第二十九話 死線
山賊達の襲撃を耳にしたチコ達。流石に危険と焦る彼女は一度戻る事を提案する。
だがアレクは何一つ表情を変えず、洞窟の先へ進もうとする。
その際、後頭部を掻きながらアレクはこう口にする。
「安心しろ。セラティスはあぁ見えて拳術は折り紙つきなんだ。一人でもどうにかなる」
「一人でっ?!沢山居るんですよね?」
「あぁ。だが問題ねぇ。セラティスを本気にさせた奴を俺はここ最近見たことねぇ…」
彼が言うからには相当なのだろう。それに家にはベールもいる。彼女も強いという事をチコ達はよく知っている。
山賊達に襲われようともそう簡単にやられるなどと思っていない。
「強いんだったら心配することは無いんじゃないか?俺らがササッとレイスを浄化させて戻ればいいのさ」
「…ん~、確かにそうだけど」
「心配する事ぁねぇよ。チコのパートナーなんだろ?」
「…そうだね。心配するだけ時間の無駄よね!」
フライヤの言う通りだ。ここまで彼女と歩んで来たんだ。今更何を心配する必要があるのだ。
彼女が居れば人間相手の一人や二人、どうということはない。
彼の助言にチコの不安は吹き飛んだ。気を取り直して彼女は鎌を片手に二人を連れて奥へと進む。
進むにつれて徐々に強まるレイスの霊気がチコの肌に触れる。目的に近づいている証拠だ。
悪寒を感じ取ったフライヤも眉間のしわを寄せて敵の攻撃に身構える。
アレクも気配を感じ取ってはいるが表情変えずにチコの後についていく。
途中、チコはふと疑問に思った。以前に山賊達を懲らしめた経歴がある事。
それはつまり、この洞窟に入った可能性もあるのでは?チコは歩みを止め、アレクの方へ体を変えて同じ疑問を口にした。
「あの…過去に山賊達を返り討ちにしたと言ってた気がしたのですが…?」
「ああ、そうだけど?」
「ここの広さの事も知ってるのかなって…」
「知らん」
もはや即答のレベルで返されてしまい、チコもまた呆気に取られてしまった。
「ど、どうしてです?何度も面倒な目に会ってるんですよね?」
「確かにそうだが、あいつらにだって生きる意志はあるだろ?」
「…!」
予想もしていなかった。無鉄砲にも思える言動だが、それは決して違うとチコは感じ取った。
敵だとしても、すぐに命を絶たせるとは考えない。そういうことなのだろう。
あの時だって。
【何をしてるっ…!!早く殺せぇっ!!】
瀕死のリベラが自分に言い放ったあの言葉。確かに私の心には殺意があった。
ここで討たなければ、またあの世界で悪さをするとも感じていた。
でもあの時。私は一瞬踏みとどまった。
ここでリベラを亡き者にすれば…何かが狂い始める気がしたんだ。
それと同時に割れるような痛みが頭を貫き、気を失った。
それにしても、彼女のあの一言は、一体どういう意味なのか。
どうしても分からない。理解出来るとは到底思えない。
チコが深く考え込んでいた時だった。
「チコッ!!」
「っ?!」
あの時の出来事に意識が行き過ぎて、レイスの気を一切探っていなかった。
ふと、後ろを振り向くとそこには2mを超える巨体な黒い姿をした者が拳を構えて襲い掛かっていた。
それはまぎれもなく今回の諸悪の根源であるレイスだ。
鎌でガードするには召喚が間に合わない。回避の仕様がないと感じたその瞬間。
(ガギィンッ!)
