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D.G  作者: パステル
第1章 再開
24/30

第二十四話 測外

早速チコ達3人は家を出てとある酒場へ歩いて行く、依頼所に出向いて、あの時救助に来た死神達のデータを受付嬢達に引っ張り出してもらい、赤い髪の男が救助隊の中に居た事を確認した。名前はガイアスというらしく、死神ランクはB。ちなみにチコとベールは一つ下のCランク。だが比較なんかどうでも良かった。男の顔写真をチコはしっかりと目に焼き付けて、会った時に誤認する事がないように心がけた。だがしかし、現状何の手掛かりもない。当然男にだって最低限のプライバシーの保護はある。住んでる場所や生年月日など個人情報を開示することは不可能だ。だが、依頼所で男がその場にいた事、そしてその男の顔を見れただけでチコにとっては予定通りの結果であった。


ではなぜ酒場に来たかというと、彼女の勘である。あんなガラの悪い顔つきの男が行き着きそうなのは活気づいた酒場ぐらいだろうと。入り口の扉を開けて中に入る3人、総じて酒場を経験したことなどある訳が無いため、ベールとイヴは雰囲気と客の男達の視線に少し震えを見せる。チコは二人を連れて堂々とカウンターへの道を歩いていき、スタッフにガイアスの名前と特徴である『赤い髪』と『イカつい顔付き』で尋ねるとグラスを拭きながらも真摯に対応してくれた。


「あぁ、ガイアスさんの事かい?君も何か言われたようだねぇ」


「心当たりあるんですか?」


「えぇ。お客さんのようにガイアスと面会しようとする方が多くてねぇ。一度きつく注意したんですが、その時に暴れましてねぇ」


ベールのような死神だけでなく、街人にまで傲慢さをふるっていたのか。イヴもこれにはガイアスに対して一言愚痴を零した。チコもあまりのふてぶてしさに怒りが有頂天になる。その時だった。先ほど3人が入ってきた扉がまた開いた。そして、そこから男の声が聞こえてきた。


「お~ぅ、おっさん。いつものくれ~」


ベールの少し怖い反応に気づいたチコはすぐさま声のした方へ視線を向けた。瞬時に予測した通りの死神がそこに居た。ガイアスだ。金髪のベールの存在に気づいていないのか、気にもかけない様子で3人の隣の椅子に座り込んで酒を再び注文する。スタッフも2度ガイアスとチコ達を交互に目配せした後に男の要求を優先した。


チコは限界に近かった。あの時説教した女が真隣ではなかろうと3mも無い距離にいる。それを気づかずにただ揚々と酒を頼んでいる。無神経にも程があるのではなかろうか。


頼んだ酒がガイアスの前に出された。そのグラスを掴もうとした、その時だった。


(バキィッ!!)


ガイアスの横顔に強烈な拳が炸裂し、彼は数メートル吹き飛んで行った。酒場の雰囲気は一瞬にして静まり返った。突然の暴力沙汰はもちろん、その拳を放ったのが少女であるチコだったからだ。彼女の呼吸は荒々しく、それはもう激怒していた。出会って間もなく暴力を振るわれたと思っている男も当然ながら怒号を飛ばす。


「この女(アマ)ァ…良い度胸してんじゃねぇかっ!」


「チコさん!流石に殴り合いはまずいですっ!!」


イヴがチコの腕を掴んで止めに入る。だが、それを無言で振り払い、ガイアスに向かって言い放った。


「良い度胸だって?よくそんな口が言えるわね」


その言葉にガイアスは不審に思い、イヴを含め3人の姿をよく見ると男は思い出してあの時の話をし出した。


「あぁ、なんか見覚えがあると思ったら、あん時『怪我した女』と『救助に来たの女』、そして『役立たずのお――」


ベールが役立たずという言葉に反応して瞳孔を開く。それも知らずにチコは同じ言葉に反応してガイアスに急接近して顔を鷲掴み、そのまま引きずって4メートル先の壁に押し付けた。


