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D.G  作者: パステル
第2章 家族
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第三十話 中枢

【???】


真夜中、街から離れた一つの屋敷に轟々と炎が燃え盛っていた。

その中から女性が必死の声で叫んでいた。倒れて来た家具に下半身が下敷きになっていた。


「お願いっ…!娘を返してっ!!」


黒髪で右目が前髪で覆いかぶさった黒いドレスを着た女性。

目の前に居る人影に右手を差し伸べ、愛する娘を返すよう懇願する。

一度はこちらを見ているかのように向きを変えるが何事も言わずに、気絶する娘を片手にその場を去っていく。


「お願ぃ…、返して…!リリーを返してぇっ!!」


火で支柱の耐久が尽き、壁なども崩れ始める。床に落ちた木や家具の影響で火花が散る。

まともに目も開けられない状況、連れ去られる娘を見えなくなるまで視界にとらえる。

そして顔をうずめ、涙しながら成すすべ無く彼女はその場で力尽きた。




【死界 チコの家】


リベラとの死闘から一ヶ月が経過し、ベールはついにシエラの秘書として活動する時が来た。

秘書といっても死神活動はそのままに休みの時にシエラ会長を手伝うだけなのだとか。ベールがそう言っていた。

家も今までと同じで死神の活動も引き続き一緒に行える。

だが、それではただ仕事が増えるだけであり、あまりに重労働なため、いつもより死神活動は控えめにするようにした。

出来る限りベールに負担は掛けたくない、出来る限り自分から家事を行うようにしている。

フライヤも任務や買い物の荷物運びと手伝ってくれて大助かりだ。彼もようやく死界の生活に慣れて来た。

ほぼ毎日、夕方には西南地区の西大通りにあるジムへ行っては体作りもしている。

彼曰く、私を護るためだとか。言われた時は恥ずかしかったけれど、とても嬉しかった。

フライヤがいるから私が怠ける訳には行かない。私だって守るべき人が再び傍に入てくれる。

これ以上の幸せはない。そう思っていた。


ある日の夕方、フライヤがジムに出かけている間にスマホに着信が入る。

画面を見ると緑の受話器のマークの下には、「レイチェル」と書かれていた。

依頼所の受付嬢の事である。チコはすぐに電話に出ると彼女の声が聞こえて来た。


「お疲れ様です。西南地区死神依頼所のレイチェルと申します」


「お疲れ様ですっ」


相変わらずの丁寧さにチコはたどたどしい敬語で返してしまう。


「今、お時間よろしいですか?」


レイチェルはチコの焦りを気に留めず、了承を得ようと試みる。

勿論の事、問題ない事を告げると彼女は何やら整理しているのか、電話口から紙をめくるような音が聞こえてくる。

どうやら一つの依頼について、話をしたかったようで、彼女曰くチコ達に遂行してもらいたいものだと言う。

確かに今までも時々受付嬢からお願いをされることはゼロではなかった。

それに先日の結晶体の件を会長から聞いていたようで、今回のターゲットも突然出現した個体であり、間もないにも関わらず凶暴性が強いという。

もしかしたらあの時と同じ類のレイスかもしれないとのこと。

初めて相手したときに討伐した経緯もあり、是非私に任務を遂行してほしいと念を押すように告げられる。

といってもあれはフライヤはともかく、アレクさんが傍にいたから勝てたものであって、私達だけの力だけでどうこうなるのかは不安があった。


「分かりましたが…あの。この間の結晶は一体…?」


結晶体についてレイチェルに伺うとそれに関しては、任務遂行前に会長と面談する予定だった為、その時に話すという。

