第十七話 激怒
リベラの計画を阻止すべく立ち向かうチコとフライヤ。杖を持つ彼女は突き出した左手から火の玉を沢山放出させて行く。外側へ曲線を描くようにチコ達の方へ飛んでいく。二人は左右に別れる形で回避し、チコがイーグルアイを取り出し、リベラに向けて数発撃ち込んだ。しかし紫色のバリアが彼女の目の前に現れ、銃弾は弾かれてしまう。
逆サイドからフライヤが拳で直接打撃を与えようとするも彼女は魔法で杖を宙に浮かせ、フリーとなった手でバリアを張って防いでいく。
力を入れ、バリアの破壊を押し切ろうと歯を食いしばるフライヤ。ふと彼女の顔を見るとなんと余裕の表情を見せているではないか。それを見て彼は公には見せずとも焦りを感じ始める。
一度距離を取り、彼女の魔法をかわしながら、何か方法を考える。避けては殴りを繰り返している中、フライヤは自身の手に違和感を感じる時がある。拳を握る時、何か尖った物が刺さるチクッとした感覚があった。
(まさか...)
彼は咄嗟に思いついた考えを実行させる。手を広げ、爪が伸びるよう意識した瞬間、彼の指先から爪がみるみると伸びていくではないか。もはや指と同じ長さまで生えた鋭い爪をまじまじと見つめるフライヤ。これならと願いを抱き、再びリベラの方へ接近していく。
「っ!」
リベラもすぐ反応して、バリアで再び彼の攻撃を防いでいく。鋭い爪がキリキリと音を立てながら競り合いを見せていく。彼に手応えがあったかのように見えたその激しさは本のひと握りの時だった。リベラが笑みを浮かべて彼にこう言った。
「所詮はその程度じゃ」
「なっ!?」
彼が反応するや否や、彼の爪が刺さったバリアが瞬時に縮まり、それにつられてフライヤは前によろめく、そしてすぐさまバウンドの如く高速で拡がっていき、その弾みでフライヤが吹き飛ばされていった。それを見たチコは彼の名を叫んだ後、鎌に切り替えてリベラへ急接近した。彼女もそれを見逃すことなどせず、バリアで軽く防いでいく。怒りに任せて何度も何度も鎌で思いっきり攻撃するもバリアに亀裂は入らない。挙句の果てにはリベラすら不動を貫いている。彼女のあまりの余裕さにチコは睨むように視線を送る。弄ばれている。そう感じた本人は余計に腹が立った。だが、一度距離を取って、チコは冷静になった。リベラもその様子をじっくり見物する。
(流されてはいけない...)
奴のど壺にハマってしまうのだけは避けたい一心だった。そう思いながら、チコは鎌を右脇から背中に沿って、居合の構えを取り始める。フライヤもちょうど起き上がって彼女の姿を視界に入れる。彼女の格好にリベラは少し期待の表情を見せる。
(その余裕、断ち切るっ!)
そう呟いた直後、チコの姿が一瞬にして消えた。フライヤは遠くにいた為、彼女の位置をすぐ把握した。リベラの真反対に移動していたのだ。
「なっ!」
驚いたリベラは彼女のいる背後を咄嗟に振り向き、バリアを構えようと左手を前に突き出す。
「瞬斬!」
彼女がそう言った瞬間、再び姿を消した。同時にリベラは何か衝撃のような感覚を味わった。仰け反るように身体を動かし、小さく声を漏らすリベラ。
彼女の背後にはチコが片膝を付いて佇んでいた。そう、一瞬にしてリベラの横を通りつつ、攻撃を与えていたのだ。フライヤは何が何だか理解に苦しみ、唖然とした表情を見せる。それもそうだ。最初に瞬間移動した後に構えていた姿勢と瞬斬を繰り出した後の姿勢と比べ、片膝をついていることぐらいしか大きな違いが無かったからだ。
彼女も彼女で、この攻撃に手応えを感じていた。立ち上がりつつリベラの方へ身体を向けて、彼女の倒れていく姿を目に焼き付けていく。しかし、
(ガッッ!!)
