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癒しの雫  作者: 蒼井みつき
第1章 アルル・ベリファードと魔法学校

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第25話 知らされた真実

 ジャックはシチューを啜りながら言った。


「こいつも百年以上生きてるんだよ」 


「こいつ言うな」


 ピーちゃんは、ジャックの手をつついた。


「いてて」

 

 アルルは、ピーちゃんをずっと凝視していた。くちばしが動くたび、男の人の声がする。


 (面白い! 見た目可愛いのに)


「百年もこの姿なの?」


 アルルは興味深そうに訊ねた。


「そうだ」


「魔鳥だからな」


 ジャックが黒パンにかぶりつきながら補足した。


「魔鳥?」


 アルルが首を傾げる。


「魔力を持った鳥だ。少し魔法も使う」


「あと、頭がいい」


 ピーちゃんは、胸を張って背伸びした。


「へえ」


 アルルが手を差し出すと、ピーちゃんが手に乗った。


「ピーちゃん、どんな魔法使えるの?」


「喋れる」


「あとは?」


「内緒だ……魔法より、記憶力がいいから。俺は」


 そう言って、羽をばたつかせた。


「何年経っても、細かいことみんな覚えてるな。こいつは……ご馳走様」


 ジャックが食べ終わって、アルルに空箱を渡した。


「アルル。魔王国の動きが怪しくなってきたから、俺も学校に行くぞ」


 アルルは目を丸くした。


「ジャックさんも生徒になるの――?」


「馬鹿か? 魔法学校の教師に戻るぞ」


「そういうこと……って、えーっ!」


 アルルは頬を両手で覆った。


「先生になるの?!」


「ああ。アルルに教えるかはまだわからんがな。来週から働けることになった」


「来週から……はやっ!」


「魔王国の連中も動いてるしな……飲むか?」


 紅茶の入ったカップをアルルに渡した。


「自宅では、ピー……そいつと一緒にいろ」


 ジャックはそう言って、肩を震わせて笑いを堪えた。

 

 アルルは微笑みながら、紅茶を一口飲んだ。


 (美味しい。……ジャックさん、心配してくれてるんだな)


 アルルは、胸が温かくなった。


「今日は、無詠唱魔法を教えようか」


「え! やったー!!」


 アルルは肩にピーちゃんを乗せているのを忘れて万歳して飛び跳ねた。

 

「ピピピ!」


 ピーちゃんは、ジャックの肩に移動した。


「アルルは召喚獣を出す時、どうやってる?」


「え……と、飛んで乗れる鳥を思い浮かべてるけど」 


「それ! 名前で召喚してるわけではない。つまり、召喚獣そのものを連想してるわけだ」


 ジャックは立ち上がり、歩きながらまた話し始めた。

 

「アルル、魔法はどうやって発動してる?」


「どうやってって……普通に詠唱してる」


「魔法を召喚獣の時のように、出来るとしたら?」


 アルルは、考えている。気づいたのか目を大きくした。

 

「そっか! 連想すればいいんだ! でも、何を連想すればいいの?」


「そこは、宿題にしようか」


「えーっ! ずるい」


「ずるくない」


「ずるいな」


 ピーちゃんがジャックの肩から、アルルに加勢した。


「うるせーよ。喋るメジロめ」


 ジャックがピーちゃんを手で払うと、「ピピピ」と鳴きながらアルルの肩に飛び移った。


「そろそろ帰れ。ササリーフ摘み、行くんだろ? 時間遅いぞ」


「うん、わかった」


 アルルはお弁当箱をバッグに入れた。


「じゃあな」


「おやすみなさい」


 アルルは家へと急いだ。ピーちゃんを連れて。


 ◇


「ただいま」


「おかえり。遅かったね。ピーちゃんもおかえり」


「ピピ!」


「今日はいいことあったよ!」


 アルルは空のお弁当箱をドリフィーに渡した。

 