チコは頭の中で「またアップルパイが食べたいんだな」と呆れた表情と電話口に聞こえない程の溜め息をつきながら聞いていた。


そのまま話は任務の内容に移る。

場所はカルディナ大陸の西にある森の入り口、近くに大きな屋敷の焼け跡があるのが目印だとレイチェルが説明する。

数は目標の一体のみと確認されているが、対象の凶暴性は次第に高まりつつあると報告があった。

緊急性を要する状況で実績のある死神を優先に早急の対応をレイチェルに伝達され、即座にチコへ連絡したという。


それだけ信頼して貰えているのだろうとチコは感じたが今の状況、そんな事を言ってる余裕はないようだ。


周囲に他のレイスが生息している危険は無いとレイチェルは言う。

メモとペンを片手だけで使って書き記し、任務中間違いの無いようにする。


「分かりました。すぐにそちらへ向かいます」


そう言ってレイチェルとの通話を切り、すぐさまバッグと召喚機を手に家を出る。

階段を降りながら、スマホで今度はフライヤに電話する。

四コール程した後、彼が電話に出て、息を若干大きくしながら応答する。


「もしもし」


「フラ?緊急の要請がさっき入って、今依頼所に向かってるんだけど」


「マジかっ!」


マンションから出て西側の石階段を駆け上がり、依頼所に向かって一目散に走るチコ。


「フラは先に役所に向かってて欲しいの!任務の場所に行く前に会長と面会しないと行けないから!」


「おぅ、分かった」


彼の返事を聞き入れ、役所で会う旨を伝えた後に電話を切り。今度はシエラ会長に電話を掛ける。

二コール目がする前に彼女は電話に出る。


「チコか?」


「お疲れ様です。先ほどレイチェルさんに任務の件伺いました」


「そうか。まぁ、この間の件もあってお主にやって貰いたい任務であってな」


私にやってもらいたいこと?一体どういう事だろう。彼女の話を聞きながら考える。

ベールの事だろうか。それとも結晶体の事か。


「今こちらに向かっている所か?」


「はい。いつものを持って行くつもりです」


彼女の視界に西南地区名物のパン屋「ブレッダ」の看板が見え始める。

ベールも会長室に居る事は知っているので、忘れず全員分のアップルパイを買うつもりだ。




【死界 役所西南支部 会長室】


「分かった。ベールと一緒に待ってるぞ」


そう言って電話を切ったシエラ。

山積みの資料が乗っかった自身の机にスマホを置いてベールがいる方へ歩みを進める。


「チコがこっちに来るぞ。休憩したらどうじゃ」


「チコさんが来るまで少しでも終わらせますよ」


筆ペン片手に死神達が成した任務結果が記された報告書を専用の書物に記帳する、

その作業をここ最近ずっと処理していたベール。

ただ書き記すだけとは言えど毎日数時間もやっていると肩も手も痛くなってくる。

シエラはこの作業を今までしてきたのだが憂鬱に感じてしまい、

その上、新米死神達の戦術指南や救援の任務も担っているのだ。

他の地区の会長達からも「秘書ぐらい付けたらどうだ」と幾度となく言われ続けるのも鬱陶しかった。

ならばいっその事、結果論を言われる覚悟で秘書を雇って、今後念押しされないようにした方がいいと思ったのだ。

というのはただの個人の問題であり、正直自分一人で仕事を続けるのには限界が見えていた。


ベールに秘書を任せた理由は勿論、今まで親しく交流していたのもあるのだが、

何と言っても彼女の記憶力だ。自分はこう見えても意外と物覚えが悪いのだ。

三日前に会議で言われていた内容も備忘録として記したメモを見なければ思い出せないぐらいに。

チコから聞いた話ではあるのだが、彼女はなんとチコと初めて出会った時の事もほぼ全て覚えているらしい。

はたしてそんな1年前の出来事をあったとは覚えていても、具体的な所まで覚えきれるだろうか?