フライヤが機転を利かせて両爪でレイスの拳を受け止めていた。
全体の体格の大きさも計り知れない上に拳まで男の体半分が影になる程、すさまじく大きかった。
「フラッ!」
「あぶねぇ…!」
レイスはそのまま退けを取るつもりはなかった。グググッとフライヤを押し通そうとする。
フライヤも負けるわけにはいかず、必死に押し返そうとするが、あまりにレイスのパワーが強く、耐え凌ぐのも時間の問題だった。
彼に怪我を負わせたくはないチコは鎌を呼び出して、右脇から斬りかかるようアシストした。
だがレイスはそれを後ろに下がって回避する。
「焦ったぜ…突然思いふけるからよ…」
「ご、ごめん。フラ」
再び間合いが広がったレイスとチコ達。次に手を打ってきたのはまたもレイス。
近くにあった岩石を片手で複数、小石かの如く左右交互に飛ばして来た。
三人は一瞬焦りながらもそれぞれ、岩石を避けていく。
岩もその内無くなっていく。そう踏んでいたチコ。
幾多にも及ぶ投石を回避し続け、その狙い目は次第に近づいて来た。
一瞬敵の近場にある岩に視線を向ける。奴の近くに岩はもうない。
これならばとチコは着地直後に鎌を横に持ち替えて、レイスに急接近する。
「いける…!っ!?」
その考えもむなしく、ある程度接近したところでレイスが両手で地面を突き刺し、地面を持ち上げ、壁を作ってきたではないか。
しかも地面の壁は天井ギリギリまでの高さがあり、そこから縫ってレイスに攻撃をすることも出来ない。
流石に行く手を阻んでくるとは思っていなかった。チコの鎌でもあの岩を両断するのは無理がある。
フライヤも巨大な壁を砕く力は流石にない。
このままではレイスに逃げられてしまう。その時だった。
「おい!悪霊っ!」
アレクがチコの目の前に割って入るや否や、壁に向かって大剣を複数回あらゆる方向へ両断していく。
「ッ…!!?」
レイスもまさかの展開に焦りを見せる。壁はみるみると崩れ落ちていき、山なりの道と共に砂埃が舞う。
上部分は人が通れるほどの隙間が生まれており。その場所にチコがイーグルアイを持ってレイスに銃口を向けていた。
「知性があるとは思わなかったわ…」
「グギィッ!」
レイスは最後の抵抗にチコに突進しようと打って出るが、すぐに右足を撃ち抜かれた。
撃たれた反動で右膝を勢いよく地面に叩きつける。その流れで体も崩れて両腕を地につけた。
怒りに満ちたレイスは咆哮をし、威嚇した後に満身創痍ながらも体を起こして、三人に襲い掛かろうとした。
(スッ…)
「ギギッ…!」
気が付いたら、レイスの懐にチコが前屈みで鎌を横に構えていた。
その一瞬は無音に等しかった。そして、
(サッ…!)
レイスの腹部を左から右へ斜め上に切り払う。その瞬間、奴の身体は一切動かなくなった。
斬った部分から徐々に光が立ち込め、その流れに則るようにレイスは悶え始めながらも消失していった。
霊気の塊や核がいつもどおり残り、その場に転がる。
ようやく、事の一件は落着きを見せた。
「意外と呆気なかったな」
フライヤがそう口にしながらチコの下へ近づいて来る。アレクも大剣をしまい、腕を組んではレイスが残した魂の結晶や核を凝視する。
「そいつが奴のエネルギー源になってるのか…」
「はい。それらのおかげで私の鎌や銃、偵察班達の使用する機器がレイスの浄化や探知に役立っているんです」
そう説明しつつ、専用の瓶に結晶と核をそれぞれ入れていく。その最中、チコは見慣れない物を見つける。
結晶と同じ、濃い紫色の固体を見つけるのだが明らかにいつも見る魂の結晶とは違う。
見るからに禍々しさを漂わせている。それをトングで拾おうとした時。
(ビリビリッ!!)
