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癒しの雫  作者: みつき
第1章 アルル・ベリファードと魔法学校

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第5話 家を守る魔法

 グレンとアルルは森に入って行く。リュカは罠を設置した。横に張った線に触れると、輪っかが萎み、足を瞬時に巻き取る。木の幹に固定した。両足に巻かれれば、すぐ動けなくなるはずだ。

 矢を近くに立てて、リュカは少し離れたところに隠れた。


 グレンとアルルは、森の中から胞子鹿の様子を窺う。

 胞子鹿は、草原の草を食べては、たまに顔を上げて周囲を警戒している。


 グレンが行くぞと合図した。

「うおーーー!!」

 グレンとアルルが森から飛び出すと、鹿は驚いて反対側に逃げた。 


 追った場所が罠から少し外れてしまった。胞子鹿は森へと走る。アルルが魔法を唱えた。


「跳ねよ!」


 鹿は自分の意思とは別に、垂直にぴょんぴょん跳ねた。

 

「「おおーーっ!?」」

 

 グレンとリュカが驚きの声を上げた。

 グレンは鹿に近寄る。リュカが叫んだ。

 

「混乱に気をつけて!」


 胞子鹿が跳ねる周りには胞子が舞っていた。

 リュカは、溜め撃ちで狙っている。

 アルルは、状態異常解除の準備をする。グレンが胞子を吸ったのかアルルの方に走ってきた。


「清めよ!」


 グレンの体を螺旋に回るようにキラキラした光に包まれた。グレンが立ち止まる。

 

「あぶねえ! アルルを攻撃するところだった」

 グレンは踵を返して胞子鹿のところに戻る時、リュカの矢が唸ってものすごい勢いで鹿に刺さった。

 

 シャーーッ! ドスッ!!

 

 胸から血を流し、立派なツノを向けて、胞子鹿はこっちに向かってきた。

 

「止めるぜ!」

 グレンが飛び上がり、胞子鹿の首に剣を突き刺した。グレンは息を止めていた。

 (息しなきゃいいんだろ!)

 そのまま胞子鹿の背に乗り、剣を抜いてまた刺した。

 胞子鹿は、前足を高く上げると、アルルに向かってきた。

 

「やばい……」

 アルルは、グレンが胞子鹿の背中に乗っていることを忘れ、叫んだ。

 

「跳ねよ!」


 胞子鹿が激しく跳ねると、グレンは地面に叩きつけられた。

 ドッ。

「いてっ!」


 リュカは今度は連射弓で跳ねる胞子鹿を撃った。

 ピッ! シュッ! ピッ! シュッ! ピッ! シュッ!


 リュカの元にグレンが駆け寄る。

「息止めりゃなんてことねえ。跳んでるうちに罠嵌められるか?」

「やってみる」

 胞子鹿は、跳ねるのをやめ、首をふっている。


 アルルが叫んだ。

「跳ねよ!」


 リュカは緑の粉を浴びながら、胞子鹿の下に罠を敷いた。

 リュカは弓を撃ち続ける。

 胞子鹿は跳ねるのをやめ、こちらにゆっくり歩き始めた瞬間、罠の蔓が引き締まり、前脚二本が巻き取られ歩けなくなった。

 ドスン。

 胞子鹿は倒れた。

 すかさず、グレンが剣を急所に刺して息の根を止めた。

 すると、緑の蛍光色の模様が入った体は、だんだん灰色になっていった。


 リュカが、瓶を取り出し胞子を採取する。その後、ナイフでツノに切れ目を入れ、体重をかけてツノを折った。

「ツノも使えるの?」

「うん。このツノには、状態異常にかかりにくい成分が入ってるらしい」

「へえ!」

「アルルもいる?」

「私はすぐ無くしちゃうからいいや」


 リュカは、しばらく考えた後、「もう少し貰っていこう」と言ってツノを採取している。

 

「なあ、こいつ食べたらうまいのか?」

 リュカが、ナイフを動かしながら、「美味いらしいよ」と言うと、グレンが「肉持って帰ろう」と言う。

「私も!」と、アルル。

「持って帰るなら、練習ここまでになるよ」

「まあ……いいんじゃないか? 昨日頑張ったし」

 グレンの言い訳じみた言い方にみんなが笑った。


 この村……このオラン大陸は、魔王との対戦で親を失った子も多い。みな質素な生活をしていた。


「しかし、アルルの魔法には驚いたな」

「だねえ」

「そう?」

 アルルはドヤ顔をした。


「鹿から落とされたけどな!」

「あー、それはごめんて」

 リュカが笑った。


「次の練習は来週か――」

 グレンが呟いた。

「お休みの日も練習しちゃう?」

 アルルが目を輝かせた。

 

