第十六話 重力
ついにハイドとローゼの二人を目の当たりにした四人。互いに武器を持って、ジリジリと睨み合う。その時にローゼは余裕の表情で自身の軍の企みを暴き始める。どうやら世界征服を企んでいるようだ。
「間もなくこの世界はリベラ様による魔巣の世界へと生まれ変わるの」
「魔巣...?」
「バケモノだらけの世界ということじゃろう」
それにチコは眉間にシワを寄せつつも驚く態度を見せる。
「それには貴様らの魂が必要になるのよ!とっととくたばりなさいっ!!」
鞭を振るうと先程とは明らかに長さが変化している。どうやら伸縮可能な仕組みなのだろう。それで四人を狙いながら、次へ次へと振り回す。
回避をしながらもシエラはチコにある物を渡した。それはチコのスマホだった。荒れ狂う鞭を躱しながら、二人の距離が近くなった瞬間、シエラがチコへ指示を出す。
「フライヤを連れて先に行くんじゃ!」
「っ!しかしっ!」
「こやつらならわらわとベールで十分じゃ。こうしてる間にリベラが計画を進めてる可能性もある!ゆけぇっ!」
強い口調に彼女は少し無言になった。すぐに気持ちを切り替え、フライヤの名を呼んで、階段に向かう様合図をした。ハイドは当然それを見逃すはずがなかった。妨害をしようと急接近するが金属音と併せて足に何か違和感を抱く。
見るとシエラの武器が絡みついていた。
「貴様の相手はわらわじゃっ!」
そう言ってドローアップでハイドを自分の方へ引き寄せていく。接近のタイミングでサーベルを突き立て、カウンターを繰り出すがシエラは体を捻る形で回避し、距離を取る。その間にチコとフライヤは階段に到達し、二人の方を見た後、階段を上がって行く。その様子を確認したシエラはハイドの攻撃を躱し、巨大シャンデリアに鎖を絡ませる。ドローアップで根元を引き抜いて、一旦ハイドに向けて叩きつける。難なく隙間をぬって回避をしていく彼。その隙にシャンデリアをチコ達が登っていった階段の入口に投げ飛ばした。轟音と共に壁が崩れ、容易く通れないようになった。
シャンデリアを破壊された事に怒りを露わにするローゼ。
「クソガキがぁっ!!舐めた真似しやがってぇ!!」
シエラにとってあってはならない言葉に触れた。
「貴様もか...、貴様も...わらわを子供扱いするのかぁぁあっっ!!」
勢いのままに鎖双剣を投げ飛ばすシエラ。ローゼは回避し、それ故に壁は無残に刺さる所か破壊し崩れ落ちていく。ベールはひたすらに走り続ける。ハイドやローゼの攻撃を弾き返したり、躱しつつも移動と共に鎌を引きずり続ける。シエラも二人の攻撃を妨げていき、ベールに与える負担を軽減していく。
回避しているだけのベールを見て、ローゼは嘲笑う。
「逃げてるだけじゃ勝てません事よっ!!」
それに対し、ベールが小さく舌打ちをする。攻撃したいがどうやら二人はベールを優先的に潰していくようにも見える。ひたすら回避を続け、鎌を持ち続ける。
無視をされてご立腹になったのか、ローゼは声を荒らげながらベールをより執拗に攻撃をする。
「無視するんじゃないわよこのアマァッ!!」
力強く握って振り回す鞭はベールに向け、次々と叩きつける。音は強く響き、耳が痛くなる。ローゼを妨害したいのは山々だが同時攻撃を狙うハイドを妨害し続ける他、より安全な対策が無かった。鎖を巧みに操り、烈火に燃える剣は彼に向かって飛んでいく。それを回避し、絶好のチャンスを潰されるハイドも若干苛立ちを見せ始める。しかし、このままでは勝機はまずない。シエラは時たまハイドに接近して、意識を無理矢理こちらへ向けさせていく。
刃がぶつかり合い、金属音と火花が飛び散る。競り合いをする二人にローゼが苦言を呈する。
「そんなチビさっさとやっちまいなっ!!」
「あのアマぁ...好き勝手言いおってからにぃっ!」
ハイドの武器を押し上げるように弾き、そのまま剣を横に振って攻撃するも背後に退いて回避されてしまう。子供扱いされた怒りは収まらず、もう片方の剣を横に投げ捨てる。鎖に力を入れると鎖に再び霊気が纏い、若干剣と共に宙に浮く。そのままローゼに向け、曲線を描きながら攻撃を仕掛ける。
彼女は軽く横に避けて、鼻で笑う。舌打ちはするものの、敵の挑発に乗るわけには行かない。丁度余裕が出来ただけなのだ。シエラは再び、ベールを狙うハイドの妨害に徹する事にした。
【要塞 階段】
