第11話 海へ続く洞窟
太陽が空の真ん中にある頃、ドリフィーは、魔力の池に程近い、大きな守り木の下に二階建ての一軒家を作った。家は古代魔法であっという間に出来上がった。
ドリフィーは、額の汗を拭った。
「ふう」
ため息をつくと、池の隣の一軒家に挨拶に出向いた。
魔力の池は多くはないが、いくつも点在している。ここの池のほとりには、一軒の家が建っている。
(ササリーフを獲らせてもらうんだもの、挨拶しなくちゃね)
ここからは学校に近いが、荒涼な山が近いせいか、その家以外は、人気がない場所だった。
東に行くと学校、西は山になっている。今住んでいる家よりかなり北だ。
「こんにちは」
何度か声をかけるが、静かだ。しばらく待ったが返事が無い。
(また後でこようかしら)
「はーい」
女性の声がした。
しばらく待つと、目をこすりながら眠そうな女性が出てきた。
「こんにちは。あの……今日あっちの木の下に引っ越したドリフィー・ベリファードです。これ、家で作ったお菓子なの」
ドリフィーは、クッキーの入った袋を渡した。
「まあ、ご丁寧にありがとう。私はリゼ・ドレヴァン。息子のアレンと住んでるわ」
ドリフィーは、キョロキョロと見回したが、姿は見えない。
「アレンは剣術学校に行ってるの。まだ学校よ」
「うちにも魔法学校に通ってる娘がいるわ。アルルっていうの」
「あら、歳が近いわね。今度紹介するわ」
「是非。よろしくね」
ドリフィーは内心、この人なら気兼ねなく過ごせそうだわ。と考えていた。
◇
グレン、リュカ、アルルは、ネブリスという白大蛇と対峙して睨み合っていた。
リュカが矢を放った。シュッ。
カキン!
しかし、届く前に見えない壁で跳ね返って落ちた。
「防御魔法か?」
剣を構えるグレンは一歩後ずさる。
ネブリスはなかなか襲ってこない。様子を伺っているようにも見える。
『見えない障壁よ、崩れよ!』
アルルが古代ルーン語で唱えた。
ピキッ! パリパリッパリン!
透明な壁にヒビが入り、ガラスのように砕けて落ちた。
ガシャガシャン!
「今だ!」
グレンが飛びかかると、ネブリスは踵を返して逃げ出した。
「おりゃー!」
一太刀刺したが、ネブリスは反撃することなく逃げてゆく。
グレンとリュカが追う。アルルもついていく。
そのまま追っていくと、木がなくなり青い空が広がった。迷いの森を抜けたのだ。
目の前にはひらけた原野が広がり、丘になっている。
大蛇はその奥へと走っていく。
三人は追った。
すると、断崖絶壁に出てしまった。下は荒波の海が広がっている。
「この崖沿いに西へ行くと洞窟がある。蛇はそこに行ったのかもしれない」
リュカは西の方角を見て言った。
目の前に遠くまで海が広がっていた。
東を見ると灯台岬があり、その奥に港町が見える。
「あの街が、マルタ?」
アルルが聞くとリュカが答えた。
「そうだね」
「へえ」
グレンも感心して眺めていた。
「丁度、魔王軍の軍艦が泊まってるね」
「ほんとだ」
「洞窟、行ってみる?」
「行ってみよう!」
アルルは少し怖かったが、二人の後をついて行く。
洞窟の入り口についた。中から潮風が吹き込んでくる。
「この下、海に続いてるんじゃね?」と、グレン。
三人はゆっくりと段差を下っていく。
「足元気をつけてね」
リュカがアルルに注意した。
しばらく降りていくと、広い場所にたどり着いた。大きな木箱がたくさん積んである。
よくわからない道具がたくさん整然と整理されて積まれている。広場の真ん中に火を起こしていた跡があった。
リュカが手をかざした。
「まだ温かい」
どうやら誰か住んでいるような気配があった。
左側の壁に大きな窪みがある。その影には木の家があった。
「これ入ったらまずいんじゃない?」
アルルが言っても、二人は家の中に入って行った。
「だって気になるじゃん。蛇こっち来てたし」
「でも……」
家の中は狭く、本棚と小さな丸テーブルがあった。人はいなかった。
周囲をあらかた探したが、人にも魔物にも遭遇しなかった。
「もう少ししたら夕方だな」
グレンがそう言うと、リュカも
