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D.G  作者: パステル
第1章 再開
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第二十五話 交差

リベラとの死闘から1週間が経過し、ついにチコの怪我が完治した。退院の時にベールとフライヤは病院を訪れていて、チコの様態を見ては安堵の表情を見せた。


帰宅途中にチコが入院している間の事をベールの口から話し始め、フライヤの生活もある程度整えた事をチコに教えた。死界生活初日には数時間にも及ぶ体毛や肌へ事前に買っていたシャンプーやリンス、亜人専用のボディソープなどを使って洗い流した。おかげで人前にも出れる程に体臭は抜け、チコと面と向かえるようにはなったという。それ以降も役所へ出向いて手続きや登録を行ったり、商店街やジーンといった、知り合いへ挨拶をしたりと死界の雰囲気を覚えるのと並行して行ったようだ。


「シドおじさんのとこには行ったの?」


「挨拶は済ませています。『その際に相応しい武器を用意しておく!』と言ってましたね」


その約束の日も実は当日。、そのため、このまま鍛冶屋へ向う旨をチコに告げた。彼女もわくわくした表情で承諾した。愛人の武器がどんなのか非常に楽しみだったのだ。チコもただ入院していた訳ではないと口にするが全ての理由がフライヤに対する愛情ばかりで結局二人に対して影響を及ぼしてないのでそこまで変わらないのではと口にはせず、心に留めていた。


十分と少しの徒歩の末、3人はシドのいる鍛冶屋へ到着した。相変わらずの熱気と鉄の匂い、決して異臭と言う程ではなかったがあまり慣れない内はあまり長居するのは難しい気もする。そんな仕事場からシドがチコ達の存在に気づいてこちらへ歩み寄ってきた。


「おぉっ、チコ。足は治ったのか?」


「はい。この通り」


と両手を広げて異常の無さを見せつける。小柄ながらにハンマーの柄を右肩に乗せ、小さく微笑んだ顔で先日の件を述べ始める。


「若造。前に言っていた武器の奴、仕上がっているぞ」


「本当ですか?」


「あぁ。こっちに来い」


シドの手招きについて行く三人。中へ入ると窯や熱の排出口から放出される熱気に一瞬体を小さく反らす。この中をガタイの良い男達が汗水垂らして働いていると思うと感心してしまう。自分では絶対に務まらないとフライヤも含め3人が同じ気持ちを抱いていた。


そうこうしている内にシドが両手に二つずつ、計四つの輪っかのような物を持っていた。白を基調とし、ラインや外縁などは黄金色と華奢なデザインが施されていた。フライヤはそれを見てこう答える。


「…腕輪、ですか?」


「そうだ。バングルと言ってな、両手・両足の首根っこにつけるんだ。こう開いて、それからはめるんだ」


そう言いながら、シドは脚立に乗ってフライヤの右手首にバングルを取り付ける。それから左手、両足の順に続けて装着していく。変わった様子がない気がしていたが最初に取り付けた右手の方からどんどんと力が湧いてくる感覚を得始めた。それに気づいてフライヤは思わず右手を凝視した。シドはその反応に再び口を動かす。


「感じるか?霊気の結晶をバングルの結合部分にはめ込んである。己の拳や脚力が上がるだけでなく、霊気による防壁も備えておる。レイスや生身の生物と戦う際、自身に対する衝撃を和らげる効果がある」


シドの説明を聞いた後、フライヤは何も言わず、左側を向きながら右手で正拳を突き出した。


「…軽い?」


「うむ。それも霊気による身体の負担の軽減だ。ただ、敵からの攻撃を全て軽減するわけではない。そこだけは注意するんだ」


これでチコ達をより護れる力を手に入れた。フライヤはシドに深く礼を述べ、バングルについて詳細を聞き出す。その会話は10分にも及び、その間チコ達は外側でシドの奥さんであるナンシーから、おもてなしとして頂いたお茶をゆっくり飲んでいた。


「…美味しい~」


「ですね~」


のんびりしているところで説明が終わったのか、仕事場からフライヤとシドが出てきた。


「お前達、若造の子分は済んだ。今度はお前達の子分の修理もしていけ」


二人は返事をして、鎌と遠距離用武器を取り出してはシドの弟子達に渡した。すぐ取り掛かるよう弟子に命令をするシド。数分で修理を終わらせる旨を伝えた後、シドも工房の中へと戻っていった。それを見送った後にフライヤも加え、引き続きティータイムを楽しむ事に。夫人もシドと会話をしているちょっとした間にフライヤの分のお茶を作っていた。礼を言いながらティーカップを受け取ってそれを不慣れながらも静かに飲む。紅茶だと理解したフライヤは渋みに少し顔を歪ませる。