「それ以上言ってみろ…!!顔面の骨潰すよ…?」


ガイアスを脅してみるもどうやら慣れているのか、あまり効果は無かった。それどころか挑発をし出すではないか。チコはそれに屈する事なく、あの時の状況を説明しだした。


「貴方はどうやら、救助と名して来たにも関わらず、レイスと戦わず、ずっと私の友人に説教していたようじゃない?…挙句の果てにはどキツイ言葉を吐きかけていたようね?…事情も知らないくせによく出しゃばるわね…あんたが戦って居たのなら百歩譲って許したかもしれない…。それにあなた、死神ライセンスはBランクのようじゃない…そんなにBランクって凄いのかしら…?」


ひしひしとチコの右拳に力が入る。周囲も酒に乗じて騒ぎ立てると思ったのだが、ガイアスの今までの立ち振る舞いもあるのか、未だに沈み返ったままであった。


「でもね…それって関係ない事ですよね…?」


うつむきながらも話していた彼女の視線は今度、ガイアスに向けられた。殺気づいた目をした彼女を目の当たりにしたガイアスも流石に汗を流し始める。男がもがこうとした時、チコは怒号の如く静止するよう強要した。


「ベールは私にとって、かけがえのない仲間なの。それを潰そうとした。…たとえあなたが無意識で説教してたとしても…その罪は重いわよ」


右腕を顔の高さまで上げ、拳を構える。仲間を傷つけた。たとえ暴力じゃなかったとしても、ベールにとってはレイスの爪で刺された時と同じ痛みを味わっているはずだ。ならば、この男にもそれ相応の痛みを与えるべきだ。ましてや、ベールだけじゃない、他の人たちのためにも。


チコは拳をガイアスに向けて振りかぶろうとした。その時だった。ジャラジャラと金属の音が聞こえてくるや否や、チコの右腕が止まった。その原因を知るために自身の腕を見てみるとそこには見覚えのある剣と鎖があった。鎖の先を辿って行きついたのはもちろん彼女だった。


「全く…先行きの分からぬ奴じゃ…」


その正体はシエラ会長だった。分かってはいた。チコも彼女が来るのは織り込み済みだった。依頼所へ相談が来た時は各地区の会長にその旨の報告が伝達されることを知っていたのだ。それを利用して、私が相談に来たとなるならばベールも無事であることを間接的に伝える事も出来る。問題はガイアスが一体どういった人物なのかである。もし、今回の一件だけであった場合はここに行き着くのは時間の問題だった。ただ、今回だけでなく、あらゆる問題を引き起こしているようなお調子者だったのなら、要注意人物として会長クラスともあれば管理しているだろうと思ったのだ。だからここに行き着くのも早かったというわけだ。


シエラはしっかりと鎖でチコの右腕を縛りながらも緩めることなく近づいて行く。流石に会長の存在を知らぬ者などほとんどいないため、周囲はより一層静まる。


「…ここは私の顔を立ててくれぬか?」


「……」


チコはゆっくりと拳を緩めた。それに気づいたシエラも鎖を解いていく。剣を締まって、今度はガイアスの顔面を掴んでいた左手を離すよう指示する。ガイアスは突然の暴力を訴えかける。


「暴力で解決とは野蛮人だ…!!俺は正しい事を言ったまでだぞっ!!役に立たない奴は役に立たないと言――」


突如、シエラの双剣がガイアスの両足の真横に突き刺した。火に油を注ぐような発言を止めるためだった。


「チコ達のは"後だ"。まずは"お前の処置"からだ」


それを聞いたチコは無言でガイアスを背にイヴとベールの所へ戻って行った。カウンターで頭を両手で抑えるベールに手を添えて「帰ろう」と口にする。ベールが彼女の顔を見るといつもの笑顔に戻っていた。


「…はい…!」


自然と涙は引っ込んで、釣られるようにベールを笑顔になった。イヴにも支えられながらも3人はシエラに注意だけされて酒場を去って行く。シエラは自分の武器を巧みに操ってガイアスの身体を起こしてあげる。チコの一発だけで相当なダメージを受けていたようだ。