「そろそろ戻ろうか」
と言って、アルルはホッとした。
アルルは人と戦闘は避けたかった。
また、洞窟へ来た道を戻っていく。
既に夕日になりかけていた。
「やばい。急ごう」
「夜の森はこえーからな。迷いの森だし」
『光よ』
アルルが古代魔法を唱えると、杖の先から光が灯った。
「アルルって、古代魔法バリバリ使えんの?」
グレンが聞くと、アルルは真顔で答えた。
「まだ勉強中なの。学校の勉強とは別にだけど。はっきり言って学校の勉強より楽しい」
アルルはそう言って笑った。
「暗くなってきたのに、魔物来ないな」
三人は早足で森を抜ける。
ガサッ。
と音がして三人は身構えた。
目の前の大木が、ゆっくりと軋む音を立てた。
幹に刻まれた節が二つ、ぎろりとこちらを見る。
枝のような腕が持ち上がり、乾いた葉がぱらぱらと落ちる。
――エントだ。
「こっちが攻撃しなければ、何もしてこないはず」
三人は息を殺しながらエントの横をすり抜けた。
エントが一歩踏み出すたび、地面が鈍く震えた。幹がきしみ、古い樹皮がはがれ落ちる。もし踏まれたらひとたまりもなかった。
日が暮れる前に森を抜けたかった。三人は駆け出した。
なんとか日が落ちる前に森の外の湖まで戻れた。
「「「ハァハァ」」」
「帰り道は魔物に会わなかったな」
「そうだね、運が良かった」
「不思議……」
三人は学校に報告に戻った。
学校の外に冒険に出た者は、必ず報告しなければならない決まりだった。チームの誰か一人が報告すれば良い。
三人が剣術学校に着き報告すると、先生からあるいい話を聞いた。
「訓練場の三階の大フロアが臨時で区分けされて、4フロア貸出し始まったぞ。残り1フロアだ。予約するか?」
「予約します!」
「対戦相手は決まってるのか?」
「いや、まだです」
「対戦相手が決まったら、速やかに申請するように」
「はい」
グレンとリュカは、拳を握った。
「やったぜ! 対人で練習ができる」
アルルは対人戦闘をしたことがなかった。
そんなアルルを見て、グレンが言った。
「アルルって、強くなりたくないの?」
「なりたいよ! でもまだ怖い」
「一回やれば好きになると思う。な、リュカ」
リュカが腕の帯を解きながら言う。
「僕も最初は怖かったからね。わかる」
「そうなんだ」
アルルは少し表情が柔らかくなった。
「しかし、相手がいねーな」
グレンがそう言って笑った。
もうみんな冒険から帰ったようだった。と思った時、後ろから会話が聞こえた。
「ロイドが後ろ見ないで何度も突っ込んでいくんだもの。そうじゃなきゃこんなに遅くならないわ」
「悪かったって言ってるじゃん」
声の主は、アルルの親友のリオナと、同じチームの盾剣士のロイド・ダルガだった。後ろにジュリアンもいる。
「あ、アルル!」
「リオナ、遅かったね」
「もう、こいつのせい!」
「ごめん」
「まあまあ……。もう終わったことだし」
仲裁するのは、ジュリアンだ。
「毎回こっちの位置見ずに勝手に突っ込んでくから何度危ない目にあったか」
リオナはまだ怒っているようだった。
「後衛信じてるってことじゃん?」
ロイドが悪びれずに言うと、リオナは肩を落とした。
「……リオナ、明日訓練場で練習しない?」
アルルがリオナなら気兼ねなく練習できそうな気がして誘った。
「俺たち決闘相手探してたんだ」
グレンも続けて言った。
「えっ? 空いてたの!?」
リオナは一変して表情が変わり、笑顔になった。
「やるやる! アルルとなんて、なんてツイてるの!」
「俺、学校に報告してくる」
リュカが校内に走って行った。
アルルは胸がワクワクしていた。
(知らない相手だと少し怖いけど、リオナなら楽しそう!)
◇
アルルは、ワクワクした気持ちで帰宅した。
「おばあちゃん、私……」
家に入ると、家の中は空っぽだった。棚やテーブルすら無い。
(引っ越しの下見の下見って言ってたよな……確か。まさか、もう引っ越しした?)
(……絶対したな)
アルルの家の周辺地図
https://49829.mitemin.net/i1114140/