ベール達と別れた階段側の二人。階段の入口部分は岩で塞がれ、戻れない状態になっていた。チコは彼女達を心配するも、どうしようも出来ない状況を重く理解して、階段を登ることにした。少し昇った後、二人のいる部屋の方から、音がする。思わず振り返って耳を澄ます。戦いの激しさがひしひしと伝わってくる。それに対し、噛み締めるように二人を心配をするチコ。再び自身の立場を思い返し、向き直って登っていく。フライヤも彼女の不安そうな顔を見て声をかける。
「きっと大丈夫だ。会長さんがいるんだ。問題ないさ」
肩に手を添えて優しく接する彼に彼女は気を引き締めて頷く。強く握る自身の両手を見ているとチコは腕に意識を向ける。その時、ある事を思い出した彼女はバッグの中を漁り出した。目的の物を見つけた彼女はすぐバッグから取り出し、フライヤに見せる。
「これ...」
「...ブレスレット?」
彼女が手にしていたのはアクアリウムにいた時、アクセサリー屋から買っていた青いブレスレットであった。ベール、シエラ会長、レイチェル。他も自分にとって大切な仲間であるが、誰よりも今だから言えることだけど、フライヤがいる。アクセサリーの色も青と彼のイメージに合っている。チコは彼の右手首を掴み、ゆっくりとブレスレットを手渡した。
「アクセサリー屋のおじさんが言ってたの。亡くなった妻との最後の創作物だって...」
ブレスレットをじっくり見る彼を見ながらチコは話を続ける。
「思い入れが強かったのかな。見た瞬間欲しくなって...、その時にその青色の今思えば、こうなる事が分かっていたかのような...」
赤色のブレスレットを左腕につけ、それを彼に左右にゆっくりひねりながら見せる。フライヤは彼女の方へ視線を変えるとチコは小さく頷く。再びブレスレットに視線を当て、何も言わず同じよう、左腕に青色のブレスレットをつける。その様子を見て彼女は明るい表情を見せる。左腕を曲げてブレスレットを彼女に大きく見せるフライヤ。それに併せ、微笑みも見せる。
「行こう。こうしてる間もリベラは征服の準備をしているかもしれねぇ」
そう言って先頭を突っ走るフライヤ。チコも彼の背中を見て、階段を駆け登る。右手を胸に押し当てて、改めて決意を心の中で固める。絶対に彼を守り抜くと。
【要塞 舞踏部屋】
状況は変わらず、ベールとシエラは敵の猛攻に悪戦苦闘していた。相変わらず、鎌を引きずるベールはローゼの攻撃を交わし続ける。同じ状況が続き、敵側もかなりうんざりしている。
「いい加減になさい!!あなた達に私達を潰す事など不可能なのよぉっ!!」
「諦めの悪い方々ですね〜」
双方から煽りを受けるも二人は屈すること無く、抗い続ける。ベールは鎌を地面に一度叩いて音を鳴らす。ローゼもその音を聞き逃さず反応し、ついに機転を利かすのかと期待するも、ベールは攻撃を仕掛ける素振りを見せず、再び走り出す。気分を削がれたローゼは眉間にシワを寄せて再び鞭を振り回し、ベールに攻撃を与えようとする。
シエラもハイドの行動を妨げ、剣を交える回数が増えていた。お互い得意の間合いをしつつ、時には大胆に接近して熾烈な争いを見せていく。
(そろそろじゃな...)
シエラはそう呟いて、双剣を目の前に斜め十字で構え、そのままの形でハイドに突進していく。見え見えな構えに彼はチャンスと感じ、思いっきりの力で彼女の剣を弾いていく。
「流石に疎かではございませんかね?」
狐目で微笑みながらシエラを嘲笑い、無防備な体に足蹴りを繰り出す。
「ぐっ!!」
まともにくらい、壁際まで行くほどのスピードで飛ばされる。シエラは途端に大声でベールに指示を出す。
「今じゃあっ!!ベールッ!!」
敵二人はベールを注視する。そこには左手を前へ地と並行にして出し、目を閉じて佇むように立っていた。彼女の周りからは紫色の渦が撒かれており、さらに風が舞っていた。その間、シエラは壁に激突し、はね返る形で地面に倒れる。ゆっくりと立ち上がりながら彼女はほくそ笑んでベールの計画の成功を喜んだ。そう、彼女の描いた紋章の範囲外に吹き飛ぶようにあえてハイドの攻撃を喰らっていたのだ。当然紋章の中には敵二人のみ。ハイドは紋章の外側へローゼはベールに突進を試みる。
「このアマァアアッ!!」
「...プレス...」
ベールは目を見開き、左手の形は変えずにそのまま下に下ろし、こう言った。
「グラビティー!」
その直後、ハイドとローゼは何かに押し込まれるように最初は膝を次に手をそして最後には全身を地につけ、最終的に身動きが取れなくなった。同時に紋章の円縁から半透明の薄紫色の膜が生まれ始め、次第にそれはドーム型へと形成されていった。
