第24話 名前のない小鳥
昼休み。
リオナがアルルの席に来た。
「アルルー。週末の魔法の練習さ、人数増えてもいい?」
アルルは、午後の授業の教科書を探していた。
「いいけど……。あ、あった」
アルルは、自分の棚の奥にあった本を取り出した。
「つい、声かけたら……十人くらい集まっちゃったんだよね」
「ちょっ! 増えすぎ!」
「もしかしたら……まだ増えるかもしれない」
リオナは舌をぺろっと出した。
「……わかった」
アルルはため息をついた。
(授業みたいじゃん……。私先生じゃないんだから……)
アルルはお弁当を取り出して、席について食べようとした時、知った顔がものすごい勢いで近づいてくるのに気づいた。
「アレン?!」
アレンは急いで走ってきたのか、息を切らしていた。膝に手をついて呼吸を整えていた。
「どうしたの?」
リオナもびっくりしている。
「ア、アルル。大丈夫だったか?」
アルルは首を傾げた。
「何が?」
「いや……別に……」
「え? 走ってきたよね?」
リオナが目を丸くした。リオナがアレンを指さす。
「あ、わかった! 週末のアルルの魔法授業に参加したいんでしょう? ミリアの代わりに予約しに来たんじゃない?」
「え?」
アレンはきょとんとした。
「授業じゃないってば」
アルルが口を挟む。
「ああ……そ、そうだ」
アレンは、思いついたように話を合わせた。
「ミリアに私から話しとくわ」
「なんでリオナが話通すのよ」
アルルがリオナに抗議した。
「よろしく頼む。じゃあ」
アレンは手を振って教室から出ていった。廊下を歩きながら、小さく息を吐いた。
教室では、アルルとリオナが一緒にお弁当を広げていた。
「場所狭くなっちゃうから、大アリーナに予約し直すか」
「だからなんでリオナが仕切るのよ」
アルルはそう言うと、サンドイッチにかぶりついた。
「こういうの、めちゃくちゃ楽しいじゃない!」
リオナは豪快に笑った。
◇
一方で、アルルの家。
居間の椅子にジャックが座り、手に小鳥を乗せている。
「ピー、ピーィ」
ドリフィーは、昼飯の支度をしている。
「昨日の残りで悪いけど……」
「いつも馳走になってる身だ」
「アルルが毎日世話になってるしね」
ジャックは少し考えた。
「実は、まだ教えたと言えるほど、教えてない。こっちも探り探りだが、奴らの動きが早まってる以上、うかうかしてられんな」
ドリフィーは、台所から鍋とパンを持ってきた。
「この前は守り木に隠れたけど、もしバレたらって覚悟してたわ」
「俺がそうはさせない。だが、いよいよになったらどうするんだ?」
「そうさねえ……。シュミジャールに逃げるかしらねえ」
ドリフィーは皿にポトフを盛り付け、黒パンと皿をジャックの前に置いた。
「陸路で行くのか? 海路? ……いただく」
ジャックは、うまそうにジャガイモを頬張った。
「このジャガイモ、ホクホクでうめえな」
「そうかい」
ドリフィーは目を細めた。
「年寄りだから、海路になるんかねえ。でも船代が高いから困ったねえ。ベルフィーに泣きつこうかしら」
そう言ってドリフィーは笑った。
「あっちに友達がいるから、頼んでやってもいいぞ。あっちはまだ魔王国の奴らいないし」
今度はソーセージにかぶりつく。
「そりゃあ、ありがたい」
ドリフィーもポトフのスープを啜った。
「ところで……アルルの魔法はどうだい?」
「……まだなんとも言えん。真面目ではあるから、時間かければって感じだな」
「時間……か……」
ドリフィーは、遠くを見つめた。
「なんとか二人で、学校卒業まで無事に過ごせないもんかねえ」
「まあ、やれることはやるよ。……ご馳走様」
「頼むよ」
ジャックは食器を台所に持っていって、洗っている。
「あのリゼって女が、余計なことしやがったからなあ。まったく」
力を入れて皿がカチンと鳴った。
「そんな感じには見えなかったんだけどねえ。皿割らないでおくれよ」