「あら、紅茶は苦手でしたか?」


「あぁ、いえ。生きてた頃も紅茶を飲む機会が無かっただけでして…」


咄嗟にそう返事をし、一瞬この返しで問題が無かっただろうかと不安になった。夫人は彼の表情を見て悪気が無い事を理解してくれたようで、微笑みながら他の種類を勧める。どういった種類があるのかと彼が聞き返すと夫人はお茶の名前を区切りながら教えてくれた。聞き覚えのある名前はあるものの、どれが合うのかは見当も付かなかった。一応ほうじ茶を頼む事にした。夫人は返事をした後、すぐにほうじ茶を作りに一度事務用の部屋に戻って行く。


「フラ。死界の雰囲気は慣れてきたの?」


チコがカップを置いた後、彼に声を掛ける。それにフライヤは肯定の意を示し、数日間の出来事を軽く話した。


「あぁ。ベールさんのおかげで死界の色んな事も知れたし、獣臭さもとれた。助かったよ」


「そんな、大した事はしていませんよ」


ベールが少し照れながらそう言い返した。チコも微笑みながら二人の様子を見ていた。少しして夫人が戻ってきて、注文していたほうじ茶が入ったティーカップをフライヤの前に差し出した。再び礼を言ってそれを飲み干す。


「…凄くあっさりしてる」


味や食感を包み隠さず述べる彼に夫人は苦味といった刺激が無く、食事に向いているとほうじ茶について軽く説明した。ほうじ茶が気に入ったのか、後で買おうかを頭の中で考えた。


数分のお茶会の後、シドと弟子達が彼女達の武器や器具を手に3人の所に来た。


「嬢ちゃん達、メンテナンスが終わったぞ」


「ありがとうございます!」


二人は弟子達から自分の武具を受け取り、振り抜きや持った時の違和感が無いかを確認した。フライヤはそばでチコの真剣な顔を食い入るように見ていた。現世では非力だった彼女を思い出し、著しく勇敢になっているのを目の当たりにした。それと同時に安心感もあった。だが彼女の存在が変わっても彼の決意は変わる事はない。いつでも自分がチコを守り続ける。そう胸に強く抱きながら。




シド達と別れ、鍛冶屋を後にした3人は自宅へ帰る事に。その途中、ベールが夕飯についてチコに問いかけた。


「今日はチコさんの退院祝いにしようと思うの。だから、チコさんが何を食べたいか聞きたいの」


「作ってくれるってこと?!」


「はいっ!」


「やったあ!じゃぁ、シチューが良いっ!」


チコがそういうとベールは明るく返事をして、前菜などの献立を考え始めた。フライヤも彼女がそう答えるであろうと気づいていた。理由は当然、前世の時と同じだったからだ。彼女はかなりのシチュー好きなのだ。ビーフ、コーンクリーム、ボルシチといった、シチューと聞いて可能な限り訪れるほど食べ歩いていたらしい。フライヤにもシチューで良いかを尋ねるベール。もちろん受け入れて彼女の作るシチューに期待を寄せる。


道の途中に食品屋があったため、ベールは念のために夕飯に使う食材をいくつか買って行くことにした。彼もチコと同じである程度の料理が出来るため、食材選びもそれ相応な知識は持っていた。キッチンや冷蔵庫の中身を出来る限り思い出しながら野菜や調味料をかごに入れて行く。質や重さを見極めていき、新鮮な食材を選び抜いていく。


退屈には微塵も感じなかった。二人もお互いに和気あいあいに話をしている。チコも俺を追って自殺したのは勿論悲しい事だ。きっと現世で俺が居なくなるという事はとてつもない程の苦痛だったはずだ。理性を失って、先の未来も見据えられない程に。でも、少しばかり嬉しかった部分もある。俺のために死んででも会おうとした事だ。もし、死界が無かったらきっと俺とこうして再開する事も無かった。そんな入り乱れた感情を持ちながらもチコが時々見せる笑顔を見ていると安心感が大きく包み込んでくれる気がした。


