第1話 魔法学校と剣術学校
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月明かりの中、森の入り口にある小さな池の水面が揺れていた。
この小さな池の水には、癒しの力がある。
水際には細い葉の植物がびっしりと生えていた。
しゃがみながらその植物を丁寧に引き抜いてはカゴに入れている人影がある。
「うんしょ」
アルル・ベリファードは右手の甲で汗を拭きながら、カゴを左手と左脇で支えて立ち上がった。
「これくらいでいいかな」
カゴの中には、植物の葉が水平に折り重なって丁寧に摘まれていた。よく見るとほのかに白い光を放っている。
寝る前に毎日ひと摘み採取に来ている。この池までは家から歩いて五分ほどだ。
これを家に持ち帰り、ペースト状にして蓋付きのガラスの瓶に入れた。後日、煮詰めてエキスを採取すると、魔力たっぷりのササリーフエキスが出来上がる。長期戦の戦闘では、必須のアイテムだ。アルルはこれを売って収入を得ていた。
家に戻ると、祖母のドリフィー・ベリファードが寝床から顔を出した。
「いつもすまないね」
「いいよ、おばあちゃん」
「明日も早いし、早く寝な。明日のパンはいつものところに入れてあるから」
「はーい」
ドリフィーがいつも茹でた卵を味付けしてパンに挟んでくれてあり、それを学校に持って行っている。要するに、サンドイッチだ。学校とは、五年前から毎日通っている魔法学校のこと。
アルルはベッドに入り、明日のことを考えてため息をついた。
「明日から合同大会の練習が始まるんだよな……」
(やだな……。どんな人と一緒になるんだろ)
対人戦闘が苦手なアルルは、剣術学校との合同大会を考えると、なかなか寝付けなかった。
◇
翌朝、ドリフィーが用意してくれたスープとパンを食べた。
ドリフィーは朝が早い。既に畑に駆り出していた。
(おばあちゃん、今日は害虫駆除と言っていたっけ)
害虫と言っても、小さい虫ではなく、凶暴なでかい甲虫であった。一匹駆除するのに数分はかかる。それが百匹以上いるのだ。
奴らは、こちらが攻撃すると反撃してくる。
(また怪我しなきゃいいけど……)
支度をして家の外に出ると、朝日が木々に差し込み、朝露でキラキラ輝いていた。
アルルは、魔法の治癒効率を高めたくて、方法を毎日考えていた。
(ササリーフを煮詰めるんじゃなくて乾燥させてみたらどうかな……?)
いろいろ考えていると学校に着いた。
「アルル! おはよう」
友達のリオナ・ルミエールだ。
「おはよう。リオナ」
「なんか元気ないね」
「……今日から合同大会だから。……やだな」
リオナは、顎に人差し指を当てて上の方を見た。
「そっか……。アルルは対人苦手だもんね」
「リオナは、優秀な魔導士だし、対人得意だし、羨ましい」
「へへっ、そんなことないよ」
リオナはその言葉に満更でもなさそうに笑っている。
「優しすぎるんだよ、アルルは」
リオナはアルルの正面で両手を重ね、後ろ歩きしている。
「だってさ、後で治癒するといっても攻撃されると痛いじゃん」
「まあね……。でも練習しないと強くならないよ」
リオナは後ろ歩きで石につまずいた。
「危ない!」
「おっとっと」
リオナは瞬時に何メートルか後ろに瞬間移動した。魔導士の技だ。
「私もそれできるようになりたいな」
「外向きの魔導士と、内向きの回復魔法師は違うんだってね」
「いいなあ」
アルルは羨ましそうにリオナを見た。
「そんなに羨ましいなら魔導士になれば? アルルのおばあちゃんそうなんでしょ?」
「私……攻撃魔法、おばあちゃんに習ってもなかなか上達しないの」
「そっか」
「うん」
(私には向いてないのかな……)
魔法学校の隣に剣術学校が建っており、毎年合同大会が開かれている。
チーム分けは、剣術学校の方で行われた。三人一組で分けられ、誰と一緒になるかは学校の方で決める。数が合わない場合は、くじ引きで当たったものが重複参加が許される。
トーナメント方式で対戦大会を行い、優勝チームには最新の装備(武器)がもらえる。
大変高価な物なので、参加者全員やる気満々である。一人を除いては――。
対戦は今から一ヶ月後に始まる。それまではチームワークを高めたり、対人戦闘の練習に時間が割かれる。
一ヶ月の間にどれだけ鍛錬できるかが勝負だ。
リオナは首をコキコキ鳴らした。
「やる気満々じゃん」とアルル。
「当たり前! だって《ヴォイド・セプター》ほしいもん! アルルだって武器欲しいでしょ? 《サンクトゥス・ルーメン》」
「ほしいけど……。うーん……」
アルルが悩んでいると、リオナが明るく言った。
「同じチームになれたらいいね!」
「そうだね」
アルルも微笑み返した。
◇
チームが発表された。壁にチームごとの名前が貼り出されている。
リオナは、盾剣士と回復魔法師とのチームだった。
「やったー! これで勝つる!!」
ガッツポーズしている。
アルルは……。
端っこの方に名前が書かれていた。剣士と弓使いのチームだった。
「グレン・バルドだ。よろしく」
剣士が右手を差し出す。
アルルは恐る恐る手を差し出すと、ゴツゴツした大きい手だった。
「リュカ・エルド……」
弓使いは目を合わさずに、挨拶した。
「よろしく。アルル・ベリファードです」
アルルは、ぺこりとお辞儀した。
アルルは、グレンの次の言葉に表情が凍ってしまう。
「俺は回復いらねえから。そもそも回復魔法師、信用してねえ」
グレンは抗議は受け付けないとでも言うように、腕を組んだ。
リュカは、グレンの顔を見つめていた。
アルルは、目を丸くして固まっていた。
(なぜ――? これからどうなるんだろう)
晴れた真っ青な空に小鳥が飛び、さえずりが通り過ぎた。




