第31話 空の帰り道
アルルが鍛冶屋から出たところでアレンと会い、アレンと一緒に家に帰ることになった。
(アレン、なんで迎えにきたんだろう? またなんかあるんだろうか……?)
アレンと一緒に歩いていると、アレンの母親のことを考えてしまう。アルルはやっぱりリゼの気持ちがわからなかった。
「なんで迎えにきたの?」
アルルは首を傾げた。頬をピーちゃんが軽くつついた。
アレンは、少し間を開けて答えた。
「……また、魔王国が来るかもしれないから」
アルルは、また下を向いた。
「そっか……」
「でも、なんで」
「アルルは」
二人は同時にしゃべって重なった。
「どうぞ」と、アレンが言った。
「魔王国が来ると、なんでアレンが迎えに来るの? 危ないのに」
アルルが聞くと、アレンの顔が少し赤くなった気がした。
「俺でできるかわからないけど……俺のせいでこうなったし、俺、アルルのことを守りたいんだ」
アルルは、初めてそんなことを言われ、くすぐったく感じた。
「……アレンは、何を言いかけたの?」
「え……と、まだ怒ってる?」
難しい問題を投げかけられたようで、アルルはすぐには答えられなかった。
「……アレンには怒ってないよ」
自分の気持ちが言えて、アルルは少し胸の中がすっきりした気がした。
「本当にごめん」
またアレンが頭を下げた。
「……もういいよ」
アルルは周りをキョロキョロ見回したあと、思い切ったように言った。
「召喚獣乗ってみたくない?」
「えっ? みられるとまずいでしょ」
「高く飛んじゃえば、わかんないよ」
アレンは、遠慮しながらも目はキラキラしていた。
「やってみよう」
そういうと、アルルはアレンの手を引いて、道の横の林の中に移動した。そして、アルルは両手を地面に向けた。
大きな魔法陣が広がり、中から白いいつもより大きなダチョウが現れた。
ホロゥ。
ピーちゃんが羽をバタバタさせている。
「大きめにしてみたわ」
アレンは目を丸くして、まじまじと白い鳥を見ている。舵チョウは足を曲げて背を低くした。アルルはひょいと足を広げて乗った。
「後ろにどうぞ」
アレンはゆっくりとまたがる。
「行くよー」
「ピピ!」
なぜかピーちゃんが返事した。ピーちゃんはアルルの頭の近くで飛んでいる。
舵チョウは羽を広げるとあっという間に天高く飛び立った。後ろからピーちゃんが必死に追いつこうと飛んでくる。
(重いかと思ったけど、案外いけるわ)
アレンは無言だが、足の下の風景に感動していた。
顔に当たる風が気持ちよかった。二人はまばらに林が続く街道近くを飛んだ。
北の森の手前に、大きな守り木が見えた。アルルは目立たないように守り木の裏から地面に降下した。
ホロゥ。舵チョウは、二人を下ろすと一声鳴いた。そして、体が薄くなって消えていく。
「ありがとう。こんなの初めてだ」
アレンがそう言うと、アルルは微笑んだ。
「じゃあ、またね」
アルルが手を振ると、アレンが何か言いたげにしていたが、「また」と手を振った。
家に入ると、ドリフィーが畑から野菜を収穫して帰ったところだった。
「ただいまー」
アルルは売上金をドリフィーに渡す。
「お疲れ様、ありがとう」
「手伝う」
アルルは台所に行った。
「じゃあ、泥落としてくれない?」
アルルは、手伝いながら、マリーの具合が悪かったこと、真王国の軍人が、鍛冶屋を指差して何か言ってたことをドリフィーに話した。
「それは心配だねえ」
ドリフィーは、包丁で野菜を切っている手を止めた。
「ベルフィーに探ってもらうか……」
「ベルフィーさんに頼めるの?」
「様子くらいならすぐわかるし、伝書鳥送ろうか」
ドリフィーは、手を洗い、詠唱すると一羽の鳥が出現した。
窓を開けるとバタバタとすぐ飛び立っていった。
「これですぐわかるさ」
「ありがとう、おばあちゃん」
昨日今日とジャックは出かけていないので、ゆっくり夕食を食べ、夜は試験勉強に明け暮れた。
◇
翌日の魔法学校。
今日は、ジャックの魔法学校初赴任の日だ。
講堂での校長先生の話が始まった。ジャックが校長先生の隣に立っている。
「今日からレナード・グレイ先生に代わって、魔法実践学の先生はこちらのジャック・エルカーン先生になります」
校長先生が拍手を促した。
「よろしく」
ジャックが一歩前に出た。
「今日から魔法実践学を担当する。今回の実技試験は俺が見るんで、気を抜くなよ」
講堂がざわついた。怖がっている生徒もいるようだった。
