第2話 三人の冒険
「お願いだから、足引っ張るなよ」
そう言ったのは同じチームの剣士・グレン・バルド。
「それはちょっと言い過ぎじゃないか?」
フォローしたのは、弓使い・リュカ・エルド。
(めっちゃ、むかつく! 回復なんてするもんか)
怒ってるのは回復魔法師のアルル・ベリファード。
悔しくて、つい歯を食いしばる。
三人は練習するため、森の魔物を狩ることにした。今日・明日は、練習用に時間を与えられている。
ここの森には、そこそこ強い魔物が生息していた。三人の相手にはちょうどいい。
先頭にグレン、後ろにリュカ、最後にアルルで少しずつ森の奥へと進んでいく。見慣れないつる植物や、毒々しい色のキノコが生えている。
「足元気をつけて」とグレン。
足元を見ると、《罠樹》のつるが待ち構えていた。輪っかになっている中に足を入れると、足首を取られ真っ逆さまに木に吊られてしまう。別名《吊り木》ともいう。そのまま吊られていると、葉に絡まれエキスを吸われてしまう。
ひときわ太い大樹の前に来た。どこからか唸り声がする。
(ん……? 複数いる?)
グレンが少しずつ声に近づいていく。
リュカがアルルに囁いた。
「気をつけて。樹皮狼が数体いそう」
――樹皮狼。話に聞いたことはあるが、見たことはなかった。動きが速いらしい……
木の肌が変形して、何かが三体弾んだ!
グレンは一体とやり合っている。
もう一体は、リュカが適切に足の関節を狙って足止めしている。もう一体が、アルルに飛んだ。
「アルル!」
アルルは避けるのに精一杯で、転んだ。
アルルの体に飛びかかり、アルルの頭に牙が刺さる直前、リュカが必死に狙った矢が樹皮狼の目に刺さる。
シュッ――。グサッ!
樹皮狼は怯んだが、倒れたアルルの上に乗った。リュカが次の矢を番える。
(当たれ――!)
ヒュン――。ドスッ!
樹皮狼の心臓を貫いた。アルルは目を大きく開いた。アルルの上に樹皮狼は倒れた。
グレンは一体倒した後、足止めしたもう一体をやっつけていた。
アルルはなんとか起き上がり、二人を回復した後、自分を回復した。その時にはすでに戦闘は終わっていた。
「ごめん……」
アルルは下を向いた。肩を震わせている。
「……怪我、ないか?」
グレンが心配そうにしている。
「うん……」
「大したことなくて良かったよ」とリュカ。
グレンが真剣な表情になった。
「アルル、防御魔法はないのか?」
「あ、ある……」
「先に防御だろ。なんで使ってねえんだよ」
「俺はある程度自分で《ササリーフ薬》で回復できるから後回しでいいが……。自分、近接の順な。これは鉄則」
「わかってる! 回復いらないって言ったくせに……」
アルルの声が震えた。
「自分を守れない回復魔法師なんて……いらん」
グレンは剣を拭くと、鞘に収めた。
「それは言い過ぎだろう。まだ始めたばかりなのに……」
リュカは、肩を落とした。
「……いや、その……死なれたら困るって意味だからな」
グレンは少しだけ目を逸らした。
「さ、行こうか」
また三人は藪を掻き分け、森の奥へと進む。
(ん……? なんか道ができてる)
「来るぞ! 真っ正面、突角獣だ」
グレンの数十メートル先には、体長十メートルの猪がいた。体の後ろまで長い鋭い牙を掲げて鼻をフンフンと動かして近づいて来る。
アルルは突角獣と目があった。次の瞬間、でかい塊が突っ込んでくる。
グレンは止めようとするが、何十トンもありそうな巨体は止まらない。
「護れ!」
アルルは叫んだ。アルルの周りに薄い光のカーテンがかかる。
間一髪、突角獣の突進は弾かれ、巨体がわずかにのけぞった。
突角獣は体制を整えると、またアルルに向かって走った。
――連続で防御魔法は使えない。
リュカはもう何十本も弓を放っているが、刺さるだけで勢いは止まらない。
「くそっ!」
グレンが横から突角獣の顔に飛び乗ると、目玉目掛けて剣を突き刺した。
「ギェーーーーッ!」
突角獣は地面にグレンを叩きつけると、右目をやられて息をハァハァしながら近づいていく。
アルルは、――やばい。と感じ、グレンに近寄ると叫んだ。
「護れ!」
グレンの周りに光のカーテンがかかる。自身にかけるよりも防御は弱い。それでも最初の一撃は防御できた。
グレンは剣で切りつける。アルルは回復魔法を連続でかける。
「汝を癒やせよ! 癒やせよ! 癒やせよ!」
でかい巨体には、なかなか致命傷を負わせることができない。
(やばい。……魔力が尽きる)
ポシェットの瓶を取り出してササリーフのエキスを飲んだ。
――癒しの雫よ、発動して!
母親のミーナ・ベリファードの形見、癒しの雫の指輪が輝いた!
みるみるグレンの傷が全快していく。
「おりゃああああ!」
グレンは飛び上がり、突角獣の左目にも剣を突き刺した。
「ギーーーーー……」
突角獣は遂に横に倒れて、ドシンと低い音がした。
「「「ハァハァ……」」」
みんなでお互いの顔を見合った。
それからみんなで笑った。何がおかしいのかわからなかったが、ただ笑いたかった。
その日の練習はそこで終わりにして学校に帰ると、すでにみんなは帰ったようだった。
「俺たち頑張りすぎたのかな……」
「まあ、いいんじゃない?」
「なんか、一年分生きたみたい……」
「まあ、明日もよろしく」
「よろしく」
「うん、よろしくね」
三人の冒険はまだ始まったばかりだった。