「アレンは毎日夜に見回りしてるし、しっかりした子だ」
ジャックは掛けてある手拭いで手を拭いた。
「そうなんだね……」
「ま、なんかあったら飛んでくるよ」
「よろしくね」
ジャックは、扉を開けた後、一匹の真っ黒いカラスに変身すると、あっという間に飛び立った。
ドリフィーは、空をひとまわりするカラスを眺めていた。
◇
「ただいまあ」
「おかえり、アルル」
「可愛い!」
くるくると飛び回る小鳥を見てアルルが叫んだ。手を伸ばすと手に乗った。体は緑で、目の周りが白い。
「ピピ」
アルルの指に顔を押し付ける。
「可愛すぎる……名前あるの?」
「聞いてないね。無いんじゃない? あの人のことだし」
「あの人?」
「ジャックが置いてったの。昼間、ジャックを呼んだのよ」
アルルは目を丸くした。
「ジャックさん来たんだ?」
「ああ、伝書鳥飛ばしてね。魔王国の使いのことで相談したんだよ」
アルルは、小鳥の頬を指で撫でると小鳥は気持ちよさそうにした。
「また、引っ越しするの?」
「いや、まだ当分は大丈夫と思う。守り木だって、普通の木じゃないしね」
ドリフィーは台所に行くと夕飯の準備をした。アルルも鳥を肩に乗せながら、手伝った。
アルルは、鍋をかき回しながら思った。
(私がおばあちゃんを守れるようにならなきゃいけないな……)
……私、強くなりたい。もっと古代魔法の勉強しないと。
今日の夕飯は、野菜たっぷりのシチューと黒パンだった。
アルルがパンをちぎると、小鳥が肩の上で騒ぎ出す。
「ピピ!」
「ダメ。これはあげない」
「ピィ……」
小鳥は不満そうに羽を膨らませた。
「この鳥、何食べるの?」
「ジャックは放し飼いしてたらしくて、なんでも食べるって言ってたわ。昼間はリンゴをあげたらつついてたわね」
「へえ……。どれくらい食べるの?」
「三切れくらい食べたかな」
「そんなに食べるんだ! こんなに小さいのに……。この子の名前無いんだよね?」
もうすっかりアルルに懐いたようだ。アルルが手を動かすと、手から手にパタパタと移動する。
「多分ね」
そう言ってドリフィーは、笑った。
「じゃあ、ピーピー鳴くから、ピーちゃんね」
「それ、簡単過ぎやしないかい?」
「わかりやすいし、覚えやすいからいいじゃん」
「ピピピ」
気に入ったとでも言っているように羽をばたつかせながら鳴いた。
アルルが鳥と遊びながらシチューを食べている間にドリフィーは食器を片付けていた。
「今日も行くんだよね?」
「うん」
ドリフィーは、お弁当をアルルの近くに置いた。
アルルが食べ終わると、ピーちゃんがアルルの肩に乗った。
「この子も行こうとしてる?」
「さあ、わからないけど、逃したら怒られそうだわね」
ドリフィーが、手に乗せようとしたが、一向に動かない。
「このまま行ってみる」
「もし逃げたら私が謝っとくわ」
「逃げないよ、きっと」
アルルが舵チョウで飛び立つと、ピーちゃんは自分で羽ばたいてついてくる。
アルルはできるだけゆっくりとした速度で森を越え、洞窟に着いた。
洞窟の広場に着くと、ジャックが焚き火のそばに座っていた。本を読んでいる。
(ジャックさんも本読むんだな。そういえば部屋の中に本がいっぱいあったっけ……)
アルルが近づくと、ピーちゃんが飛び立ってジャックの肩に止まった。
「ジャックさん、こんばんは。……その子の名前、ピーちゃんてつけようと思ってるんだけど、いい?」
アルルがお弁当の包みを渡そうとすると、ジャックがテーブルにうつ伏せて肩を震わせている。
「どうしたの……? ジャックさん」
ジャックは顔を上げると、高らかに笑った。
「あはははは!! お前が……ピーちゃん……。ククク」
「笑いすぎだろ。名前が無かったんだから仕方ない」
低い男の人の声がした。
アルルはピーちゃんを見ると、くちばしが動いている。
「えーーっ?!」
声の主は、ピーちゃんだった。
(鳥が喋ってる――!)




