↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒しの雫  作者: 蒼井みつき
第2章 アルル・ベリファードと古代魔法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/66

第41話 束の間の休息

 定期船の船内。


 昼食を持ってきた船員にクララが質問した。


「この部屋にいた子、魔王国に連れて行かれたんですか?」


「そうだ」


 船員はクララの耳に口を近づけた。


「実は捕まってない。……船から飛び降りて逃げたらしい」


「この海の真ん中で?!」


「どうなったのかは、わからない。俺が喋ったことは内緒で……」


 船員は、そそくさと部屋を出ていった。

 

「陸まで辿り着ければ、助かりそうだが、無理じゃないかねえ」


 マーサは、テーブルの昼食のパンを割いてチーズを挟んだ。


「えーっ?! 死なないでほしい」


 エリスがスープのスプーンを強く握った。


「アルルは……魔法に長けてる。絶対助かる!」


 ノエルの声は震えていた。


「ピーちゃんはどこ?」とリタ。


「アルルちゃんとピーちゃんは、どこかにいっちゃったんだって」

 

 エマがリタに言う。


「もう会えないの?」


 リタの表情が曇った。


「毎日お祈りするわ」


 クララは手を合わせた。


 すると、扉がバタンと開き、魔王国の兵士が三人入ってきた。


「荷物の検査をするぞ!」


 リタは、エマの腕の中で震えていた。


「アルル・ベリファードの荷物はどれだ?」


 兵士がみんなの荷物を触ろうとするが、マーサが兵士の前に立ちはだかった。


「これはみんなの荷物だよ。アルル? とかいう子の荷物はここには無いよ!」


 兵士は一つずつ荷物を確認した。アルルの荷物に手をかけようとする。


「それはわたしの荷物だよ! 玉ねぎを仕入れたのさ」


 マーサが荷物を少し開けてみせた。


 兵士はキョロキョロと見回したが、みんなの顔をジロジロ見た後、部屋を出て行った。


 しばらくした後、小さい声でクララがマーサに囁いた。


「なんで玉ねぎのこと、知ってたの?」


「アルルがいない時、こっそり見たんだよ。玉ねぎ臭かったから、つい……」


 マーサは頭を掻いた。

 

「……結局、どうするよ? アレ」


 マーサがアルルの荷物を指さす。


「船に預けたら、魔王国に持っていかれそうだしね……」


 エマは、リタにパンを渡しながら言った。


「アルルに返したい」とノエル。


「来年でよければ、叔母の家に行く時にアルルの学校まで持っていけるかもしれないけど……」


 エリスはスープを啜る。


「でも、いつルーヴェンに戻るのかもわからないし、同じシェンルーの教会に私は居るから、預かろうか?」

 

 クララが優しく言った。


「それがいい」とマーサ。


「そうだね」


 エリスとノエルも頷いた。


「玉ねぎ以外何が入ってるのか、見てもいいかね?」


 マーサは荷物を見ながら言った。


「預かるから、見といても悪くはないよね」


 みんなが昼食を食べ終わると、クララが荷物の玉ねぎを出して、その下の皮袋を開けた。その中には、青くゆらめく鉱石がいくつも入っていた。


「それ魔石だわ!」


 エマが驚いて、袋の中を覗いた。


「こんなにたくさん! これで大きな屋敷が買えるくらいの価値よ」


 みんなが顔を見合わせた。 


 ◇


 ——数時間経った頃、月が二人を照らした。


「また……魔力がなくなりそう……」


「アルル……これで最後だ」


「……わかった」


 アルルはゆっくりと手をピーちゃんに向けた。

 イルカの速度も完全に落ちていた。


 暗い中、ピーちゃんの目が一点を見つめた。


「アルル……島のようなものが見える」


「……どこ?」


「東のほうだ」


 アルルは目を凝らすが、真っ暗な海と空の境目がわからない暗闇だ。時折、波が月の光を反射して光っている。


「遠回りになってしまうけど、どうする?」


「行く……」


 アルルは即答した。


「行こう」


 イルカは東へ進路を変えた。 

 

