第十四話 合流
チコとフライヤは二階の階段を探しに全力で走り続けた。途中オークやゴブリン達と鉢合わせになるも、彼の姿を見て混乱にしているのか、瞬間的に攻撃を仕掛けることは無かった。二人も素通りして事なきを得ていく。
「っ!あったわ!」
チコが階段を見つけると門番のオーク二人が立ちはだかる。彼女の存在を見て、槍で階段の道を塞ぐ。見逃してはくれなさそうだ。彼らに申し訳ない気持ちを抱きつつ、強行突破を決行した。詠唱しつつ右手で楕円を描くとその線で囲われた部分で水の壁が形成され、それは膨らんでいき、人一人入れるぐらいの大きさになった。彼女は走りながら押し込むように手を前に出すと、オーク達の方へその水の壁はスピード良く飛んでいく。オーク達はなすすべ無く声を荒らげながらも攻撃を回避する。
二人はその隙に階段を駆け上がり、通路に出たと同時にその道を水の壁で分かりやすくトラップを仕掛けた。
「それバレねぇか?」
「大丈夫。彼らは非力だから追っては来れないわ。オーク達は無理やり傭兵をやらされてるの」
操られていたのだから正気に戻った彼はおそらくオーク達の事情は知らないだろう。簡易的に説明をしながら二人は更に上へ向かうための階段を探した。
オークの里が敵の手によって襲撃された事、そしてその二人の名前、リベラという女の存在を彼に教えると彼はある名前に反応を示した。
「リベラ...?」
「何か、知ってるの?」
フライヤは眉間にしわを寄せて、あの時の記憶を思い出そうとした。
「確か、あの時...」
【リベラ様...これは...】
男の声だったか。うっすらとその名を呼んでいたのを思い出した。その後の返事と思わしき声は確かに女だった。
「そうだ。誰かと話をしていた気がしたな...、少なからず男と女。一人ずついたはずだ」
「...どういうことかしら...」
また謎が増えていく。リベラという女はフライヤの魂を奪い、狼男にしてまで何を企んでいるのか。さらに、ウルフェンの時に私を襲撃し、要塞まで連れてきたのは彼女の命令なのか?考えれば考える程、怒りも込み上げてくる。勝手に命を奪い、人生を狂わされたのだ。彼女の怒りは爆発寸前だった。許しは出来ない。必ず、報いを受けさせる。その一心だった。
「フラ...」
突然チコが走りながら彼の名を呼んだ。フライヤの返事を聞き、チコは少し間を置いてこう言った。
「今度は私も...絶対に貴方を離さないから...」
静かめな声で話す彼女の背中を見ながら、フライヤは彼女の大きな成長を目の当たりにした。もう、臆病な彼女はもう居ない。頼ってばかりのひ弱な心は消えている。そして、死神として歩んだ軌跡は彼女をより強くさせていた。
フライヤは彼女と並び、視線を合わせて微笑みを返した。チコも彼の表情を見て安らぎを感じた。同じように微笑んでいるとちょうど彼女の視界に見覚えのある服の一部を遠くの通路で捉えた。
「っ!?今のっ?!」
「あっ!?」
チコが急に通り過ぎた道を引き返し、曲がって行く様子にフライヤも慌てながらもついて行く。
今のは紛れもなくベールが着ている、ベージュ色のローブだった。後を追うが殺気を感じたチコはフライヤに隠れるよう指示させる。彼女の言う通り、壁際にある柱の出っ張りにチコと共に身を潜め、リザードの傭兵達をやり過ごした。敵達が向かっていく方向へ二人も隠れながら後をつけていく。
角に差し掛かったあたりで、何やら白煙が流れてきているのが見えた。曲がった先を見てみると先程のリザード達が煙幕で立ち往生していた。侵入者の彼女達を諦めず探そうと声を荒らげる敵達。そんな中でチコは不安そうな顔を浮かべていた。
「どうしよう...」
この時チコは感じ取っていた。二人の霊気を。曲がり角の先にはいくつか扉があった。霊気が遠のいていく感覚がないあたり、おそらく近くの部屋のどれかに隠れた可能性が高いのだ。だが、このままではリザード達は部屋をくまなく探す可能性があった。十匹はいるであろう、あの数を相手するのは正直酷な上、突破する前に増援が来る方が早い。なるべくことを荒立てたくはない。彼にも二人の居る可能性を伝え、何か策はないか考えた。しかし、あまり時間もなく焦りが募る。
その時だった。フライヤが身を隠すようチコへ指示を出した後、何食わぬ顔でリザード達の所に歩いて行った。彼の行動に引き留めようとしたが既に彼はほぼ曲がり角を曲がった先まで進んでおり、止めるに止めれなかった。不安の中見守るチコ。リザード達に気づかれない程度に顔を覗かせる。
背後から来た彼に気づくや否や、敬礼をするリザード達。思わず口を一瞬開くチコ。
「隊長っ!隊長も来ていただいたのですか!」
(...出るには出たがこいつらの知ってる俺の素性が分からねぇ...)