「うわっ!!」
突然トングを通してチコに激痛を与えて来た。思わず手に持っていたトングを離して尻餅をついてしまった。
フライヤもそれに驚いて、チコを心配する。
「おい、大丈夫かっ?!」
「いたた…。何なの…?」
落としたトングを拾いあげて再びその固体に近づいてみる。やはり、他の結晶を見比べてもその異様なまでの気質はあった。
「手持ちの道具で対処出来そうにないわね…」
トングよりも小さいピンセットではどう頑張っても拾えるとは思えない。ほかに大きい物や頑丈な手袋を持っている訳でもない。
「偵察班に任せるしか無さそうか?」
「そのようね…」
彼の言う通り、偵察班に調査してもらう他無い。アレクにも今回の一件がひとまず収束を迎えた事を説明し、家に戻る事に。
その間に偵察班へ事情を電話で伝え、後に合流する形になった。
洞窟の入り口まで戻って来た三人がそこから出ようとした時、山賊達が偶然戻ってきていたようだ。
巨漢を3人係りで担いでおり、彼らはもう息が上がっていた。
他の山賊達がチコ達の存在に気づいた途端、短剣を抜いて脅しに掛かった。
「お、お前ら!俺たち山賊の縄張りに入っているとは…!いぃ、良い度胸してるな!それにさっきの鳴き声はなんなんだ?!」
「あぁ?」
アレクが大剣に手を伸ばし、眉間にしわを寄せに寄せながら山賊に物凄い圧力を与えていく。
それに対して山賊達は恐れおののいてしまったようで、道を開けるように脇へ下がって行く。
その動きにアレクは大剣から手を離して、その道を歩いていく。
チコ達もその後をついていく。
「…、はぁ…次から次へと…」
「…ん?」
溜息をつきながらそう口にするアレクの前に現れたのは、
十を超える数の傭兵と赤と黒のドレスを身にまとった金髪の女性が馬に乗って現れた。
見るからに女王の風紀が伝わってくるほどに気品な容姿を見せていた。
アレクを鋭い眼差しで見てはかなり圧のある言い方をする。
「何故お前がここにいる?」
「…尋ね方にしては大分好戦的だな?リーズデル様よ?」
どうやらアレクは彼女を知っているようだ。横目で腕を組みながらリーズデルの話を聞く。
「魔物のうめき声が聞こえたとここをパトロールしていた傭兵から報告があってな」
おそらく先ほどレイスが咆哮した声の事だろうか?隊員はそれを聞きつけて討伐隊を率いて来たようだ。
彼女は馬から降りてチコとフライヤの方を見てこう言った。
「見知らぬ奴もいるな?…挨拶が遅れた。私は王国の王妃を務めているリーズデルと申します」
「お、王妃様?!」
姫様がわざわざ現場に?
同じようにチコが彼女にそう問いかけるとリーズデルは肘を組む形で王位も兵士と戦う故を述べた。
事の発端や事情を説明し、一件の騒動が収束している旨も伝える。
「レイスねぇ…ゴーストぐらいなら聞いたことはあるけど…」
「この世界も含め、ほぼすべての現世に蔓延るレイス達を私のような死神達が浄化しているんです」
「なるほどな…そのレイスとやらを君達が討伐してくれたというわけか。何はともあれ、無事でよかった。アレクを除いてな」
「一言余計だバーカ」
アレクは大分リーズデルに対して辛辣な態度を見せる。彼女もそれに乗るように怒りを露わにする。
「貴様ぁ!今バカと言ったな!?」
「何度でも言ってやるよバーカ」
森で生活をする男と王妃である彼女に接点があるのはいささか不自然と感じたフライヤはアレクに関係性を問いかける。
「あの、リーズデルさんとは一体どういう…?」
「ん?アイツはセラティスの姉だ」
「えぇっ!?/ええっ?!」
なんとリーズデルはセラティスのお姉さんだった。
確かに色は違えどセラティスと髪型が似ており、右側に羽の形をした前髪があった。
顔の骨格もどことなく似ている。
そんな二人をよそにアレクとリーズデルはいがみ合いを始めていた。
「今日という今日は妹を返して貰うわよっ!」
「出来るもんならやってみな、バーカ」
「バカって言うんじゃないわよ!この脳筋!!」
そんな二人のやり取りを見ながらチコが傭兵に呟いた。
「…いつも、あんな感じなんですか…?」
「はい。まだ軽い方ですよ、あれは…」
「えぇぇ…」
フライヤと一緒にあの口喧嘩が軽い事に開いた口が塞がらなかった。
気づけば空は太陽の光が出始めたのか、紺色へと変わっていた。数時間後には朝焼けになる。