(全く…手加減を知らぬのか、チコめ…)


ガイアスは弱弱しい姿と傲慢さの不釣り合いを周囲の客に見られて、まさに恰好の的だった。そのままシエラに連れられていき、ガイアスも酒場を後にしていく。




「スッキリしましたよ。流石に一発入れた時はヒヤッとしましたけど」


イヴも酒場の雰囲気から解放され、意気揚々としていた。ベールも同じようにあの空間の居づらさから抜け出した事には嬉しい気持ちはあったが今回の一件でシエラに厳重注意されることになる事が気がかりになっていた。


「でも…あの一件で会長さんから何言われるか」


「言われないわよ」


「えっ?」


チコは確信していた。3人は何も処分はされないし、注意もされないと。チコはふと酒場の方を振り向いた後、ガイアスに対して皮肉めいた事を呟いた。


「あのまま私に魂を抜き取られた方がマシだったかもしれないわよ」


「……えっ?/え?」




【死界 路地裏】


「…ここは何だ?」


ガイアスが連れてこられたのは人気のほぼほぼ無く、とてつもなく暗い路地裏だった。数秒歩いた後、壁に近いとガイアスが気づいた瞬間、シエラは彼の向きを180度変えて壁に押し付けた。すぐさまシエラは一本の剣をガイアスの顔面に刃が行くように右側の壁に突き刺した。


「ひぃっ!!」


瞬く間に鎖を全身に巻き付け、壁に接着固定した後に今度は股下の壁にもう一本の剣を突き刺した。何の冗談か理解が追い付かないまま彼女の顔を見るとそれはもう今までにないぐらいに憎悪の塊の如く目を光らせていた。


「うちの友達(ダチ)が世話になったようじゃな…」


「えっ…!?」


流石のガイアスもチコ達が会長の知り合いだという事は知らなかったようだ。その旨をシエラに伝えるもそれは結局、火に油を注ぐ結果にしかならなかった。股下の剣を引き抜いた直後にそれを顔面から左側の方へ同じように刃が向くように突き刺した。


「…レプリカ」


手にしている武器を所持出来ない代わりに、造形物として変化させる汎用魔法である。ただし、レプリカ言えど刃の切れ味や硬さなどは保持されているため、本来の武器の威力は残ったままだ。


「…朝になれば解ける…寝たら死ぬぞ?」


と悪魔の微笑みを掛けながらシエラはその場を去って行く。ガイアスもこれには恐怖し、助けを乞おうとしたが彼女は聞く耳など持つわけが無かったらしい。




【アルカディア 宿屋】


「…そんな…話があったのか」


最期の男がどうなったのか、非常に気にはなっているフライヤ。それを気にせずベールは胸に手をやって、チコの仲間想いと優しさを改めて知ったきっかけにもなった話だと述べる。


「私がこうして死神を続けられているのは…お互い信頼し合っているからなんだと、あれから強く思えるようになったんです」


「…だけどチコは無理をするからな。…きっと生き続けられたのもベールさんが居たからじゃないかな」


それを聞いてベールは少し疑った。


「そ、そうですか…?あまり気にはしてませんでしたが…」


「気づかないようにしているだけ。そういうの、上手いからな」


現世のチコを知っているからこそそう言えるのだろうとベールは心の中でつぶやいた。彼は私の知らないチコを知っている、自分も彼の知らないチコを知っている。決して、他人事ではない。これからも共に歩む事も決まっている。きっとチコも私とフライヤさんを守ろうとするだろう。


ベールはグッと意志を固めるよう深呼吸をした後、フライヤにこう言った。


「私は…、チコさんの信じる人を同じように信じるつもりです」


彼女の真剣な目付きを見たフライヤは思わず微笑んで言い返した。


「俺もチコを信じてるぜ。…それに今はこの姿だ。おかげで身体能力も高いっぽいからな。より一層護れる気がする」


「お互い、護れる人を護って行きましょう」


ベールはそう言ってフライヤに握手を求めた。それに彼は迷う事無く交わした。強くもなく、弱弱しくもなく、ただただ、包み込むような優しい力加減で、チコと同じ感覚を味わった気がする。