ベールの左腕に宿している闇の紋章の力である。闇の紋章は目標物の妨害、自身の隠密力向上を主に扱う魔法属性であり、プレスグラビティーは大型魔法の代表格とも言える魔法である。
シエラの擁護のおかげで比較的素早く、確実性のある紋章を描く事が出来た。彼女の力が弱まるか、遠距離へ移動するか、はたまた紋章の印が分断または添削されない限り持続する。
二人の拘束を確認したあと、シエラの元へ駆け寄るベール。
「会長っ!」
身体を起こすのを支える彼女に礼を言いながら、今回の拘束作戦に賞賛の言葉を言い渡す。
「よくやったベール。さてと...」
肩の土埃を払い、シエラは堂々とした動きで円縁でギリギリ魔法の効果でうつ伏せ状態にされているローゼの元に向かう。
「こっの...ガキがぁ...!」
「こやつ、この期に及んでまだわらわを子供扱いするか...!」
シエラは怒りに満ちた鉄拳でローゼの頭部を力一杯殴り倒した。そのパワーは凄まじく、彼女の顔は地面にめり込み、その周りの地面にヒビが割れた。気絶した彼女を見て気が晴れたところで、もう一方のハイドへ歩みを寄せる二人。
「さて、親玉の目的を教えて貰おうではないか」
ハイドは二人に対して鼻で笑ったあと、余裕の表情で遠回しで問いに答える。
「僕達を倒した所でボスになんら影響は及ばない。つまり、時間の無駄ってわけさ」
彼が言うに自分達は用心棒という形でリベラに雇われ、要塞の管理を担っていただけだと言う。リベラの目的が世界の征服と口にしてること以外二人も全く知らないという。勿論シエラはその言葉に疑い掛かった。しかし、ハイドもこれ以上喋る気がないのか、それとも話す事がないのか。口を動かそうとはしなかった。
いずれにせよ本人の元へ向かうのだから、ここで油を売ることこそ時間の無駄である。怒りの鉄拳をハイドの後頭部にぶちかました後、階段の入口を塞いでいた岩を双剣の爆撃で時間をかけて破壊していき、チコたちの元へ向かう事にした。
【要塞 最上階 玉座の間】
まだベール達の戦いが始まってまもない時、ブレスレットのやり取りを終え、階段を駆け上がっていた二人。先程とほぼ同じ広さを持つ部屋で待っていたのは勿論、この要塞の女主リベラだった。黒の長髪に紫色の瞳、頭にはとんがり帽子を被っており、服は全身黒のローブを見にまとい、まさしく黒魔術師のような風貌を見せていた。彼女は玉座の手すりに左肘を乗せて、あたかも退屈そうな顔で座り込んでいた。チコは前に出て、鎌を片手に問いかける。
「貴方がリベラね?」
真剣な眼差しで話す彼女にリベラは姿勢を変えて返事をする。
「そうだ。随分と好き勝手してくれてるようじゃないか」
そう言って立てかけていた杖を手に取ってリベラは立ち上がった。小階段をゆっくりと降りていき、帽子を整え再びチコ達の方へ視線を向ける。
「それよりも、愛する者と再開出来て何よりじゃな」
皮肉にもとれる発言をする彼女に自然と手に力が入るチコ。フライヤも快い気持ちには当然なれなかった。自分とフライヤの関係性を知っているようにも聞こえたため、チコは追求する。
「どうして、フラを殺したの!?」
その問い掛けにリベラは両手を横に広げて回答する。
「ただ、この世界を征服するための戦力にしたかっただけの事じゃ。類まれなる身体能力を持つ彼なら、その姿にすれば万別の力を得ると確信しておった」
少し満足気な表情を浮かべるリベラ。しかしすぐにその顔に曇りが掛かる。
「だが、まさか貴様がこの世界に来るとは予想していなかった」
「...私を拉致した理由もだいたい同じ様ね」
チコは聞くまでも無く、自身における立場に察しがついていた。フライヤを使って私を拉致し、牢屋であのまま気絶していたのなら、自分も何かしらの方法で魂を抜き取られ、別の姿として操られていたのだろうと。
その考えを彼女の口から述べると、リベラも小さく笑って賛同する様子を見せた。
フライヤはそれを見て、愛人の魂までも奪わせはしないと拳を構える。
世界征服のためだけに愛人を奪った事にチコは怒りに満ちていく。彼の人生をめちゃくちゃにさせた報いを受けるべきだ。グッと鎌を両手で持ってリベラを睨みつける。
二人の闘志に満ちた姿にリベラは余裕の高笑いを見せる。
「はっはっはっはっ!貴様ら二人如きに!」
杖を一回転させつつ、左手を前に出し、いつでも魔法を放つ準備を整える。
「わらわをうち倒せると思うでないぞっ!!」
互いの熱気がぶつかり合う中、チコとフライヤ、二人と宿敵リベラとの死闘が今此処に始まった。




