↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒しの雫  作者: 蒼井みつき
第2章 アルル・ベリファードと古代魔法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/66

第40話 最後の魔力

 アルルは両手を後ろで縄で結ばれて、両腕を掴まれたまま甲板に連れて行かれた。甲板からはすぐ近くに他の船の帆が見えた。軍艦だ。接舷したところには、何人もの黒い鎧をまとった兵士が見えた。


 (このまま捕まったら、殺される。指輪もとられる……)


 逃げる? いや、無理だろう。でも、このまま捕まったら指輪を使われてもっと犠牲者が増えてしまう……。逃げるしかないんだわ。

 

 ……考えるんだ。近くにいるのは何人?


 ……両脇に二人、前に歩いているのが一人。後ろは?


 アルルは一瞬だけ振り向いた。景色を脳裏に焼き付ける。


 ……左後方に一人。あとは船員が二人ほど。


 頭の中で確かめる。攻撃段取りを。


 ……行ける!


「ほら、あっちの船に移るぞ。船の上だ、抵抗しても無駄だ」


 アルルの右の腕を掴んでいる髭を生やした兵士がそう言った時、アルルは無詠唱魔法を使った。


 すると、アルルの両手の縄が蛇に変わった。と同時に魔法陣が足元に広がり、白いダチョウが姿を現した。


「何っ?!」


 右の兵士が剣を抜こうとしたが、体が硬直して動けない。

 左の兵士は剣を抜きながら、意思とは関係なくぴょんぴょん跳ねた。

 

「何だこれは!」


 軍艦側の兵士が異変に気付いた。その時にはアルルは舵チョウに跨っていた。


 弓を持った兵士、杖を持った兵士がアルルに容赦なく矢と魔法を投げつける。しかし、見えない壁に阻まれ、弓は落ち、魔法は手前で跳ね返った。


 アルルは、舵チョウに乗ったまま海上に出た。ピーちゃんはアルルを追うようにピッタリくっついて飛んでいく。


 甲板の兵士はアルルを追って端の手すりに身を乗り出した。


『見えない障壁よ、崩れよ!』


 アルルの防御が解けた。アルルは既に十数メートル船から離れていた。


 (やばっ!)


「今だ! 撃てー!」


 矢と魔法がすぐ近くをかすむ。


 ヒュンッ! バババッ! シューッ!


 一本の矢が舵チョウの腹を捉えた。舵チョウの姿は消えていく。アルルは空を掴み、足は空中に浮いた。体の重さでそのまま落下した。


 ドボン!


 高いところから落ちて、六メートルほど水の中に沈んでいった。水面が遠くなっていく。魔法の炎や稲光が海の中から見えた。


 (ピーちゃん!)


 アルルは、ピーちゃんのことが頭をよぎった。息が苦しくなる。


 両手で水を掻いて、遠くの水面を目指した。すると、さっきの自分の位置の海面からゆらゆらゆっくりと沈んでくる小さなものが見えた。


 (ピーちゃんだ!!)


 アルルは勢いよく水をかき、沈んでくるピーちゃんへ泳ぎ寄った。両手でピーちゃんを受け止めた。意識がないように見えた。


 (早く水面に上がらないと!)


 片手でピーちゃんを包み込みながら、必死で遠くの水面を目指した。黒い船がいつのまにかこちらを向いていた。


 ぷはっ!


 肺にいっぱい空気を取り込む。


 波の間から黒い軍艦がこっちへ向かってきているのが見えた。


 泳ぎながら掴んでいる人差し指を広げ、手の中のピーちゃんの顔を見た。


 (ピーちゃん……)


 こんな状況なのに景色が滲んでいく。空いた手の指で、ピーちゃんの頬を撫でた。その時、ピーちゃんの口から勢いよく水が飛び出した。


「ゲホゲホ……」


「ピーちゃん! 生きてた!」


 ピーちゃんは、数秒ぼうっとしていたが、ハッと目を見開いた。

 

「アルル! 逃げられたのか?」


 ピーちゃんがアルルの後ろの軍艦を見た。


「アルル! 逃げろ!」


 ピーちゃんは、アルルの頭に飛び乗った。


 アルルは必死に泳ぐが、徐々に船体が大きくなってきた。


「何か召喚できないのか? 泳ぎが速いやつ!」


 ピーちゃんが頭の上からでかい声を出した。


「イルカ! シャチでもいい! 出してくれ! すぐ!!」


 アルルは、瞬時に判断して手を前に出した。


 すると、水の中に緑の魔法陣が広がり光った。中から一頭のイルカが現れた。


 頭の上を矢と魔法が掠めた。気づけば軍艦がすぐ近くまで迫っていて、甲板にいる大勢の兵士が見えた。


 アルルは背びれに捕まると、スイスイっと泳ぎ出した。比較にならないほど速い。


「迂回して太陽の反対方向を目指すんだ!」 


 軍艦から離れた後、方向を変えて北に向かった。パシャパシャと波が顔を打ち付けるが、風もなく穏やかな天気だった。

 