心の中で思いを巡らせるフライヤはチコ達と共に買い物を終え、再び自宅に向けて歩き出した。レンガの道を通り、青色の看板を目印に細道に入り込んで隣の大通りに出た。そこから右へ曲がって進むと途中左手にコンクリートの階段があった。手すりに手をやるチコとベール、そしてフライヤは袋を右手にジーパンのポケットにもう片方の手を入れて階段を下りて行く。同じような建て構えのコンクリート製のマンションが10棟程並んでいた。階段から手前の右から二番目にある第九棟に彼女達の部屋がある。エレベーターに乗って八階まで上がり、出て右側にある。集合マンションと聞いて初めて来たときはボロいものだと思っていたのだがそれは良い意味で裏切られた。明かりや壁は決して素朴な作りではなく、それなりに整備が行き届いており、イメージしていたのよりは抜群に居心地は良かった。


ベールが部屋の鍵を開けて先にチコとフライヤが中に入るよう促した。リビングのテーブルの上に買ってきた袋を置き、すぐ使う食材はワークトップにひとまず移動させた。その他は冷蔵庫に仕舞い込んで、ベールは夕飯作りに取り掛かる。チコとフライヤが手伝おうかと気を使ったが彼女は笑顔で大丈夫と返した。四十分程度で出来上がると告げ、リラックスしてるように2人を逆に気遣った。


「私、病院で寝てただけだけど…」


「俺も色々世話になってるし」


「大丈夫です。二人は休んでて下さい。チコさんだって完治したと言えど満足な休息は取れてないですし、フライヤさんだって慣れない世界の中であれだけ移動してるんですから」


確かにベールの言う通り、病室のベッドはさぞフカフカで寝心地は良かったが入院したばかりの数日はまともに体も動かせず、ようやく体も動かせるようになった所で読む本はカタログ雑誌が良い所。後はテレビを見るぐらいしか時間を潰す事が出来なかったのだ。


フライヤも死界を訪れた直後は空気の質の違いや場の雰囲気に飲まれ、具合が悪くなった日はあった。「チコが心配する」と内緒にしてほしいとベールにお願いをしていた。今は何とも無いが彼女の機嫌も出来れば損ねたくもないのが本意だ。


必要な時は声を掛けてほしいと言い残して、二人は彼女の言う通り、料理が出来上がるまで一息つくことにした。40分ぐらいが経過した時、ベールは夕飯が出来上がる旨を二人にキッチンから声を掛ける。完成の10分前から部屋中にシチューの香りが漂っていたため、チコは緩い表情でリビングのテーブルに近づいてきた。フライヤも間もなく移動して、ベールと共に食事の準備を整える。数分してテーブルにはシチューとおかずの豆腐入りの野菜コロッケが並んだ。


ベールの作る料理は美味しい。そう評するチコの言葉にフライヤは期待を寄せつつ、シチューを口にする。当然、味はとても美味しいものだ。


「すげぇ美味い…」


手作り料理を食べたのは現世でチコの料理を食べて以来だ。香りが味を引き立たせるというのはこの事か。文句の付け所が無いと言っても過言ではない。チコも料理を食べては満足そうな顔を浮かべる。二人の表情を見て、ベールも釣られる形で笑顔になる。今後の生活に関して話をする中、ベールがシエラ会長の助手になる可能性がある事を切り出した。


「会長の助手っ!?」


チコは驚いた表情で両手をテーブルの上につき、そう口にした。ベールは自分の技量に対して不安視する様子で話すが彼女の良さをよく知る仲間であるチコはそんな心配はないと励ました。会長がそう言うのはそれ相応の信頼があるからだと言うと彼女は納得し、気持ちを整理した。


改めてチコとフライヤの過去話や死神になってからの話、会長の話をした所で入浴としていい時間になってきた。ベールは先にどうぞと二人を気遣った。フライヤもまだ自分の獣臭さを懸念してベールかチコが先に入って欲しいと言い返した。それに続いて先にチコが入る事を勧める。チコも問題ないか聞き返したが二人はほぼ同時に肯定の意を唱えた。


「そう。じゃあ先にお風呂、入っちゃうね」


寝室にあるタンスから下着と薄ピンク色のパジャマの一式を手にし、チコは改めて一言口にしてから脱衣所へ向かった。少しして、ベールが食器を洗って、新しいコップをフライヤの分も合わせ持って椅子に再び座った後、ベールは口を動かした。