少なからず私には無理だ。言い切れる。


「毎日似たような仕事ですまんな」


「いえ。逆に毎日いろんな事をしながらこの作業もしているなんて……」


ようやく二ヶ月前分の記帳を終え、隣の空きスペースに移動させた後、

横に置いてあった段ボールから、今度は先月分の任務報告書の束と専用の記帳を自分の前に移動させる。

15センチはあるであろう報告書の山、それを見たベールは思わず溜め息を付く。


「溜め息も付きたくなるわな…、言うて私も限界に来てての…」


「これだけでも数年、やってると思うと…私は鬱になってたと思います」


「分かるぞ…」


ソファーに気だるく座り込むシエラ。

足を宙に浮かせ、左右に小さく揺らしながらリラックスする。


「…どうして今まで秘書を雇わなかったんですか?」


まさかの発言にシエラは声を詰まらせ、額に汗を滲ませる。


「うっ…お主もそれを言うか…」




【死界 依頼所】


ブレッダからアップルパイを購入したチコは急いで依頼所へ直行する。

入り口に入って右側の受付へ向かい、バッグからライセンスカードを案内人に見せる。


「死神のチコ=ブリリアントです。レイチェルさんは今、お手隙ですか?」


「レイチェルですね。少々お待ちください」


そう言って、受付嬢がレイチェルを探しに席を立つ。

1分程待っていると彼女が資料を持ってやってきた。近くのテーブルに案内し、チコはその指示に従いついて行く。


「お待たせ致しました。早速こちらが任務資料と、そして道具ですね」


「…ん?」


チコはある事にすぐ気づいた。レイチェルに渡された道具は自分一人の分しかなかったのだ。

その事を尋ねると彼女は呆気にとられたかのような顔をする。


「シエラ会長から直接お伺いされて居なかったのですか?