ひとまず任務を遂行出来た事に安堵の表情を浮かべるチコ。そんな彼女を横で微笑みかけるフライヤ。
「…!」
ふと横で見ていた山賊達を見つけたチコは単身で彼らの下へ近づいていく。
山賊の一人が武器を取り出して接近を禁ずるよう言葉を呈した。
しかし、チコは留まることはしなかった。
「お、おい…?」
フライヤは少し心配したがすぐに止めるのをやめた。
彼女の事だ。きっと止めた所で無駄だろうと。
今だ敵対視する山賊達は必死の抵抗を見せるが、
アレクがいる所では彼女を倒したところで彼に返り討ちに会うのは当分目に見えていると山賊達でも理解していた。
「くっ、来るなって言ってるだろ!」
その声にアレクとリーズデルもこちらの様子に気が付いた。
後ずさりながらも退くよう請うがチコは一切引き下がるつもりはない。
「その人、大分怪我してるようだけど…?」
「えっ…、う、うるさい!あの女にやられて負った傷じゃない!」
真っ正直に事の顛末を述べてしまっていることに気づかない山賊。
あの女と聞いてチコ達もアレクもセラティスであることを理解した。
それに巨漢の様態を尋ねられて、まさかと言わんばかりの表情を一瞬だけ浮かべていたのも見逃さなかった。
チコはさらに山賊に近づいてこういった。
「多分、その中に金髪の女の子も居たと思うんだけど…?」
「えっ…、そ、そうだ!まさかそいつの?」
「えぇ。そうだけど…、信じて貰えるなら、その人を治療させてもいいかな?」
「え……?」
「今回の一件で私たちの仕業じゃないって事を多分アレクさんの家で知ったと思うし、その間住処を奪われていたのも事実。
実際問題、一番の被害者は山賊達だと私も思うの。だから、その人が本来傷を負う必要は無かった」
「あぁ…まぁ…これは…」
「分かってます。…勘違いするのも無理はないです。突然"聞いたこともない悪霊が縄張りを荒らしていた"なんて信じる人なんていないんですから」
彼女の言葉に山賊達はようやく、敵意が無い事を信じてくれたようで戦闘の山賊に並んで次々と武器をしまっていく。
チコはありがとうと礼を言い、仰向けになって気絶している巨漢の下へ足を進める。
傍まで近寄った後、右膝をついて、右手を巨漢の方へ向けてチコは水の紋章を唱える。
「癒しの水で傷を治せ…」
少しばかり巨漢の男の体に緑のオーラが纏う。少しして詠唱が終わり、数秒待っていると彼が目を覚ました。
「ん?俺ぁ…ここで…、確か女に…」
「気づいたようだね」
チコの存在に気づいた大男は頭を掻きながらも事情を聞く、途中慌てる様子も見せたがすぐに状況を理解してくれた。
「どうやら、勘違いだったようだな…」
「仕方ないですよ。相手が相手でしたから…」
「お前のおかげで、俺の傷も、住処も戻った。助けてくれてありがとな」
「出来たら俺らにすぐ勘ぐって襲い掛かるのも今後勘弁してくれよ?」
アレクがそう念押しすると山賊達も流石に反省したようで今後はしっかり状況を把握してから行動するように誓った。
これで後は偵察班に結晶体を調査してもらうだけだ。
「ようも済んだし。さっさと帰ろうぜ」
「ちょっと待ちなさいよ」
「あっ?」
アレクがリーズデルの方へ視線を向けた時、彼の耳をつまんで大声で妹を返すよう言い放った。
「妹 を 返 し な さ い っ ! !」
「うぅるせぇっ!!叩っ斬るぞっ!?」
「問答無用よっ!死んでもついて行くわよ!!」
「追いつけるもんなら追いついてみろバーカッ!」
隙もない程の挑発を浴びせられたリーズデルはもはや使命感と言わんばかりにアレクの波に乗って怒りで彼を追いかける。
「じゃあなっ!お前らー!仲間にはそっちに向かわせるよう言っとくからよー!」
そういってアレクは追いかけるリーズデルと共に居なくなってしまった。
傭兵達も彼女を見失わないためにもあとを追っていく。
チコとフライヤ、そして山賊達は彼らの行動に唖然とした表情を浮かべていた。
結晶体の事もあり、住処に入るのはもう少し待って欲しい胸をお願いしたチコ。
山賊達も快く了承してくれて、しばらく焚き火を囲って世間話をすることにした。
二十分したところでアレクの伝言を聞いたベールがこちらへ辿り着いた。
すぐにベールと目が合った大男は申し訳なさそうに頭を少しばかり引っ込ませた。