 数時間進むと、島が大きく見えて来た。しかし、よく見ると、幅は数十メートルほどの島だった。ほんの小さな林がある。


 アルルのイルカは、そのまま砂浜に飛び込んだ。アルルはそのまま砂浜に横たわった。


 何も飲み食いせず、丸一日召喚獣で泳いでいたため、無理もなかった。


 召喚獣が消えた後も、アルルは動かない。


「アルル、大丈夫か?」


「う……ん」


 ゆっくりと重い体を起こして、四つん這いで、木の下に移動した。


 (水を飲ませなければ)


 ピーちゃんも喉が渇いていた。昔、ジャックが古代魔法で雨雲を起こして雨を降らせていたことがあった。だが、呪文を思い出せない。


 ピーちゃんは、木に自分の頭をぶつけた。何度も。


「何で思い出せないんだよ! 大事な時に! 記憶力いいんじゃないのか!? 雨を降らせる呪文を!」 


 コン、コン、コン。


 額から血が滲む。


「そんなことしないで……」


 アルルは、ピーちゃんの方に首を向けた。


「……どんな意味合いの言葉なの?」


「まずは、雨雲を作る呪文だったような……」


『……空よ……雨雲を生み出せ』


 すると、空で光っていた月がだんだん雲に隠れていった。


「そのあとは?」


 ピーちゃんは、羽を広げて飛んだり、ぴょんぴょん跳ねたりしている。


「あー、くそっ!」


 まだ思い出せないようだ。


「雨を降らせるんだよね? きっと」


『恵みの雨を降らせたまえ!』 


 その瞬間、ザーッと激しい雨が降り出した。


 アルルは手ですくって水を飲んだ。ピーちゃんも下に溜まった水を美味しそうに飲んだ。


「「はぁーっ!」」


 二人とも一息ついた。すると、あっという間に雲がなくなり、月が顔を出した。


 アルルは着ている服を脱いで、絞った。

  

「み、見てないぞ!」


 ピーちゃんはアルルに背中を向けた。そして、周りを見回した。


「ちょっと一周して、見てくる」


 アルルは少し心細くなった。


「すぐ戻って来てね」

 

「わかった」


 ピーちゃんは、パタパタと見回りに行った。

 

 アルルは寝られる場所を探して歩いた。足取りが重い。


 (火を焚こうか……いや、目立つからやめよう)


 林の外側に大きな木が立っていた。その根元に座ると両膝を抱えて、顔を腕の中にうずめた。


 (足、腰、腕、手が痛い……)


 そして、そのまま意識が遠くなっていく。


「ピピ」


 ピーちゃんが帰って来た。


 (アルル、寝ちゃったか……。水溜まってるところ見つけたのに)


 ピーちゃんそっと肩に乗り、しばらく周りの様子を伺っていた。


 (魔物もいなかった。船もいなかった。……大丈夫だろう)


 ピーちゃんも、欠伸をすると顔を外に出したまま眠りについた。


 ◇


 朝、顔に当たる日差しでアルルが目を覚ます。横になって寝ていた。草や枝の上で寝ていた。


「いたた……」


「あれ? ピーちゃんは?」


 すぐそばに小さな実がいくつも重なっていた。赤色の小さなつぶつぶの実、紫色の小さな丸い実。


 パタパタとピーちゃんが、くちばしに何か咥えて飛んできた。


 ポトンと小さな実の上に落とした。

 

「食べられそうなものを採ってきたよ」


「ピーちゃんは食べないの?」


「アルルが残したらでいいよ」


 急に空腹を感じて、迷わず一つ口に入れた。


「酸っぱい……」


「あれ? 本当?」


 ピーちゃんがつついて食べた。


「美味しいよ?」


「……ピーちゃん、全部食べていいよ」


 アルルは少し笑った。


「えー! せっかく採ってきたのにー」


「あ、水見つけたんだよ。付いてきて」


 ピーちゃんは、パタパタと木々の間を飛んでいく。


「こっちー」 


「待ってー」


 草と枝の間を抜けていくと、大きな岩の窪みに小さな水たまりができていた。雨水がまだ残っていた。


 アルルは手ですくって飲んだ。

 

 ごくん、ごくん。


「美味しい……」


 ピーちゃんも水をたらふく飲んだ。 


「このまま北を目指せばいいよね?」


「そうだな……もうそんなにかからないと思うよ」


 ピーちゃんは、少し焦りを隠すようにそう言った。


 (休んで魔力は少し回復したけど、足りるか厳しい……。アルルもかなり疲れてるようだ。このまま休んだほうがいいんだろうか……)


