
後ろの方でやり取りを見ていたルークがアルルに声をかけた。
「アルルはどこに行くの?」
「ん……」
アルルは、話すかどうか迷ったが、ルークのあどけなさの残る顔の真剣な眼差しを見て決心した。
「アストラに行った後、シェンルーに行くの」
「シェンルー……」と、ロイ。
「シェンルーか……遠いな」と、ハロルド。
「セレスタの定期船からエルミナまで行くんだろ?」と、グスタフ。
「ううん……」
アルルは、またイルカで渡ろうと考えていた。
「え? じゃあ、どうやっていくの?」
アルルは召喚獣のことは黙ることにした。
「……泳いで?」
「嘘だろ」と、ロイ。
「無理だ」と、ハロルド。
「やばい。死ぬぞ!」と、グスタフ。
「なんで?」と、ルーク。
「まあ、あなたたちには関係ないし」
「ピピピ!」
ピーちゃんが何か言いたげに鳴いた。
グスタフがアルルの肩を掴んだ。
「マジでそれはやめろ」
「嘘だよ。……でも、魔王国に追われてるんだよ、私」
アルルは、グスタフの手を払いながら目を見つめた。
グスタフは、ハロルドに何か囁いた。ハロルドが頷く。
「俺ら、船持ってるんだよ。本土まで乗っけてやるぞ」
ピーちゃんが羽ばたいて喋った。
「アルル、罠だ!」
「喋ったぞ! この鳥!」
四人は驚いた表情で、ピーちゃんを見つめた。
「罠じゃない。……アルルはあの時、俺ら放って行けたのに、助けたんだ。金を盗んだり、御者を切ったのに!」
ロイが握り拳を作って手を震わせた。
アルルはしばらく黙っていた。肩の上でピーちゃんが叫ぶ。
「アルル、騙されるな!」
「うるさいよ、ピーちゃん」
アルルは苦笑した。
「ルークを見てると、私の小さい頃を思い出すの」
そう言って、ルークを見て微笑んだ。
「じゃあ、お願い。船に乗せて」
アルルが微笑むと、ピーちゃんが叫んだ。
「知らないぞ! アルル」
アルルは耳を塞いだ。
「耳の近くで、うるさいよ! ピーちゃん」
四人はそれを見て笑っていた。