「アルルは疲れないの?」

 リュカが心配そうにする。

「んー、まあ、少し」

「無理にやると後で響くよ」

 

「俺は少し休みたいな。勉強もしたいし」

 アルルは、グレンの口から《勉強》と言う言葉が出てきたことに驚いた。

「親父に一歩でも近づきたいんだ」

「グレンの父親は騎士団の団長だったもんね」

「そうなの!?」

「ああ、戦争で死んだけどな。回復魔法師のせいで……」


 アルルは、いけないことを聞いてしまった気がした。


「お父さん目指して頑張るのっていいね。私もお母さんが回復魔法師だったから、目指してるよ」

 アルルはそう言って左の薬指の指輪を二人に見せた。

「これお母さんの形見なんだ。癒しの雫」

「綺麗だね」

 リュカが優しく言った。

「ありがとう」


「どんな効果があるんだ?」

 グレンがぶっきらぼうに聞いた。

「回復量がすごく増えるの。いつも発動するわけじゃないけどね」

「それはいいな」

「でしょ」

「俺の命はアルルに預けた!」

「そんな……。まあ、頑張る」

 

 リュカがアルルに囁く。

「ああ見えても、君のことすごく気遣ってるよ」

「へえ」


 アルルは、この二人ならなんとかやっていけそうな気がした。


 ◇


「ただいま!」

 アルルが家に帰ると、家の中が荒らされていた。家具は倒れ、薬草や道具が散乱し、瓶が割れている。

「おばあちゃん!?」

 胸騒ぎを覚えながら、アルルは部屋へ飛び込む。


 ベッドにはドリフィーが倒れ込むように横たわっていた。

 呼びかけても、返事はない。


「おばあちゃん!」

 (……どうしよう!)

 ドリフィーの口元へ耳を近づけた。

 (……息はある)


「汝を癒やせよ!」

 回復魔法を使ったが、変化がない。

 (なんで? 別の病気?)

「癒やせよ! ダメだ……」

 ドリフィーは変わらず青い顔をしている。


 左手の指輪に右手を当てて、集中した。

 

 ――おばあちゃん、助かって!!

 

『汝よ、元の姿に戻らせたまえ!』

 アルルの口から古代ルーン語が飛び出した。


「ゲホッ」

 ドリフィーが咳き込んだ。

「ハァハァ……」

「おばあちゃん、大丈夫?」

 ドリフィーは、仰向けになり、枕に頭を置いた。

「アルルかい……」

「アルルだよ」

 アルルは、ドリフィーの右手を掴んだ。

「お前一人かい?」

「そうだよ」

「ならよかった。魔王の使いが来てね……指輪があるはずだと探し回ってた。渡したら……ダメだよ」

「おばあちゃん……汝を癒やせよ!」

 ドリフィーの顔色が良くなった。ドリフィーはベッドの上で起き上がった。

「はぁ、楽になった。ありがとう」

「よかっ……た」

 アルルは、思わずほろほろと涙をこぼした。 

 

「私は『指輪なんてない』と言っといたけど、また来るかもしれない。用心しておくれ」

 

「わかった。おばあちゃんはゆっくり休んで」

 (おばあちゃんがやられるくらいなら、指輪渡していい)

 

「いや、結界魔法張っておくよ。外から来てこの家が見えないように。あと、誰か来たらすぐわかるように……。ちょっと手伝ってくれない?」

「うん。何したらいい?」

「手を繋いで」

 二人は手を繋ぎ、魔力を増幅させる。

「天井の四隅に『隠せよ』、と古代語を書く」

 ドリフィーが、天井の隅に文字を書くと光が宿る。アルルも真似してやってみた。同じような光が宿った。

 もう二隅も結界を張り、最後に床と天井にも光を宿す。

 ドリフィーが『知らせよ』といって、天井から床に腕を下ろすと、床に魔法陣が広がった。

「これで一安心かな」

「学校は大丈夫と思うけど、家と登下校は気をつけたほうがいいわね」

「そうだ……これ……」

 アルルは今日仕留めた胞子鹿の話をした。

「ご馳走じゃない! 美味しいスープ作るわ」

「手伝うよ」

 アルルはやっと日常が戻り、安心した。

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