なんと彼、策を何一つ持たずに前に出ていたのだ。普通に喋って良いのか。そもそも、隊長と呼ばれていた頃の俺は口を開くようなタイプだったのか?そうこうしてる内に追っていたリザード達は二人の詳細を話し始める。
「金髪の女と銀髪の子供、こちらも女で、魔法を使ってくるようです」
そんな会話の中、チコは物陰に隠れつつ耳を澄ましてみるも、流石に壁を隔てた先だったため、何を話しているのか分からなかった。
「そうか。ひとまずお前らは奥を見てくれ。ここは俺がまとめて探索する」
「はっ!」
何も疑わず、リザード達はリーダーの合図でその場を走り去って行った。どうやらいつもの様な振る舞いが出来たようだ。一安心した彼はすぐにチコの元に戻ってリザード達を追い払った事実を伝えた。
「なんとか、移動できたみたいだね...ありがとうフラ」
「正直行けるか分からなかったが、どうにかなって良かった」
早速すぐ側の扉に移動し、あえて大きくして扉を開けた。フライヤが部屋に入ろうとした所を彼女が止めた。
「どうした?」
「ここじゃないわ」
彼女には分かった。何故か、次の扉を開けつつ説明した。
「さっきも言ってたけど私も含め、死神には霊気があるの。それは距離も関係があるけど、壁を通しても強弱は変化する」
つまり通路側の壁が密閉、扉も明かり窓などの隙間がないのなら、戸を開ければ自ずと霊気を感じる強さは高くなるのだ。
二つ目の扉も強まる感じはない。次の扉に移動して、戸を開ける。すると、じんわりとだが霊気が強まるのを肌で感じたチコはフライヤと共に部屋の中へ入って扉に鍵を掛けた。
「会長?ベール?」
二人もこちらの霊気に気付き、小声を聞いた途端に姿を現した。
「チコさん!...っ!」
彼女の横にいたフライヤの狼男を見て、ベールは鎌を即座に呼び出した。シエラも双剣を抜く構えをとる。眉間にシワを寄せ、真剣な眼差しで彼を睨むベール。チコは彼女の目の前に出て、すぐ構えを止めるよう説得した。
「ストップ!ストーップ!彼はもう安心なの!」
「ど、どういう事ですか?」
半信半疑のベール。無理もない、脅されている可能性だってあるかもしれない。そんな彼女達を安心させるため、これまでの事情を話した。
「彼はフライヤ。狼男だけど本当は人間で、私のかけがえの無い恋人なの!」
「なんじゃとっ?!/恋人っ?!」
シエラとベールはほぼ同時に驚いた。
「リベラって女に魂を奪われて狼男にされてたのっ!」
ベールと宿屋で一度別れてから、再び観光してた事、フライヤとあの街で初めて会った時の事、要塞で起きた様々な事を全て話した。その中には勿論オークの話もあった。
それを聞いたベールは反応を示した。
「チコさんもその話を?」
「ベールも何か聞いてたの?」
彼女は大きく頷いて、チコ達にオークの里であった事を話した。村長の死を聞いたチコは二人組に対し、さらなる怒りを見せる。フライヤ本人もそんな事態が起きている事など露知らず、奴らのグループに居座っていたかと思うと心苦しかった。その後に子供達の危機を手助けした事を聞かされ、安堵の表情を浮かべる。
お互いの事情を知った四人。敵はハイドとローゼ、そして親玉と思われるリベラの三人なのだろう。今となっては心強いシエラ会長だけでなく、フライヤもそばに居る。敵の力がどれ程の物かは分からないが必ず止める。リベラには愛する者を奪った事の代償があるから。ベールとシエラもオーク達の過酷な現状を見過ごすわけには行かない。もはや、他人事なんかではない。止められる事ならば、止めてみせる。チコとベールはそう思いを固く決意する。
「私はフライヤと出会えた出来事、そして、どうしてこんな事になったのかの...真実を確かめるため...」
「...そして、この要塞の本当の目的を確かめるために」
チコとベールがそう口にして、四人は小部屋を出て、先程の通路に出た。もう、身を潜める必要は無い。偶然、目の前の分かれ道から偵察中のリザード達がこちらの存在に気が付いた。その直後に大声で他の傭兵達に知らせつつ武器を構える。
ベールは両手で鎌をしっかりと持ち、シエラは双剣の鎖に異常がないかを確かめながら持ち直し、フライヤは首と指の骨を鳴らし、リザード達を睨みつけながら拳を構えた。
そしてチコはイーグルアイのセーフティを解除し、いつでもエアー弾を撃てる準備に備えた。立ち向かってくるであろうリザード達に向け、彼女は銃を構える。
「私達は、前に進むっ...!!」
【要塞 上層階】
「...」
玉座に佇む一人の女、長髪でとんがり帽子を被り、左肘を手すりの部分に乗せて何かに期待を乗せて待っていた。
「まもなくじゃ...」
ゆっくりと立ち上がり、高い天井に向かって手を広げ、感情を露わに声を発した。
「復讐の始まりじゃ。待っておれ...、必ずや...わらわの計画通りに...成し遂げてみせる...!」
不適に響くその笑い声は部屋全体に広がっていく。はたして、彼女の計画とは一体何なのか。
オークやゴブリン達を苦しめ、フライヤの魂を奪い、はたまたチコをここへ連れてきた理由とは......。




