第12話 新居と初めての召喚獣
新居では、ドリフィーが夕飯の支度をしていた。すると、壁に緑の魔法陣が浮かび上がり、その中に帰宅したアルルの姿がうっすら映った。
(……アルルが帰ったね。迎えを出すか)
『我が召喚獣を召喚させたまえ! 耳ズク!』
ドリフィーは、頭の中に鳥をイメージした。すると、《耳ズク》が音を立てず、ドリフィーの肩に止まった。
「さあ、行ってきて」
ドリフィーがそういうと、《耳ズク》は開いた窓からバーッと南のほうへ飛び立った。
――一方、元の家に居るアルルは、家の周りに何か情報がないか探していた。
(おばあちゃん、何も言わないんだもの。どこいったのかわからないよ……)
空はすっかり暗くなっていた。月明かりで少し見える程度だ。
アルルは、家の外の石の上に腰かけた。
「どうしようかな……。私の荷物すら無いわ」
すると、遠くから一羽の鳥が飛んでくる。見た目はミミズクだ。アルルのところまで来ると、アルルの頭の上で羽をパタパタさせている。
「アルル、私についてきて」
「あ! おばあちゃんの声だ」
『光よ』
アルルは、杖の灯りで確認しながらゆっくり飛ぶ鳥の後について行った。鳥は少し進んでは振り返り、アルルがついてくるか確認しているようだ。
十五分くらい歩くと、大きな木が見えてきた。近くにはササリーフが生えている池がある。前の家に近い池は森に囲まれていたため暗かったが、ここは明るく池には橋がかかっている。
大きな木の根元に二階建ての家が立っていた。鳥は窓からその家に入って行った。
「ここかあ。いつのまに……」
アルルが中に入ると、ドリフィーが立っていた。
「おかえり、アルル」
「おばあちゃん……。引っ越すなら言ってよ! びっくりしたじゃない」
「ごめんね、アルル。下見に来たら気に入っちゃってね。すぐ家建てちゃった」
ドリフィーはそう言って笑う。
アルルは苦笑する。
「荷物はどうやって運んだの?」
「召喚獣よ。《ケイ虎》ってやつで運んだわ」
「さっきの鳥も召喚獣?」
「うん、そうよ。《耳ズク》って言うの」
「可愛かった。耳がよく聞こえそうな耳してた」
「遠くまでよく聞こえるわ。っと、そろそろアルルも召喚獣覚えないとね」
「えっ!? まじで? 私も召喚できるの?」
アルルの目が丸くなる。
「できると思うわ。今からやる?」
「やるやる! 教えて!!」
アルルの目が輝いた。
「はいはい」
ドリフィーは、優しく笑っていた。
二人は外に出ると、空は真っ暗だった。星がたくさん瞬いている。
二人とも杖を手にしている。
「まずはやり方見ててね。『……我が召喚獣を召喚させたまえ! 《ケイ虎》!』」
地面に緑色の光る魔法陣が外に広がってゆき、大きな魔法陣になると、虎の頭が出てくる。みるみる大きな虎になった。よく見るとベルフィーの虎ックほど大きくなかった。
「これで引越ししたの」
ドリフィーは、ペロッと舌を出した。
「虎ックよりちっちゃくて可愛い」
「しまう時はどうするの?」
『我が召喚獣よ、元に戻れ!』
大きな召喚獣の姿が、ふっと消えていった。
「私もケイ虎呼べる?」
アルルがウズウズして聞いた。
ドリフィーは首を振った。
「召喚獣は、召喚主の魔力や技術で召喚できるものの差があってね。例えば、ベルフィーは技術が高いから大きい獣が長時間呼べるの。あと、何度も同じ召喚獣を召喚すると、概念が固定化されて、変更がしづらくなる。召喚はあくまで概念上に成り立つのよね」
「私ならどんな召喚獣なら呼べる?」
アルルが食い入るようにドリフィーに聞いた。
「例えば、大きい鳥なんかどう?」
「鳥?」
「乗れる召喚獣とかいいんじゃない? 馬は多分まだ無理ね」
アルルはしばらく考えている。
(乗れる鳥がよさげなのよね?)