「本当!?」


 アルルは立ち上がって伸びをした。まだ、体が痛い。


「水出せるなら、もう少し休みたい。魔力が戻ってから出発したい」


 アルルは、疲れの色が隠せなかった。


「うん。アルルが言うならそうしよう」


 (魔王国の軍艦の奴らは、この島は知っているんだろうか? イルカに乗るところは見られたから、まだ諦めてないだろう……)


 その日、二人は二度雨雲を呼んだ。しかし、空腹感は増すばかりだった。


 (ここで休んでるだけじゃ、どちらにせよ、消耗していくだけだ……)


「明日出発しよう」


 アルルがピーちゃんに言った。


「俺も、魔力はだいぶ回復したよ」 


 ピーちゃんがそう言うと、アルルは笑った。

 

 久しぶりに見る笑顔に感じた。アルルは酸っぱいと言いながらも、ピーちゃんが採ってきた実を食べた。


「酸っぱい……けど、美味しい」


「なら良かった」


 ピーちゃんは、羽をばたつかせた。


「早めに寝よう」


「うん」


 まだ日は沈みきっていなかったが、二人は早めに横になる。アルルはまっすぐな枝を何本も並べて、葉を上に重ねて簡易ベッドを作った。


 アルルは寝そべりながら、星が瞬く天を眺めた。


 (これからどうなるんだろう……。シェンルーに辿り着けるんだろうか……)


 (船のみんなはどうなっただろう。……みんな心配してるのかな。ピーちゃんがいないとリタが寂しがるな……) 


 思い出すと、人恋しくなる。クララ、エリス、ノエル、エマ、リタ、マーサ。次々と顔が浮かぶ。


 短期間だったのに長く一緒にいたような感覚だった。


 なかなか寝付けないアルルの顔にピーちゃんが体を寄せた。


「くすぐったい」


 ピーちゃんはアルルの鼻にくちばしを当て、細かくくちばしを動かした。アルルは鼻を手で掻いた。


 ピーちゃんは何も言わずに遠くを見つめている。


 アルルはその姿をじっと見つめていた。次第に瞼が重くなって行った。


 ◇


「ピピピピ!」


 顔の上にピーちゃんが乗ってきた。顔に爪が刺さる。


「痛いよ、ピーちゃん」


「軍艦だ!」


 アルルはまだ目が開けられない状態だが、飛び起きた。すでに陽が高い。


 浜からピーちゃんが飛ぶ方向を見ると、遠くに船が見えた。


 太陽の位置からすると、北西の方向だ。


「やばい。こっちにくる!」


 アルルは上着を羽織ると、東側の浜でイルカを召喚した。すぐさま上に乗り、東に向かった。


「しばらく東に向かった後、北に向かうんだ!」


 頭の上からピーちゃんが叫んだ。

  

 二日休んだおかげか、かなりスピードが出せるようになっていた。


 一時間進むと、アルルの目には船は見えなくなった。


「ピーちゃん、まだついてきてる?」


「いや、見えなくなった。もしかしたらさっきの島に降りて探してるのかもしれない」


「今のうちに急ぐか」


 島に着いた時の倍のスピードで、東に進んだ後、北のオラン大陸を目指した。どこに着くのかはわからない。


 ◇


 半日北に向かったが、大陸は一向に見えない。まさか、マルタを超えて外洋に出てしまった? それとも方角を間違えた?


 色々考え始めて、不安になっていた。


「ピーちゃん。このまま進んで、岸に着くと思う? 着かなかったらどうしよう……」


 ピーちゃんから魔力を二回もらって進んでいるが、まだ着かない。


「方角は合ってるはずなんだ……」


 最初は自信があったピーちゃんの言葉も、だんだん自信がなさそうに聞こえてきた。


「ピーちゃんが言う通りにしたんだよ!」


「うん……」


「……ごめん。言い過ぎた」


「アルルはなんも悪く無いよ」


 そう言ったピーちゃんの目が丸く大きく開いた。


「アルル、アレ見える?」


 二人の左側、つまり西に大きな影がうっすら広がった。


「「陸だ!!」」


 アルルは西に方向を変えて、陸を目指して進んだ。

https://49829.mitemin.net/i1219391/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。