背中から倒れていく形のまま、右手に持っていた杖を即座に地面に突き刺した。逆さのまま視線をチコに向けてこう言った。
「勝ったと思うたか?」
「えっ!?」
リベラは素早く左手をチコのいる方へ突き出し、火の玉を放出させた。油断をした彼女はガードが間に合わず、まともにダメージを受けてしまった。その衝撃で押し出されるように後ろへと飛んでいき、イーグルアイと鎌も吹き飛んでしまった。数回転がった後、受け身を取って姿勢を整えるがあまりのダメージに片膝をつくのがやっとだった。
荒い息でチコが見つめる中、姿勢をゆっくりと戻して、リベラは彼女の生前について問いかけ始めた。
「貴様は随分と勝手なのじゃな」
「っ!」
チコへ徐々に近づいて行きながらもリベラは言葉を並べていく。
「彼が死んで、愛する者を追おうと己の命をも投げ捨てたのじゃろう?」
「......」
リベラの言う通りではあった。彼がいない世界など、無いようなものだと思っていたから。だがチコは否定する。首を横に振って、自分の過ちを正そうとした。
「他の仲間達の心配もろくに考えず、貴様はあいつの為だけに命を絶った」
「違うっっ!!!」
叫びと共に立ち上がり、鎌を大きく振り抜いていく。当然攻撃は避けられ、リベラは嘲笑うようにさらなる言葉を吐き続けていく。
「何が違うと言うのじゃあ!貴様がどれほど自分勝手で恩知らずかっ!」
「違ぁぁあうっ!」
涙を流しながらもチコは怒りを露わにして拒絶する。彼の為に命を捨てた事も、仲間達の優しさを棒に振った事も、紛れもない事実である。チコにとってそれはとてつもない精神的ダメージで、鎌を振り回してそれを断ち切ろうとする。
「やめろおぉっ!!」
フライヤも痛みに耐えつつ立ち上がって、リベラに攻撃を仕掛けていく。だが当然の如くバリアで爪は弾かれていく。先程のチコと同様に何度も攻撃し続けていく彼。一向に有利になる雰囲気は無く、ただただ体力を消耗していくだけ。
後に隙だらけとなっていく攻撃にリベラはついにバリアを解き、瞬時にフライヤの首を鷲掴んだ。それに息を吐くフライヤは彼女の腕を掴んでもがき始める。蹴りを入れようとしたり、彼女の腕を殴ろうとしてもバリアで尽く防がれていく。リベラは魔法で宙に浮き、首吊りとほぼ同じ状況を強いた。
「っ!フラッ!」
「貴様が来た事でこやつはまた、苦しい結末を迎えるのじゃ」
その言葉にチコは衝撃が走る。私のせいでフライヤが苦しんでいる?そう感じた途端、力が入らなくなった。虚ろな目が彼女の脱力感を垣間見せていく。フライヤはそんな彼女に檄を飛ばす。
「聞ぐなっ...!自分を信じろぉっ!!」
苦し紛れで声に出すが自身の過ちで頭が一杯になっていた彼女の耳には全く入ってこなかった。もぬけの殻のような姿勢で地面を見つめる彼女。もはや心の内に呟いてる錯覚に陥り、声に出してこう言う。
「私のせいで...フラが...死ぬの?」
その言葉にフライヤは声を荒らげて否定する。
「違ぅっ!...ぐっ!!」
「そうじゃ。貴様のせいで無駄に苦しみ。そして...殺されるのじゃ」
そう言って杖の先端をフライヤの左胸に突き立てる。尖った先端が彼の左胸に触れる。刺突の痛みが伝わって、より二人に絶望感を与えていく。もう、何もかもが終わったと感じた途端。
(助けたいか?)
「っ!!」
突然周りが暗くなり、チコは我に返った。涙を流す目を見開きながら、耳を済ます彼女。再び同じ声と言葉が響いてきた。
「助けたい...でも、私には彼女を倒せない」
悲痛な声で己の弱さを正直に話す。それに対し、声の主は一つ提案を挙げる。
「力が欲しいか?」
「...欲しい...フライヤを守れる力が欲しいっ!!フライヤだけじゃないっ!皆をっ...大切な仲間を護れる力が欲しいっっ!!」
迷いなど無かった。ただ、皆を守りたい一心だった。
「償い切れないかもしれない...!チャンスなんてないのかもしれないっ...!でも、まだ私には守るべき人がいるっ!!だからっ!!」
必死に言葉を言い続ける彼女。根拠も節理もまともに考えず言い並べているだけのようにも聞こえる言葉だったが、彼女の心には揺らぐことのない感情があった。それは仲間を思いやる心だった。
「良かろう。ただ、忠告をしておく」
「......」
彼女はすぐ口を閉じて、主の話に耳を傾ける。唇を小さく噛み締め、内容をしかと聞き入れようとした。
「この力は万有の力、狂人な力ゆえに命を蝕む事も時には起きうる。その安定無き時、仲間を殺める要因になるという事だ」
その内容の重みにチコは思わず固唾を飲んだ。下手にこの力を使えば、大切な皆を殺してしまうかもしれない。しかし彼女は現に守りたい一心でここにいる。このままではフライヤが殺されてしまう。自然と両手に力を入る。そして、彼女の心は決意で満ち溢れ、その志を示した。
「私は...もう、逃げないっ!だからっ...ーー」
「やめろ...」
チコがゆっくりと立ち上がりながらリベラに告げる。彼女は横目で彼女の表情を見る。しかし、ある事に気づいたリベラは目を見開いた。
「っ!!」
丁度の所で下の階で激闘を繰り広げていたベール達が到着した。苦しむフライヤに声を掛けた後、チコの異様な光景を目の当たりにしたシエラは思わず声を出した。
「何じゃ...あれはっ...!?」
ゆっくりと顔を上げ、リベラを睨みつけていくチコ。それに合わせ彼女の異様さも明るみになっていく。なんと、彼女の目の膜は緑色に変色し、赤い眼光を輝かせていた。
リベラはその様子を見て、青ざめた表情を浮かべ、ある言葉を思わず口にする。
「...あれが...『 緑目の番人』...」