「やってみる!」
アルルは、少し両足を構え直して杖を振った。
『我が召喚獣を召喚させたまえ!』
アルルが古代ルーン語で詠唱すると、緑に光る魔法陣が現れ、地面から首が太いダチョウが現れた。
ダチョウは、一声鳴くと、小さな羽をばたつかせた。
ホロゥ……。
「羽を大きくして飛べるようにしてみたら?」
ドリフィーが提案する。
「どうやって?」
「一回戻してから、頭の中の映像を更新して召喚し直してみて」
『我が召喚獣よ、元に戻れ!』
ダチョウが消えていく。
アルルは目をつぶり、頭の中のダチョウを描き直した。
「よし。名前も決まったわ。『……我が召喚獣を召喚させたまえ! 《舵チョウ》!』」
魔法陣から真っ白い大きな羽のダチョウが現れた。
アルルは首を掴んで乗ってみる。舵チョウは屈んで乗りやすくしてくれた。
召喚獣に乗ったアルルは、池の周りを回ったり、橋を渡ったりした。
「おばあちゃん、召喚獣って命令しなくても行きたいとこに行ってくれるよ!!」
「そりゃそうよ。アルルが産んだ概念だもの。……飛べそうじゃない? ここで見とくから、乗って真上に飛んでみたら?」
「大丈夫かな?」
「落ちないようにサポートするわ」
舵チョウは羽を広げると、そのまま上空に螺旋を描きながら飛んでいく。
ぐんぐん上昇して守り木のてっぺんを越えると、月明かりで海の方まで見渡せた。
東に学校、南東にベルフィーが住む街のルーヴェンの明かりがうっすら見える。教会の高い屋根が見える。
そのもっと東に港町のマルタが見えた。大きな船が何艘も泊まっている。
南は小さな湖の先にずっと森が広がっている。遠くに海があり、半島になっている。
北と西はもっと高い山が立っていて、今は山の影しか見えない。
空には満天の星が煌めいていて、流れ星が見えた。
(そろそろ降りないとやばいかも)
くるくる螺旋を描いて降りていく。
地面に到達するとホッと息をついた。
「おばあちゃん、すごいもの見ちゃった!!」
「そうかい。そりゃ良かったよ」
ドリフィーが目を細めた。
「夕ご飯にしようか」
「お腹ぺこぺこ!」
ドリフィーは、お腹を押さえているアルルを見て笑った。
◇
アルルは寝る前のササリーフ摘みに行った。前の家より近いから楽だった。
アルルが鼻歌を歌いながら籠にササリーフを摘んでいると、近くの茂みがガサっと音がした。
アルルは体を強張らせて動きを止め、音がした方向に注意を向けた。杖に手をかける。
「誰かいるのか?」
男の声がした。
アルルは息を殺して魔法を唱える準備をした。
心臓の鼓動が大きくなる。
茂みの上に顔が見えた。見たことない男性だった。
(もしかして、隣に住むアレンとかいう人?)
二人は目があった。
しばらく、お互いがお互いの出方を待っていた。
先に動いたのは、アレンだった。
「もしかして、アルル?」
「はい。あなたは、アレン?」
アルルは、ドリフィーに隣の家に一つ上の学年で剣術学校に通うアレンの話を聞いていた。
「ああ、そうだ」
アルルはホッとして立ち上がった。
「それは、ササリーフ?」
アレンがアルルの足元の籠を見た。
「うん。集めてエキス作って売ってる……」
アレンは母親に聞いたのか、それ以上は聞かなかった。
アルルは座り直してササリーフ採取の続きをする。
「アレンはここで何してるの?」
「毎日見回りをしている」
アレンは、立ったままだ。鎧を着ている。盾は背にかけ、剣は鞘にしまった。
「ここは物騒なの?」
「北の森が近いせいか、たまに魔物が来る」
「そうなんだ……。寝てる時来たら怖いね」
(前の家は街が近いせいなのか、そういうことはなかったな……)
「見回りしとけば、今のところは夜中は大丈夫。うちは夜は俺しかいないし……」
「お母さんと暮らしてるって聞いたけど?」
「母親は……リゼは、ルーヴェンの酒場で働いてる」
「そうなんだ」
アルルは摘んだササリーフを丁寧に籠に入れる。
「手伝おうか?」
アレンがしゃがむ。
「いや、いいよ。売り物だし、手伝ってもらったら時給払わないと」
そう言ってアルルは笑う。
「いらない。俺、週末は護衛して給料もらってる」
「そうなんだ。偉いね」
「君だってこうやって働いてるだろ」
アルルは微笑みながら採取する。
(なんか、この人話しやすいな……)
アレンがブチブチ茎を短く葉を採取している。
「アレン、採取してくれるなら丁寧にしてくれる? こうやって抜くようにするの」
「なるほど」
「これ、いつまで採取するの?」
「いつも籠いっぱいになるまでかな」
「じゃ、あと少しだ」
アレンは微笑む。
「アレンは、合同大会誰と組んでるの?」
「アルルとは学年が違うから……。同じ学年の弓使いと回復魔法師だよ」
「二年目か……。二年目になると、やっぱり慣れる?」
「まあ、そうだね。仲間の行動は予想はつくね。連携は一年目よりはやりやすくなる」
「そっかぁ。じゃあ楽しみだな。……アレンは優勝したことある?」
「無いよ! かなり頑張らないと優勝できないよ。運もあるし」
「そっか……」
(やっぱり、優勝は無理なのかなあ)
「去年はそれでも準決勝まではいけた」
「すごーい!!」
「今年は決勝まで行きたいなあ」
「なんかコツある?」
「コツかあ……」
「よし、採取終わり!」
アルルは池で手を洗って立ち上がる。
「コツは、状況をよく見ることかな」
「状況……」
アレンも立ち上がる。
「意外と回復魔法師と盾剣士って、注意する視点が一緒なんだよね」
「へえ……。なら今度教えて!」
アルルは手を差し出して握手を求めた。
「喜んで」
アレンは握手を返した。
「じゃあ、おやすみ。俺はもう一回見回りしてから寝るよ」
「おやすみ。手伝ってくれてありがとう」
二人は手を振って別れた。
(初対面なのに、仲良くなっちゃった)
アルルの足取りは軽かった。
耳ズク
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ケイ虎
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舵チョウ
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