第28話 アルルの魔法教室
週末の授業後。
魔法学校の三階のアリーナを借りて、アルルの魔法教室を行うことになっていた。
アルルが来てみると、すでに六人集まっていた。リオナが走ってくる。
「アルル、来た! 先生が来ないと困っちゃう」
「先生……」
「剣術学校組がまだ来ないのよ」
「なんで剣術の人がくるの……?」
アルルは納得いかない様子だった。
「声かけてみたら、みんな来るって」
リオナが嬉しそうに笑う。
(誰が来るんだ……)
入り口からみなれた人が顔を出した。
「グレン! リュカ!」
アルルは駆け寄る。
「おう! 元気してたか?」
「うん。久しぶり」
この前アクセサリーの話をしに行ってから会っていなかった。ついこの前なのに、まるで長いこと顔を合わせてないような感じがした。
「今日は何で来たの?」
「せっかく来たのに、何でそんなこと言うんだよ!」
グレンがアルルの肩を小突いた。
「だって……」
アルルは笑った。
「跳ねよをかけられないように研究したいんだってさ」
リュカが代わりに説明した。
「なるほど」
「アルル! 魔法の避け方、教えてくれよ」
そう言ったのは、跳ねよはずるい! と何度も言っていたロイドだった。
「ロイドも来たのね」
アルルはだんだん楽しくなってきた。少し、にやけてきた。
アルルの肩を後ろから突然叩かれた。振り向くとジュリアンがいた。
「まず、僕に教えて! 僕が最初に頼んだんだから!」
「私にもー」
リオナが口を挟む。
アルルが周りを見渡すと、見覚えのある顔がどんどん増えていた。
合同大会で戦った三年生たち。
アレンのチーム。
優勝チームまでいる。
「ちょっと待って。なんでこんな大事になってるの?」
「俺、大会でアルルにかけられたんだよ。んで、三位取られた」
(あ……三年の盾剣士ガレスと言ったっけ)
「私も習いたい」
ガレスと同じチームの補助魔法師セシルだ。
「あ……」
アルルと目があったのはアレンだった。
「うちのミリアが教えて欲しいらしい」
「よろしくね」
ミリアは回復魔法師だ。アレンのチームは弓使いフィルと三人で来ていた。
「あ……」
(優勝チームの魔導士セレス!)
セレスが肩をすくめた。
「リディアに連れられてきたわ」
後ろに回復魔法師のリディアが隠れていた。
「私も跳ねよができるようになりたいの」
遠くでグレンとゼノが決闘を始めた。
「早く教えてー」
「わかった! 教えて欲しい人こっち、決闘したい人あっちね!」
アルルは広いアリーナの東側へ移動した。
ゾロゾロと人がついていく。アルルの額にはうっすら汗が滲んでいた。
(やばい。軽くしか考えてなかった……)
アルルはみんなに向かって話し始めた。
「私のおばあちゃんが畑でヴォルバグの駆除に苦労していてね。数が多いから行動不能の魔法でなんかいいのないかと考えててさ……」
「前置きはいいよ!」
ジュリアンが口を出した。身を乗り出して早く教えて欲しい感じだった。
決闘している方角から、ドーーン! と凄まじい爆音が響いた。
「ちょっ、セレス! 本気出しすぎ!」
リディアが慌てて叫ぶ。
「わかった! まず、二人一組になって分かれて」
アルルは、組になる手助けをした。
「リディアとセシル、ジュリアンとリオナ、ミリアと私ね」
「まず、相手が飛んで跳ねているイメージを頭の中に描くの」
ジュリアンは目をつぶっている。
「そして、ダメージを与えるのではなく、相手を風に乗せるような感じのイメージで魔力を注ぐイメージ。こんな感じ」
アルルがミリアに手をかざすと、ミリアが跳ねた。
「きゃっ! 急に来たわ」
アルルがまた手をかざすと、ミリアの体は地面から離れず、跳ねるのをやめた。
「あれ? アルル、今詠唱しなかったよね?」
リオナが何かに気づいた。
「あ……」
(知らぬ間に無詠唱してた……)
「え? アルル、無詠唱できるの?!」
「あ、いや……たまたまだよ」
アルルは頭を掻いた。
「たまたまで無詠唱なんて、できないでしょ!」
「そうだよ!」
「さすが先生!!」
「すごーい!」
ジュリアンが、尊敬の眼差しで見つめる。
アルルは恥ずかしくて赤くなった。
「みんなも、跳ねよやってみてよ」
(なんか恥ずかしい……)
騒ぎを聞きつけて、セレスがこっちに来ていた。
「セレス、アルルが無詠唱してたんだよ」
「まじで?」
セレスの表情が真面目になった。
「先生、俺ら避け方講座はまだ?」
ロイドが腕組みをしている。
「ああ、……待って」
アルルがまごまごしていると、アレンがボソッと言った。
「まず、できる人増やす方が先だと思うよ。回避はその後の方が練習しやすいし」
「確かに……なら、俺がかけられようか? セシル」
ガレスが同じチームのセシルに声をかけた。
「そうだね。ありがとう」
「俺、ミリア担当するよ」