「…フライヤさん。チコさんの事で…」


ベールはコップを差し出しながらも少し真剣な顔つきで彼に問いかける。


「…?」


「さっき現世の話をしていた時に思ったのですが…、本当に気弱な方だったのですか?」


「…あぁ。あの頃はかなりの引っ込み思案だったんだ。俺が居ないと落ち着かないというか。俺があの時、魂を奪われてチコの傍から居なくなった時の事を聞いたら、本当に申し訳ない事をしたって思ったさ…」


あの時、チコと口喧嘩しなければあんな悲劇は起こらなかった。そして、チコが自殺なんてしなかったのだ。フライヤは自分を責めるように口を走らせるがベールはそんなつもりでチコ達の過去を掘り返すつもりはなかった。すぐに謝って、死神として活躍していたチコと照らし合わせて、現世の彼女がそんな弱弱しい性格の持ち主であったなんて想像が付かなかった事を話した。フライヤもチコと再会してから、自分から率先して進んで行く姿を見て驚く事が多かった。


「俺も要塞で会ってから、あんな強気なチコを見たのは初めてだった。たくましくて、もう俺が居なくても一人でやっていけそうな気もしたさ」


「…フライヤさんの話を聞いて、現世の記憶を失った事は良い形に向かっていたって事ですね」


自分のコップを両手の指で撫でながら、ベールは微笑んでそう言った。


「そういう事になるのかな?…そういえば、まだベールさんは自分の過去を思い出せてないんでしたっけ?」


「はい…。自分が一体何者なのか…。今回のチコさんの件を見て、さらに気になってはいます。でも…同時に不安だったりします…」


「不安?」


フライヤは彼女のいう不安を問いかける。両手でコップを小さく握り、その中の飲み物を目にしながら、その問いに答えた。


「もし…私が悪人だったらって思うと…怖くて…」


死界の仕組みを完全に理解しては居なかったが、あくまで死界は死者の集う場所の一つに過ぎない。現世の記憶がほとんど抜け落ちてしまうのが一般的だったとして、その時の自分が善人であれば、性根の曲がった悪党の可能性も0ではなかった。ベールは万が一、後者だった場合、チコ達に迷惑を掛けるかもしれないと不安だったのだ。


「…多分、それは無いと思う」


「…え?」


ベールは彼の顔を見て返事した。フライヤはテーブルに両腕を置いてベールに対してこう言った。


「チコがベールさんを信頼しているからな」


れっきとした根拠には勿論ならない。だが、妙に安心感が心の中に押し寄せてくる。次第にどうしてこんな事を考えていたんだろうと馬鹿馬鹿しく思えてきた。彼は続けてこう口にする。


「チコは引っ込み思案だけど人との付き合い方は上手い方なんだ。不思議に思えるぐらいにさ。…悪い奴にはついて行かない。チコはそれを誰よりも理解している…だから俺も、ベールさんを信頼する。それだけだよ」


信頼している。その言葉を耳にして、ベールは過去一年間であった思い出が溢れ出てきた。目先の不安に駆られてしまっては毎度、チコに助けられてきた。それは私を信頼してくれているからなのだ。


ベールは涙が出そうになったが彼の事を気遣い、堪えることにした。ちょうどチコが風呂場から出てきてリビングに戻ってきた。次はベールが入ってくるよう彼が促し、二人で気遣いし合いながらも結局ベールが折れて自分が先に入る事になった。チコと同じように一式を手にしてリビングから移動した後。チコはフライヤの隣に座ってこう言った。


「フラ…」


「…?」


視線を向けない彼女にフライヤだけがチコの方を向いた。


「ベール、涙ぐんでたけど?」


「え"っ?!」


「女の子を泣かせるなんてっ…!」


そうからかうようにフライヤを責める彼女。彼も咄嗟に否定して事の顛末を足早に説明した。結局チコは最後まで疑う様子を見せていく。


「いくらフラでも許せる事、許せない事があるんだからね~だ」


「だから違うってば!」


そんな二人の様子を申し訳ない様子で聞いていたベール。着替えをグッと抱きしめて、心の中で「ありがとう」と感謝を示した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一番良かったのは、ちゃんとフライヤが チコの信用するベールを信用する、と言った事 [気になる点] 飯テロ…シチュー食べたい…
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