(ジャックさん……怖いってそれ)
しかし、アルルは、ジャックの赴任や試験が始まることよりも、マリーの容体や魔王国のことが頭から離れなかった。
(全然勉強してないや……)
朝の校長先生の挨拶が終わり、教室に移動する。
「おはよう!」
リオナが元気に声をかけてきた。
「おはよう」
「なんか元気ないじゃん。さては、試験勉強サボった?」
「うん……」
元気なく返事するアルルの肩をポンとリオナが叩いた。
「ま、なるようになるさ。がんばろ!」
アルルはリオナの気遣いに微笑んで返した。
◇
試験が始まった。
一時限目は、魔法史の試験。
(ヤマが当たってるといいな……)
残念ながらヤマは外れて、半分しか答えられなかった。
(五代前の王様の名前なんて知らないよ……)
二時限目は、薬草学。アルルの得意科目だ。
《問1 ルミナ草の最も薬効が高い採取時間を答えよ。》
(簡単簡単……朝露の多い日の朝)
《問2 ヴェル根を大量摂取するとどのような危険があるか。》
(神経毒がある。手足のしびれや筋力低下が起こって、重症になると歩けなくなる……詳しく書きすぎたかな……)
薬草学は、まあまあの出来だった。全部答えられた。
三時限目は、地理。
《問1 ルーヴェンの特産品を答えなさい。》
(これは食べたから覚えてる……ルーヴェン玉ねぎ、っと)
《問2 港町マルタが栄えている理由を答えなさい。》
(船が行き来して、貿易が盛んだから……だよなあ)
一問以外は答えられた。
《問9 シュミジャール大陸の北にある第二の首都を答えなさい。》
(シェンルーは、王様がいるところだから違うよね……。リェン
だっけ? それとも、シュアン? わからん)
四時限目は、魔法学。
《問1 回復魔法師と魔導士の違いを答えなさい。》
(そのまま書けばいいよね? ……回復魔法師は治癒を行い、魔導士は攻撃魔法で戦うっと)
《問2 火・水・風・雷の四属性の特徴を書きなさい。》
(特徴……火は、熱を利用した魔法、水は、冷却を利用した魔法、風は、移動や補助魔法に利用される、雷は、雷を利用した魔法、かな)
初日は座学の試験ばかりだった。
(魔法史以外、なんとかなったかな……)
リオナがアルルの席に来た。
「どうだった?」
「魔法史ボロボロだった……」
絶望するアルルを横目に、リオナは自信ありそうな雰囲気だった。しっかり試験勉強したらしい。
「明日もあるよ」
リオナは余裕そうな表情で、アルルを励ました。
「うん……」
頷くアルルは、頭の中では別のことを考えていた。
◇
家に帰ると、ドリフィーとベルフィーが椅子に座って話をしていた。
「こんにちは」
「こんにちは、アルルちゃん」
「お昼にしようかね」
そう言ってドリフィーは台所に行った。
「あたしの分はいいよ? 食べてきたから」
ベルフィーがそう言った後、荷物を置いて台所に行こうとするアルルを見た。
「アルルちゃん、マリーね、良くなったみたいよ。神官に診てもらって」
「そうなんですか! 良かったー!」
アルルはほっと息をつく。
「あと、魔王国の軍人は、マリーの店に来てないそうよ」
「あれ? そうなんだ」
アルルは別の疑問が起こったが、マリーの無事に安心した。
「ベルフィーさん、ありがとう」
「アルルちゃんがさ、マリーにお世話になったって聞いたから、あたしも気になってね。すぐ聞いてみたわ」
ドリフィーが、野菜たっぷりのスープと黒パンをテーブルに並べた。
「さあ、冷めないうちに食べな」
ドリフィーがアルルに促すと、ベルフィーが「そろそろあたしは帰るかな」と席を立った。
「ありがとね、ベルフィー」
「またなんかあったらいつでも頼ってよ」
そう言って手を振って部屋を出ていった。
アルルは黒パンを食べながら思った。
(今日はササリーフ摘みと試験勉強するだけかな。ジャックさんのところに行く余裕ないな……)
アルルは少しため息をついた。
すると、「腹減った」と低い男の声がした。アルルはすぐわかった。棚の上のピーちゃんだ。
ドリフィーがキョロキョロ辺りを見回した。
「誰?」
ドリフィーは声の主に気づいていない。それを見たアルルは、クスクス笑った。
「ピーちゃん、お腹すいたって」
まだ、アルルはクスクス笑っている。ドリフィーがピーちゃんを見た。
「りんごじゃなくてもいいから何かくれ」
ピーちゃんが羽をバタバタさせながら喋った。
ドリフィーはしばらくの間、口を開けてピーちゃんをずっと眺めていた。