「あっちだ!」とピーちゃん。


「どっち?」とアルル。


 止まると、ピーちゃんが飛んで方向を示した。


「こっち!」


「何で?」


 ピーちゃんは、アルルの頭にまた止まった。


「オラン大陸の南側を航行していたはずだ」


「そっか」


「まだアストラに着いてないし、そのはず」


 アルルたちが泳いでいるのに驚いてか、魚が跳ねた。


「どれくらいで着くだろう?」


「結構かかるかもしれない……」


「結構ってどれくらい?」


「数日とか?」


「え? 待って! そんなに魔力持たないよ!」


「計算してみる……」


 ピーちゃんは、しばらく黙っていた。


 アルルは心配になって、頭の上で手でピーちゃんの様子を探った。すると、ピーちゃんがアルルの指をつついた。


「わかったぞ! ……たぶん」


「明日の朝に着く……かも」


「そんなに魔力持たない。どうしよう……」


 (……ここまでなのかな? 私の人生)


 アルルが諦めかけたその時、ピーちゃんが大きい声を出した。


「あっ!!」


「どうしたの?」


「俺昔、イタズラでジャックに魔力吸われたことあった。俺の魔力吸ってくれ!」


「いいけど……詠唱忘れてしまった……」


「俺、覚えてる……セレ・マーナ、ヴェル・エストラだっけか?」


「わかった。『巡る魔力よ、我が手に集え』」


 ピーちゃんの体から青い光が立ちのぼり、アルルの手へと吸い込まれた。


 アルルは体の奥から魔力が満ちてくるのを感じた。


「すごい! ピーちゃん魔法使えるって言ってたもんね」


「しょーもない魔法しか使えないけどな!」


「どんな魔法?」


「言う?」


「知りたい」


 アルルはそう言って笑った。


「……虫集めの魔法だよ」


「何それ?」


「虫よ、集まれ!」


 ピーちゃんが唱えると、小さな羽虫が二匹飛んできた。すかさずピーちゃんは、それをパクッと食べた。


 アルルは微笑む。


 (虫食べるピーちゃんみてると、やっぱり鳥だなあって思う)


「もう少しスピードをあげてみる」


 波しぶきがかかる。ヒレを掴む手が疲れてきた。


 (上に乗れないかな……)


 イルカの背に体を預けるように上に登った。


「こっちの方が楽だ」


「アルル、帆船とか召喚できないのか?」


「……多分無理だと思う。やってみる?」


「いや、時間もったいないし、風吹いてないし。まだ、軍艦が小さく見えてる」 


「まだ来てるのか……」


 二人とも疲労からか、口数が少なくなっていった。


「ピピピピ!」


 ピーちゃんが激しく鳴いた。


 気がつくと、イルカの形が薄くなっていた。


 ゴボボボ……。


 イルカの姿が消えて、アルルは海に放り出された。 


 慌てて水面を目指す。


 プハッ。


 また召喚獣を呼び戻そうとする——が、魔力が尽きていた。


「ピ、ピーちゃん、またお願い」


 アルルが飛んでいるピーちゃんへ手をかざすと、体の奥の魔力が増えていくのを感じた。


 魔法陣からまたイルカが召喚された。アルルは乗りやすいように設計し直していた。


 魔力消費を抑えるため、小ぶりになり、背中には乗りやすいようにハンモックが付いていた。


「おー! いいじゃん!」


 アルルがイルカの背中に乗ると、ピーちゃんは今度は肩に乗った。


 アルルの顔色は徐々に疲労の色が濃くなってきた。


「まだ、船見える?」 


 ピーちゃんは、後ろを見た。


「いや、もう見えないよ」


「そっか……」


 アルルは息を軽く吐いた。


 ピーちゃんは、考えを巡らしていた。


 (俺の魔力は後一回分しかない。夜通し泳ぐとして、まだ辿り着けるかわからないな……)


「寝たら、イルカは消えるのか?」


「多分、消える」


「そうか」


 ピーちゃんは、自分の力のなさに少し落ち込んでいた。


「俺、アルルを守りたくてついて来たんだ」


 アルルは少し驚いた表情をした。


「……ありがとう」


 アルルは微笑んだ。


「俺、ジャックに不死の魔法をかけてもらったんだ。だから……アルルに助けてもらっちゃって、余計アルルの足手まといになってる」


「私、ピーちゃんが不死だと知ってたとしても、同じように助けてたよ」


「アルル……」


 ピーちゃんの目から大粒の涙が溢れた。


 アルルは、ピーちゃんの頬をそっと撫でた。


「泣かないで、笑って? ピーちゃんらしくないぞ」


「そうだね」


 (俺にだって、できることはある!)

  

 ピーちゃんは三百六十度見回した。だが、見えるのは水平線だけだった。二人は、水平線が永遠に続くような錯覚にとらわれた。 


 空はすでに赤みが差し、夕暮れを迎えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。