7. 舞踏会で、素敵な女性に会って欲しい
急に決まった舞踏会の準備は、すぐに始まった。もちろんルーカスが乗り気でないため、ジョエル様が中心となって計画してくれているようだ。廊下でジョエル様とすれ違うと、
「セリオさん、舞踏会上手くいくといいね」
なんて、優しい言葉をかけてくれる。
「はい!」
私は笑顔でジョエル様に言う。
「ルーカス様が、相応しい令嬢を見つけられることを祈っています」
このまま、ルーカスにセシリアに惚れていることや、セシリアのいいところばかりを話されると、私の頭がおかしくなってしまいそうだ。ルーカスには絶対に惚れたくないのに、惚れてしまう可能性だってある。だから、ルーカスには早く相応しい女性を見つけてもらうに限る。
「ジョエル様も、いいお相手が見つかればいいなと思っております。
ジョエル様、私に出来ることがあれば何でも言ってください!」
深々と頭を下げる私に、
「ありがとう。君が力になってくれて助かるよ」
ジョエル様は笑顔で告げて去っていった。私はそんなジョエル様の後ろ姿を笑顔で見送っていたのだが……
「おい、クソチビ」
後ろから禍々しい声で呼ばれて、ビクッと飛び上がる。恐る恐る振り返ると、いつの間にかイラついた顔のルーカスがいる。
「る、ルーカス様!も、申し訳ありません」
必死で頭を下げるが、それでルーカスの怒りが治まるはずもない。
「お前、いつの間にそんなにジョエルと仲良くなってんだ?
俺の使用人なのに、どうしてジョエルのほうが親しげなんだ? 」
そう言うルーカスは、鬼のような顔で私を睨んでいる。もしかしてこれは……
「嫉妬ですか? 」
思わず聞いてしまうと、
「馬鹿野郎!! 」
怒号が続く。嫉妬ではなかったとしても、このパワハラ的態度にはうんざりだ。そして、やっぱり嫌いだと思ってしまう。私がジョエル様に心を開いているのも、ルーカスがこんなにめちゃくちゃで冷たい人だからだ。ルーカスには分かって欲しいが、分かるはずもないだろう。
「誰がテメェに嫉妬なんてするか」
ルーカスはイラついたように続ける。
「それに……お前はなぜそんなにも、舞踏会に向けて張り切っているんだ? 」
それはもちろん、ルーカスのためにいい女性を見つけるからだ。だが、そんなことをルーカスに言うと、まさしく火に油を注ぐ事態になってしまうだろう。私は努めて冷静に答えた。
「ジョエル様にも素敵な女性を、と思いまして……」
すると、ルーカスは刺すような視線でじろじろ私を見る。あまりにもじろじろ見るものだから、もしかして正体がバレたのかと不安になる程だった。
だが、決して正体がバレた訳ではないらしい。ルーカスは、不機嫌そうに私に聞く。
「お前は結婚するつもりはないのか? 」
「えっ!? ……ええ。だ、だって私はじゅ、十七歳ですし……」
いや、正確には二十二歳だ。だが、そんなことは口が裂けても言えない。
「そうか」
ルーカスは、そう言って嫌な笑みを浮かべて私を見た。
「お前はそんなちんちくりんだから、結婚する気もないのだろう。恋だってしたことがないのだろう。
だからお前は、俺の気持ちだって分からないのだ」
申し訳ないが、ルーカスの気持ちは分からない。私の言動がルーカスを傷つけてしまったのかなとも思う。だが、お互いのためにも、私たちは結婚しないのがいいのだと強く思う。本当に、舞踏会でいい令嬢に出会って欲しい。そして願わくば、その令嬢も、このめちゃくちゃなルーカスを受け入れることが出来ますよう。