「あの…さっきは大丈夫でしたか…?」
「あ、あぁ。嬢ちゃんのおかげで大分良くなった所だ。…その」
「…?」
「さっきはすまなかった。俺らの勘違ぇで…」
「あぁっ!いえっ!普通では到底あり得ない話で、仕方のない事だったと思います…!」
自分と似たような返しをしていて、思わずフライヤとお互い微笑み返すチコ。
お互いの関係も良い形で収束し、再び十数分程時間を潰すことにした。
洞窟内での出来事や、結晶体の事を彼女にも話し、
改めて世間話をしていたところでベールが二人に渡したいものがあると言い出し、バッグに手を突っ込んであるものを探し始めた。
「セラティスさんから、アクセサリーを頂いたんです」
そう言ってベールがチコに黄緑色のを、フライヤには青のミサンガを渡して来た。ちなみに彼女のは黄色だったようだ。
山賊との一戦の後、わざわざ作ってくれたのだ。
「可愛いー!」
「お礼はチコさんとフライヤさんの分も合わせて言っておいたので安心してください」
「ありがとう。すぐつけよう」
チコが右手首にミサンガを身に着けている時に背後から何者かが接近していた。
その気を感じ取って後ろを見たチコとベール。その視線の先には偵察班の数人とシエラ会長が居た。
「待たせたな」
「会長。お疲れ様です」
一礼するチコとベール、それに釣られるようにフライヤも礼をする。
「もうそんな間柄でもなかろう。チコ、どうやらレイスの遺品に今まで見たことのないものが混じっていると言っておったな?」
「はい。いつもの結晶に色合いは似ているのですが、それとはより異質でトングでの採取を試みた所、凄い電流が走ったかのような痛みが襲ってきました」
「なるほど…現状、チコに異常は見られないようじゃが…念のためじゃ、この後病院で検査をしておけ。私が手配しておく」
心配してくれるシエラに礼を言うチコ。山賊達にもうしばらく待っているよう言い残し、偵察班達と共にチコ達は再び洞窟に入る事にした。
数分歩いたところで、目当ての場所に辿り着いた。
「……!まさか?!」
シエラが結晶体の存在を見るや否や、半信半疑の目で凝視する。どうやら結晶体の存在を知っているようだ。
チコはすぐその疑問を彼女にぶつける。
「何か、知ってるんですか?」
「やはり予想していた通りだ。偵察班、布を。結晶が中心になるように覆うのじゃ」
偵察班の4人はすぐさまシエラの言われた通りに大きな布で結晶を覆いかぶせる。
さらに四隅とその間の三か所に釘を打ち込み、布がほとんど浮かないように固定した。
シエラが偵察班から専用の噴射機を手に取って、前屈みになりながら空いた1箇所の隙間に居れてそのまま噴射する。
一体どういう理由なのか一見では理解出来そうにない光景だった。
隙間から白い煙がゆっくりと湧き出ては地面を漂わせている。何か白い粉か何かを塗しているのか?
煙に咽つつもシエラは身体を起こして、みんなの下へ戻ってきた。
「会長。今のは…?」
「一応、鎮静化の効果がある専用のガスを撒いて置いた。少しすればすぐに採取できる状態になるじゃろう」
その言葉通り、布を取って姿を現した結晶体はガスによって白い粉がかなりの量付着しており、
先ほど同様トングで採取をしてみた所、激痛が走る事は無くなった。
専用の容器に入れて、チコ達は今度こそ、任務遂行を成した。
ひとまず結晶体に関してはシエラと偵察班達に任せる事にして、チコ達は一足先に死界へ戻る事にした。
その前に一言だけでも挨拶をしようと再びアレクの家を訪ねる事にした。
「はーい。…あら?皆さん。まだお帰りじゃなかったの?」
「はい。あの後色々調査もありまして。帰り道もあって、せめて一言だけでもと思って」
「そうだったの。今回はみんなと話せてとても楽しかったよ」
「こちらこそ。ミサンガありがとうございました。大事にします」
アレクには直接挨拶することはできなかったが、セラティスが伝えてくれるそうだったので、
彼女とだけ挨拶を交わし、その場を後にした三人。
真っすぐな心を持つアレク、揺るがない意志を持っていたセラティス
自分とフライヤ、どこはかとなく似ている気がしなくもない。
それに、今までとは一味違う任務で楽しかった気がするとチコは感じながら死界へのポータルをみんなと一緒に入っていった。