その後、救護班によってチコは死界の大病院で手術をすることになった。

バーバラ院長に叱咤激励を浴びつつもしばらく治療に専念し、院長曰く1週間で治療が終わるという。その期間の短さに現世の医療技術と照らし合わせたフライヤは驚きを隠せず、そんな短期間の治療を信じる事など出来なかった。だが、数日後に彼女の様態の良さを見てから、バーバラ率いる医療チームの先進技術の高さに度肝を抜かれる結果となったという。


【死界 商店街】


その翌日からチコが入院している数日の間にベールが彼女に代わって周辺地域の商店街や施設などを案内したり、彼が生活に必要な日用品などを買って行くことになった。


「悪いな。時間取らせてしまって」


「いえいえっ!私もチコさんが戻るまで休暇を取る様に言われてましたので…!」


そう言って、メンズ用の化粧品コーナーに立ち寄っていく二人。今のフライヤのような亜人でも利用可能な商品も多くあり、どの人種の者も死界に住めるような環境になっているようだ。それ以外にもさまざまな日用品を購入し、そのままチコとベールが住んでいる自宅へと歩を進める二人。階段を上って玄関の扉を開いて中へと入って行く。


「意外とこういうのは現代的なんだな」


フライヤがさり気ない感じでそう言った。ベールも軽く受け答えをしつつ、ビニール袋を一度床に降ろして靴を脱いであがる。


「ここが私たちの家です。これからはフライヤさんも一緒に住む事になるのです」


荷物を再びリビングのテーブルに移動した後、簡単に部屋の説明をし始めるベール。リビング、キッチン、脱衣所と浴室、そして寝室と案内していく中で、フライヤは寝室のベッド周りに目が行く。


「あの時と変わらねぇな…」


少ししんみりとした表情を浮かべているフライヤ。それを見てベールはアルカディアの宿屋から気になっていた事を聞いてみた。


「現世の時も、チコさんと一緒に生活してたんですか?」


「えっ?」


思わず聞き返す素振りを見せる彼だったがしっかり彼女の言葉は聞いていた。現世の時は別の家に住んでいた事と時折互いの部屋に行ったり招いたりといった形で交流を深めていた事を明かした。


逆に今度はベールの過去を問いかけるフライヤ。しかし、彼女は未だ生前の自分を思い出せていない。自分の過去を教えられない状況に申し訳ない気持ちになる。そんな彼女を見て、フライヤはすぐさま謝った。


「悪ぃ…、記憶が無いとは思ってなくて」


「いえっ!住民のほとんどは転送で死界に来る以外の場合、生前の記憶がない状態でここに降り立つ事が多いの。…死界の事を細かく説明すると話が長くなりまして…。それに専門のスタッフが居て、死界の案内をしているんですが…確かそろそろ…」


その時だった。玄関のチャイムが鳴り出して、ベールは一言フライヤにリビングのテーブル椅子に座るよう指示した後、すぐに玄関の方へ歩いて行った。その通りに彼は椅子に座ったまま、彼女が戻ってくるのを待つ事にした。10秒ぐらいが経過したところでこちらに戻ってくる足音が聞こえてきた。


「あっ!あなたがかの有名なチコさんの彼氏さんですねっ!?」


揚々と現れたのはチコとベールが死界を案内した人と同じ、レベッカであった。フライヤが彼女について尋ねるとレベッカは一礼し、自身の名を申し上げ、次に仕事柄を明かしていった。ベールに招かれる形で3人ともテーブル椅子に座った後、引き続きフライヤに死界の制度や仕様と言った細かい部分を説明していった。中には彼も驚く画期的な施策などがあり、場の雰囲気も次第に良い方向へ展開していく。結果的には世間話と言った所へ話はもつれ込み、気づけば16時と軽く2時間を超える長話になっていった。


レベッカもさすがの長居に驚きを見せながらも自宅を後にし、その後の夕飯やリラックスタイムの時もフライヤとチコの現世の思い出話で大いに盛り上がっていたという。

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