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D.G  作者: パステル
第1章 再開
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第十三話 決意

「んっ...あぇ?」


目を覚まし、身体を起こすチコ。その瞬間、胸あたりに痛みが走る。腹部を確認すると胸には包帯が横に巻かれており、服はかなりの度合いではだけ、胸の高さのボタン周りを中心に血で滲んでしまっていた。先程の戦いで気絶した時、死神服から戻ってしまったままだったのだろう。


傷口はきっちり抑えられており、傷の理由を思い出した彼女は辺りを見渡し始める。すると右側にフライヤが本棚にもたれかかって眠っていた。


「フラッ!?」


服を着直し、身体に負担を掛けないようにフライヤの元へ駆け寄る。先程結晶に撃ち込んだ衝撃でまさか、殺めてしまったのではないかと不安になりながら彼の身体を揺すった。


「フラッ!?フラッ!!」


彼の左胸に手を添え、心臓の鼓動を確認した。動いてる。その事を理解すると彼女は一安心して胸を撫で下ろす。自分の状態と彼の脇に医療キットが置いてあるのを見る限り、おそらく彼がバッグから取り出して、治療してくれたのだろう。きっと痛みを伴いながら、治してくれたのだと思うと、感謝しきれない気持ちである。

ゆっくりと疲れて眠る彼に身体を寄せて優しく横から抱き締める。

獣臭かった。距離を置いて眠っている理由はそれなのだろう。彼の優しさを節節と感じ、臭いなど気にせず強く抱き締めた。


「ありがとう...フラ...」


ちょうどその時、身体が動きだし、彼の手が背中に触れているのが伝わる。それに反応し、すぐチコはフライヤの顔を見た。


「っ!フラッ?」


「獣臭いからせっかく離れてたのに...」


やはりその理由で距離をとってくれていたようだ。チコは微笑みながら彼の身体に顔を密着させる。臭いがついてしまうことに慌てて離そうとするフライヤ。


「お、おいっ!臭いついちまうからっ!」


「やだ...」


彼に見えないようにしてチコは泣いていた。それに気づいてフライヤは動きを止め、彼女のしたいようにさせる事にした。


「教えてフラ。あの時、何があったの...」


「......」


自分が死んだ日、何者かに襲われた事は分かっている。腕をやられ、地にころがっている中で、長髪の影が彼の横に立ち、真上あたりに手を添えると彼の身体から自由を奪っていった。抵抗し身体を揺らすもまともに動かす事など出来ず、ただただ、相手のなすがままに魂を抜き取られてしまう。感覚が徐々に無くなり、気づけば俺はこの要塞に座り込んでいた。

今だからわかるが時折、自我を取り戻す事があった。核である赤い結晶の力が著しく緩んだ時だけなのだろう。だが自分はすでに記憶を失った状態だったので、脱出する概念など生まれる余地が無かった。俺は狼男であると意識して、この生活を送っていくだけ。どれぐらいの時が経ったのか、分からないまま今に至り、チコの声が聞こえ、名前を呼ばれた瞬間にあらゆる記憶が甦って、俺がこの世の者でない事と結晶によって操られていた事も分かりはしたが力を制御する事が出来ず、ただ心の中で彼女の名を叫ぶことしか出来なかった。その度、頭痛が襲ってくる。しかし、フライヤはふと思いついた。


(もしかして、操っている俺も...食らっているんじゃないか?)


ならばと逆手にとってフライヤはチコの名をより強く叫んだ。より頭痛は酷くなったが今の自分にはこれしか成す方法すら無かった。

結果として、足止めする考えとは違いがあれど結晶を割ることに成功したという訳だ。


事情を聞いたチコは話にあった長髪の影を問い詰める。


「長髪の影...」


「あぁ。...確か女の声で、杖を持っていた気がする...」


女の声となるとローゼとリベラが頭に浮かんでくる。いずれも実際にあった事がないため、どっちが殺めた本人なのか、はたまたどちらでも無いかもしれない。特徴を聞き出そうとしたが当時、何か羽織物で素顔を隠されていたらしく、全く特徴が掴めぬまま、魂を抜き取られたと話す。どうやら直接会って確認するしか他はないと察したチコは話を終わらせる。


フライヤの横に座り直し、二人並ぶ形でチコは体育座りであの後の話をし始める。


「私はあの日の夜、フラの母親から電話が来てね、貴方が帰ってない事を知ったの。連絡もしないなんておかしいと思った私は必死に探して、河川敷で貴方の倒れる姿を見つけたの」


「......」


フライヤは右側足を伸ばし、左足は膝を曲げ、その膝の上に左腕を乗せた状態で真剣に彼女の話を聞いていた。


「起きるはずないのにただただ必死に起こそうとして...結局、違う人が救急車やパトカーを呼んで...私は何も出来なかった...」


パニックに陥っていた自覚など、その時は微塵も感じていなかった。何事も無かったかのように、いつものフライヤの顔が見たかっただけで。居なくなるという現実から、この時から無かったことにしようとしていた。

フライヤもほんの少し視線を下ろす。彼女なりに俺を切に思ってくれていたはずだ。

チコはまた涙を流し始め、自分の不甲斐なさに対し、声を詰まらせながら話した。


「結局...ぅっ、あの後、私は学校に行けなかった...。貴方の居ない生活なんて、...ひぐっ、怖くて、寂しくて、...っ、嫌だったから...」


話の途中、フライヤは今度顔を少し上げ、彼女がここに居る理由をなんとなく察した。そして、それを本人が口にした。


「だから...んぐっ、私は...自殺した...」


フライヤは信じたくなかった。眉を一瞬動かし、見えないように歯を噛み締めた。彼女の自責の念は強まり、声も次第に大きくなっていった。


「バスケ部のみんなっ、クラスメイトの友達...、私やフラの家族、皆がいたはずなのにっ!!私は貴方が居ない人生に負けて!逃げてばかりだった!!私は結局っ!弱いままで...ー」