「よろしく、アレン」
後から参加したレオが、「俺もなんかする?」と言うので、リオナの相手をしてもらうことにした。
「リディアの相手するよ。その代わり、後で無詠唱について教えて? アルル」とセレス。
「ジュリアンは、私にかけてね」
アルルが言うと、ジュリアンは「アルルから習える!」と、喜んでいた。
「えと……、まず相手が跳ねてるイメージを描いて、風でふわっと飛ぶ感じで魔力を送る。紙飛行機を指から離して、飛ばすイメージかなあ?」
「かなあ? でいいの? 先生」
リオナが茶々を入れる。
「とりあえず、みんなでやってみよう! 跳ねよ、で唱えて!」
アルルは手を一回叩くと同時、「はい!」と掛け声をかけた。
跳ねよ、という言葉がこだまする。
みんなすぐには、上手くかからないようだ。
ジュリアンも懸命に唱えているが、アルルは宙に浮かない。
「ボールを思い浮かべてみてー! ボールが跳ねるように」
アルルがジュリアンに向かって叫ぶと、アルルの足が一瞬宙に浮いた。
「あ! そうそう! そんな感じ!」
ジュリアンの頭が上下に動いている。自分の方が動いてしまっているようだ。
「力を抜いてー! 風を生み出すような感じでー」
アルルが宙に浮いた。高くはないが、何度も跳ねている。
「や、やった!!」
ジュリアンが拳を握って感激している。
「やったね! ジュリアン!」
アルルは跳ねながら、拍手した。一同、笑いが起こる。
すると、触発されたのか、あちこちで跳ねよが成功していた。
「出来た!」とリディア。
セレスが高く跳ねている。無表情だ。
「私も出来た」とセシル。
ガレスがうんうんと、頷きながら跳ねている。
「これでいいかな?」とミリア。
アレンが低めに跳ねている。ミリアに微笑んだ後、ちらっとアルルの方を見た。アルルと目があった。
アルルはリオナの方に歩いていく。
リオナはまだ成功していなかった。レオは、心配そうにしていた。
「俺、重いのかな……」
「違うよ!」とリオナ。
「お前体格いいから、重いんだろ」
同じチームのガレスがちょっかいを出した。
「跳ねよ!」
リオナが唱えるが、レオはびくともしない。
ロイドが声をかけた。
「リオナ、俺にかけてみろ」
「遠慮しないよ?」
「ああ、いいよ」
「跳ねよ!!」
ロイドは、ビュン! と高く足が浮いてぴょんぴょん跳ねた。
「わ! 出来た!」
「出来たじゃん!」
周りから拍手がわいた。
リオナは嬉しそうだった。しかし、嬉しいというより、ホッとしたような表情だった。
「時間が押してるので、説明だけでいいかな? 回避するやり方」
「オッケー」とロイド。
アルルが説明を始める。
「正式な跳ねよの回避方法は、実は私も知らないの」
「なんだって?!」
ガレスが突っ込む。
「でも、最初、かかりづらかったと思う。意図的にそういう状況に持っていければ、回避できるのかもしれない……と思う」
「先生、大雑把すぎてわかりません!」
みんながゲラゲラ笑った。
「え……と、勝手な想像だけど、相手を跳ねさせるイメージを伝えるから、逆に受ける人は、地面に踏ん張るイメージを強く持つと抵抗になったりするような気がする」
「やってみるか」
ロイドが前に出た。
「跳ねるな、俺は岩だ、動かない岩だ」
ぶつぶつ呟いている。
リオナが「跳ねよ!」と唱えた。
すると、少ししか飛ばなかった。しかも短時間で。
「おおーっ!」
「……知らなかった」
アルルが言うと、一同笑った。
「じゃあ、今日はここまでかな」
アルルが言うと、グレンが、「決闘したい奴、あっちでやろうぜ!」と、誘っていた。
セレスが、アルルに声をかけた。
「無詠唱教えて。お願い」
アルルは少し視線を落とす。
「私も最近習ったばかりで、教えられるほど上手く出来ないんだ。攻撃魔法はまだ一回しか成功したことないし」
「でも、コツあるんでしょ?」
「私が習ったのは……」
アルルが話始めると、セレスはさっきと打って変わって真剣な顔をした。
「詠唱で使う言葉に意味があって、気づかないうちに言葉に魔力を乗せていて、言葉のおかげで魔力の方向とか強さも決めている。無詠唱の場合は、手を使う。手を使って魔法の方向や強さを決めていて、言葉の代わりに頭で思い描く、みたいな感じ?」
セレスはうんうんと頷いて聞いていたが、まだ納得できてないようだった。
「なんとなくしかわからないけど、私も練習してみるわ。ありがとう」
「うん!」
アルルは微笑んだ。
リオナが近づいてきて、隣に立った。
「今日やって良かったね!」
「うんうん、上手くいったし、楽しかった」
「ありがとう、アルル先生」
「それはやめてってば!」
そう言って、二人は笑った。
ドーン! とセレスの魔法の音がした。アルルは、きっと無詠唱の練習しながら決闘しているんだと思った。