「なんかいい事教わったのかい?」


「無詠唱魔法を教わってる!」


「ほう」


 ドリフィーは台所に行った。アルルもついていく。


「おばあちゃんは、無詠唱魔法できる?」


 お弁当箱を洗いながらドリフィーは答えた。


「そう言われてみると……たまに使うねえ。攻撃魔法は詠唱してるけど、土に栄養をあげたり、水かけたりするのは無詠唱だった気がするよ」


「すごーい! おばあちゃん。それってどうやってるの?」


「どうって……、育てーとか、水だよーとか。上手く言えないわ」


 アルルは、苦笑した。

 

「あ、あとね、ジャックさん、魔法学校の先生になるって。来週から」


 ドリフィーは、手を止めて目を丸くする。


「そうなのかい! 来週からって早いねえ」


 ドリフィーはそう言って笑っていた。


「ササリーフ摘みに行ってくる!」


「ピピピ!」


「ピーちゃんも行くの?」


 アルルは肩の上のピーちゃんを見た。


「あ、おばあちゃん。そういえばピーちゃん喋れるんだよ!」


「へえ! 見てみたいわ」


「ピーちゃん、なんか喋って」


「……」


 ピーちゃんは、すました顔をしている。


「さっきまで喋ってたのに!」


「ほほ。人見知りかねえ」

 

「じゃ、行ってくる!」


「……行ってらっしゃい。早めに帰ってくるんだよ」


「はーい」


 アルルは少し離れたところにある池へと歩いた。手には大きな籠を持っている。肩にはピーちゃんを乗せて。


 (今日は遅くなっちゃったから、半分でいいかなあ)


 しゃがんでササリーフを丁寧に抜いて籠に重ねていると、背後から声がした。


「アルル」

 

「ピピ!」


 ピーちゃんが反応する。

 アルルはビクッとして振り返ると、立っていたのはアレンだった。


「びっくりしたじゃん」


「ごめん」


「手伝うよ」


 アレンはアルルの隣にしゃがんだ。


「ありがとう」


「夜の鳥って珍しいね」


「今日からうちに来たの」


 (喋り出したら、きっとびっくりするだろうな)


 アルルは想像してクスッと笑った。


 二人は黙々と採取していた。


 (アレン、抜くの上手くなったな)


 アルルは横目でアレンがササリーフを抜く様子を見ていた。


 あっという間に、籠いっぱいになった。


「これくらいでいいよ。いっぱい採取できたよ! ありがとう」 


 アルルが立ち上がった時、アレンも立ち上がり、深々と頭を下げた。


「ごめん!! アルルの召喚獣について親に話しちゃったんだ」


「……そっか。別に内緒にしてくれれば構わないよ」


 アレンは声を落として言った。


「……それが、母さんが金のためにその話を売ったんだ……。そのせいで、この前魔王国の奴らが来たみたいなんだ」


 (アレンのお母さんがお金の……?)


「えっ……」

 

 アルルは顔色を変えた。しばらく何も言えなかった。


 (ちょっと待って。そのせいで私たち襲われそうになったの?)


「……それ、本当なの?」

 

 アルルの肩が震えている。


「……うん。ほんとにごめん」


 アルルは、手の力が入らず、籠を下に落とした。ササリーフが溢れる。


「ピピ!」


 ピーちゃんが羽をばたつかせた。


 アルルは、ハッとして、溢れたササリーフを籠に入れ直した。


「謝って済む問題じゃないのはわかってる……」


 アレンは俯いた。 


「私、なんて言っていいのかわからない……」


 アルルがアレンの方を見るとアルルの目に涙が溜まっていた。


 そのままアルルは籠を持って走って帰って行った。


 アレンはじっとアルルの背中を見送っていた。


 ◇


 アルルは家に帰ると、籠をテーブルに置き、そのまま寝室へ向かった。ドリフィーは、すでに寝室に行ったようだった。

 

 アルルは、ベッドに横になった。


 (なんで? どうしてそんな酷いことするの? しかもアレンのお母さんが……)


 アルルは声を殺して泣いた。ピーちゃんは枕元でアルルを見守っていた。


 そのうち知らぬ間にアルルは寝ていた。ピーちゃんも羽に頭を埋めて寝ていた。

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