その瞬間だった。フライヤ自ら、チコを抱き締めたのだ。彼女が自暴自棄になりそうな時はいつもこうしてあげている。突然の出来事にチコは大きく目を見開く。


「早まんなっ。それはちげぇ...」


静かにそう言う彼に、チコは落ち着きを取り戻す。そうだ、目の前にいるのは愛する人だ。


「確かにチコが亡くなって、家族やアイツらは悲しんだと思う。でもよ、今を見ろ。死ななきゃ俺には会えなかったんだ」


そして彼女の頬に両手を添えて、フライヤは慰めを続ける。


「それにチコは俺を思い出してくれただろ?」


「あれはだって...フラが、っ!」


自分を卑下する悪い癖が出てきた彼女。フライヤはすぐ止めようとチコの名をいいつつ、顔を少し掴んだ。


「それでも思い出したのは、チコが諦めずに俺を見つけてくれたからだっ!」


フライヤの言葉に涙ぐむ彼女。口をきつく絞める様子を見せてチコは涙を拭う。手を離してチコの頭に手を乗せて励ます。それに対して彼女の表情は柔らかくなった。


「ありがとう...フラ」


学園生活や思いで話、話したい事は山程あるがそれよりもまず、彼を殺めた張本人を見つけなければ。果たして、この要塞で身を構えているのか、はたまた別の場所に居るのか。


チコは再び死神の服装に切り替えると、フライヤはその瞬間に思わず口を開く。その様子にチコが気付き、説明すべきだと感じた彼女は死神に関することを彼に話した。


「あっ。私が自殺した後、私の魂は死界って言う世界に転移したの」


「シ、シカイ?死後の世界かなんかか?」


彼の問いにチコはコクリと頷いた。


「その世界に私は生前の記憶をほとんど失った状態で降りたち、新たな命として生きてきたの。生前の自分を知らないせいで死界の中でどんな仕事に就けばいいか悩んでたところに、死神の話を持ち掛けられたの」


「死神...」


「うん。最初は戦うって言葉に恐怖心はあったけど、同じタイミングで死界に来たベールちゃんがいてね。今はそんなんじゃないけど、当時はかなり臆病な性格だったの。その時から彼女を見捨てる事が出来なくて見栄を張って死神になるってなっちゃって...」


ちょっと照れ隠しのように手を顔に添えて、居ないベールに申し訳ない気持ちになった。フライヤは彼女の生い立ちを聞き、そこまで辛そうな話じゃない雰囲気を抱き、どことなく安心していた。


「そうだったのか...記憶が飛んでても、心はあん時から変わってなかったんだな」


「今だから分かるけど、そういうことだったんだと思う」


二人の会話で気持ちも上向きになった時。どこかで爆発音が聞こえてきた。二人は立ち上がって音がした方向を余韻がある内に見つけ出そうとする。その直後、警報が鳴り始めた。先程の音に気づいて何者かが鳴らしたのだろう。野太い声で傭兵達に向けたアナウンスが入る。


「二階大広間に侵入者あり、数は二名っ!〜〜」


「二名っ?!」


その一人がベールであると察したチコはすぐに部屋を出ようとした。しかし、フライヤが呼び止める。それに対し、チコは身体をそちらに向けて彼の言葉を待つ。


「俺も行く」


「っ!」


やっぱり、彼らしいと思ったチコは微笑みながら頷いた。すぐに鍵を開けて二人は通路に飛び出した。警報が鳴っている以上隠れる必要性はほとんどないと察したチコは全力疾走で階段を探す。


(私は確かに弱かった。せっかく、皆が手を差し伸べていたのに。私は気づけず、自分を卑下し、彼のいない世界を拒絶した)


心の中でチコは自分の過ちを悔い改めた。

自分の存在を自ら抹消させて、何事も無かったかのようにした。だけど、現実でそんな事など有り得ないんだ。きっとあの世界では私の死も悲しんだ人はいる。家族、友達、そして、バスケ部のメンバー達、マネージャー、監督も。

思い出す度に涙が出そうになったがフライヤのさっきの言葉が頭を過ぎる。チコは顔を横に振って涙を堪えた。

極めて結果論に過ぎない話だが、今こうして私は愛する者に出会えた。たとえ狼男の姿だったとしても、彼の優しい顔、言葉、温もりを感じる事が出来る。彼女にとっては十分過ぎる。決して最悪な話ではない。チコの未来は徐々に明るくなって行くような感覚を得た。


右手を心臓に当て、想像でしかない神に向かって愛する者との再会に感謝を示しつつ、それに伴い、改めて彼女なりの決意を決める。


(私はもう、弱くなんかないっ!

今度は私も、大切な人を護り抜くっ!)


自覚はなかったがこの時のチコの表情は何一つ曇りなどなかった。この先に待ち構える苦難や過酷さ、立ち塞がる試練が来ても、決してぶれる事がない強い意志を持っていた。




【要塞 二階 東通路】


「いたぞーっ!!追えぇっ!!」


一方、ベール達は通路の扉から忍び込んだにも関わらず、呆気なく見つかってしまい、多数のリザード兵に追われる始末となっていた。


「流石に不味かったかのう?!」


「当たり前ですっ!壁をなりふり構わず突き破ったら気付かれるに決まっているじゃないですかぁっ!!」


ひとまず二人は全力で追っ手をまう手段を決行した。

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