 ベール様はシエラ会長の秘書としてお手伝いに出ているため、今回の作戦はチコ様とフライヤ様のお二人で遂行していただく予定でおりました」


「会長から?」


おそらく言い忘れていたのだろう。確かにベールはこの間の一件で会長の秘書役となる事は知っていた。

考えてみればベールが居ない時がある事はあり得る話なのだ。

今回は凶暴性があると言っても一体だけだ。フライヤと二人だけでも問題はないはずだ。


「分かりました!おそらく大丈夫だと思います」


「異常な時はすぐに救援信号を送って頂ければ手配しますので」


レイチェルの言葉に返事をして、チコは道具と依頼書をバッグに入れてはすぐに依頼所を後にした。

入り口のドアを勢いよく開ける様にレイチェルは唖然とした顔を見せる。


駆け足でチコは人込みを縫うように役所へ続く道を突き進む。

時に馴染みの店のスタッフに声を掛けられ、それにチコは軽く挨拶をしてはそのまま突っ切っていく。

右へ左へ時折曲がり、しばらく走っているとようやく役所の建物が視界に入ってきた。

バッグを背負い直し、チコはより一層スピードを上げて入り口へ向かう。

役所の入り口近くにはフライヤが壁に寄り掛かってチコの到着を待っていた。


「フラー!」


「…!おう、意外と時間かかったな」


「うん。依頼所とか立ち寄らないと行けなかったから」


思い出したかのようにフライヤも死神の必須要件を理解する。


「そういえば依頼書とか取りに行かないといけなかったんだっけか…ん?」


そう言っている間にチコの持っている袋に目が行った。


「チコ。それなんだ?」


「えっ?…あぁ、これ?…会長と面会するための許可証よ」


とアップルパイの入った袋を前に出して見栄を張るかのようなポーズを見せた。

彼女のたとえに困惑するフライヤだったが、言いたい事はなんとなく察することはできた。

二人と合流したところで一緒に役所に入って案内員に要件を伝えるといつものようにシエラへ来訪者の旨を内通電話で伝達する。

案の定許可が下りるとチコを先頭にエレベーターへと向かい、上層へ移動する。


フライヤもチコが入院している間にシエラと住民登録をしに来て以来だった。

自分以外の人型の動物が居る事に驚いたのもその時だったのを思い出す。

そんな話をエレベーター内で話している内に会長室のある階へ到達する。

その階では私語は慎む事とシエラから強く言われているらしく、

チコが人差し指を口に当てて静かにする様、フライヤに伝える。


エレベーターから降りて二人は会長室の前に居るボディーガード二人に死神ライセンスを見せて自身を名乗った。


「チコ=ブリリアントです。会長との面会に来ました」


そういうとボディーガードの一人が無線でシエラに伝えているのか、

口を押さえて何かを話しているのをフライヤは小さく口を開きながら見ていた。

許可が出たようで、ボディーガードが招くように手をドアの方へ差し伸べて、小さくお辞儀をする。

チコはドアの前でノックをし、シエラの応答を待つ。

フライヤもチコの後ろ脇に移動して彼女の行動について行く。


「入れ」


「失礼します」


ドアを開けて、先にフライヤを会長室に入れるよう促す。

すぐに彼は部屋の中に入って、続けてチコも入室する。

シエラがいつも通り、その身にそぐわない大きな椅子に座ってドアに背を向けていた。

そして、ゆっくりとこちらへ向いた後にシエラがこういった。


「待っておったぞ」


チコが退院した後にひそかに聞いていたのだが、

シエラ会長と面会するときは必ずと言っていいほどこの件(くだり)をやらされるそうなのだ。


「……これ、毎回なのか?」


「これが会長ご希望の…ブレッダのアップルパイですッ!」


現世では人の波に乗る事をあまりしなかった彼女だったが、いくら目上の者のためとはいえ、

チコが真剣な顔でアップルパイを前に出してノリに乗る姿に驚きを隠せなかった。


「ノるんだっ?!」


「やかましいぞ己ッ!」


彼の突っ込みにシエラも怒りとも言えない突っ込みを入れる。

その時に別室から資料を取りに行っていたベールが部屋に帰ってきた。


「あっ!チコさんっ!ちょうど来てたんですね」


「ベールちゃん!お疲れ様ー!」


ベールは持ってきた資料をテーブルに置いた後、チコを抱いて歓迎する。

シエラが椅子から降りて、ベールに休憩の命を併せ、ソファーに座るよう促す。

チコとフライヤ、ベールとシエラで向き合うようソファーに座り、今回の件を話し始める。


「チコ。すまない、ベールの件を言うのを忘れていた」


アップルパイを皿に移しながらシエラは謝った。

チコも思い出したかのような顔をして、その事を追求した。


「そうですっ!驚いたんですよ。渡された道具が私の分しかなくて…!つまり、今回は私とフライヤの二人って事ですか?」


「言わずもがなそういう事じゃ。ベールも一緒に行かせれば何一つ問題はないのじゃろうがいかんせん、

 こちらもセントラルに提出するための資料整理を今週中に仕上げなければならなくて、時間が足りぬのじゃ…」


セントラルという言葉にフライヤは疑問に思いながら同じ言葉を繰り返した。

まず、死界は円を描くように点在する八つのエリアと中枢エリアのセントラル、併せて九つの地区に分かれている。

各エリアに死神の支部があり、その詳細な情報を収集しているのがセントラルの死神本部。

死神達の要の砦ともいえる存在なのだ。

エリアとの境目は宇宙空間のようになっており、行き来するには専用の地下鉄に乗らなければならない。

他地区に行き来するのに制限は特にない。しかし、そこで依頼を受けるには相当な実績を積まなければ行けない決まりになっている。

決まりにはなっているものの、それ程の技術を持っている時点で他地区の仕事よりもセントラルの死神達だけに請け負える最重要任務に抜擢されているだろう。

シエラはソファーから立ち上がり、自身のデスクに移動しながら口にする。

彼にセントラルの概要を軽く説明し、シエラは紫色の結晶が入った瓶を机の脇から取り出して、3人の前のテーブルに置く。


「さて、本題に入るが…この間チコが見つけてくれた結晶体をセントラルの研究員に調べさせて貰った。…やはりこれは"魔障石"(ましょうせき)じゃった」


シエラがソファーにふんぞり返りながらそう言った。

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