第34話 守るために
ジャックは、アルルに古代魔法をいくつも教えた。
隠蔽魔法、感知魔法、沈黙魔法、魔力吸収魔法、他にもいろいろ教えた。もちろん、実践込みだ。
アルルは肩で息をしていた。
「すまん。詰め込みすぎた」
ジャックは頭を掻いた。
「……大丈夫です」
アルルは、ふらついて椅子に座った。
「焦るな……もう夕方だぞ」
ピーちゃんがテーブルからアルルの肩に飛び乗った。
「おっと、もうそんな時間か」
ジャックは、ごちそうさまと言ってお弁当の包みをアルルに渡した。
「なんかあったら、すぐ連絡するんだぞ。学校でも目を光らせとくから」
アルルは頷いた。
「また明日な」
アルルはお辞儀すると、家路に急いだ。
(おばあちゃんに伝えないと……!)
◇
アルルが家に帰って、ジャックから聞いたことを伝えると、かなりショックを受けていた。
ドリフィーは、目を潤ませながらアルルを抱きしめた。
「おばあちゃん……」
アルルもドリフィーを抱きしめ返す。
「アルルがどこに行っても、アルルのことを考えているよ」
アルルの頬を涙が伝った。
「ジャックがいるから、私は大丈夫。アルルは自分のことだけ考えるんだよ……さあ、ご飯にしようかね」
アルルも夕食の準備を手伝った。
「お前に教え忘れてることがあったね」
「ん? なに?」
「料理だよ」
ドリフィーは、そう言って笑った。
「明日から教えようかね」
「いっぱい教えて」
二人は温かい食事を口にしながら、思い出話を語った。
◇
翌日の学校。
試験結果が配られた。
案の定、魔法史と魔物学は赤点だった。その代わり、魔法実践学は、満点だ!
リオナは、赤点はなかったらしい。
「アルル、残念だったね。補習がんばって!」
いつものアルルなら、羨ましがっていた。けれど、今はそれどころではなかった。
(お別れの挨拶した方がいいのかな……。でも、そんなこと言ったらいなくなるのバレるし。巻き込んだらまずい)
アルルは、いつも通り接することにした。
しかし、アルルは何度もリオナに喋りそうになってしまっていた。その度にグッと堪えた。
特に用事はなかったが、学校が終わると、アレンとグレンとリュカに会いに剣術学校に向かった。
グレンとリュカは、ゼノと一緒にアリーナで腕を磨いていた。
アルルは入り口の影から、しばらくの間覗いていた。
(見るだけでいいや……二人とも、上手くなったなあ……)
アルルが帰ろうとして廊下を歩いていると、後ろから呼び止められた。
「アルル?」
振り向くと、アレンがいた。
「あ、アレン」
「どうしたの? グレンとリュカなら多分アリーナじゃないかな」
「う、うん。今行ってきたの。帰るところだよ」
「じゃあ、送るよ」
「アレンは練習に行くところだったんじゃないの?」
「一人だったし、いいよ」
「ん……、ありがとう」
二人は並んで歩き出す。剣術学校を出て、アルルの家に向かった。隣の家なので方向は同じだ。
「そういえば、試験、どうだった?」
アレンがアルルの方を見た。
「魔法実践は満点だったよ」
「やるね」
「でも、魔法史は赤点だった」
アルルが苦笑すると、アレンも少し笑った。
「アルルっぽいね」
「どういう意味?」
「いや……実戦になるとすごいのに、勉強は苦手なんだなって」
「アレンだって魔法史やったら赤点かもよ?」
「俺は剣術学校だから」
「ずるい」
アレンが笑った。
「……最近、変な目にあったとかない?」
アルルの足が止まりそうになった。
「なんで?」
「魔王国の奴らがうろついてるからさ」
「大丈夫」
「ならよかった」
しばらく、沈黙。
「また、舵チョウ乗せてよ」
「あ……いいよ」
「やった!」
アレンは微笑んだ。しかし、アルルはもう一緒に乗ることはないかもと考えると、悲しくなった。
家の前に着いて、二人は別れの挨拶をした後、アルルは走って家に入った。そのまま自分の部屋に行って、ベッドの上に俯して泣いていた。
◇
それからは、ササリーフ採取は禁止になった。
「採取しなくていいの?」
「危ないからダメだよ。困ったらジャックに面倒見てもらうよ」
そう言ってドリフィーが笑った。ジャックは以前、闇市でたまに魔石を売っていると言っていた。
夜は、ジャックの古代魔法の特訓。
しばらく、学校と夜のジャックの特訓に明け暮れた。
——二週間後。
アルルは、教室で魔物学の授業を受けていた。
不意に教室のドアが開き、ジャックが飛び込んできた。
「アルル! 逃げろ!」
「エルカーン先生?!」
魔物学の先生が驚いた顔をした。
アルルは慌てて立ち上がり、教室の外を見ると真黒い鎧を着た軍隊が固まっていた。数十人いそうだ。
「こっちだ!」
ジャックは、アルルの手を取り中庭の方へ走った。すると、空からピーちゃんが現れた。
「守り木が燃やされた!」
「ドリフィーは?」
「無事だ! 畑の方に逃げた。追手は少ない!」
「どっち側だ?!」
「西の山脈方面だ!」
ピーちゃんが羽をバタバタさせて興奮している。アルルは青ざめた。
どこからか生徒の叫び声が聞こえる。ジャックがアルルの肩を掴んだ。
「いいか、お前は舵チョウで洞窟にそのまま行け! 俺はドリフィーを助けに行く」
外に向かおうとしているのか、何人かの先生が、中庭のそばを通り過ぎ、アルルとジャックに気づいた。
「ほら、行け!」
ジャックはそういうと、カラスに変身した。アルルは急いで魔法陣を展開する。緑の魔法陣の中から、白い大きな舵チョウが現れた。
周りの先生は息を呑んだ。騒ぎを聞きつけてウロウロしている生徒も見ていた。
「アルル・ベリファード……古代魔法できるのか?!」
魔法史のグランツ先生が感嘆した。
アルルとジャックは、それぞれ飛び立った。ジャックは、あっという間に見えなくなった。アルルは、魔法学校の屋根を飛び越える。周りの皆は上を見上げて見ていた。
アルルは、洞窟に向かわず、山脈方面を目指した。
(おばあちゃん……どこ?!)
上空から探したが、北の森の周りにはいなかった。シルヴァ街道を越えて南方面へ飛行する。すると、山脈にほど近い南の森の手前で、ジャックとドリフィーが戦闘しているのが見えた。
「おばあちゃん!!」
後ろからついて来たピーちゃんが叫んだ。
「アルル! 洞窟に行こう!」
「なんで?」
「見てみろ」
ジャックが竜巻魔法を起こした。アルルまで届きそうな範囲だった。アルルは少し上昇した。
魔王国の兵士、二十名近くが竜巻の渦に巻き込まれ、上空高く舞い上げられた。
「うわああああ!」
そこへドリフィーが杖を掲げた。空を裂くような雷が、竜巻の中へ落ちる。それから、竜巻は一斉に止み、上空から地面に落ちて叩きつけられた。
その時には、ジャックはネブリスに変身して、ドリフィーを乗せて南の森に入って行った。
圧巻の魔法を見せつけられ、アルルはしばらく呆然とした。
(すごい……)
「洞窟行こう。ジャックと合流できるはずだ」
ピーちゃんに促され、アルルは洞窟に向かった。




