リュシアン5歳
振り返るとそれは、青天の霹靂だったのではないかと思う。
「リュシアン、母のお願いを聞いてくれないかいら?」
珍しく真面目な顔で、俺と向かい合って母上は問い掛けた。
「お願いですか?」
「ええ、数日間王宮から出て、私に付き合って欲しいのよ」
「別にいいけど?」
この時の俺は、特に疑問にも思わなかった。ちょっと飽き気味の王子の勉強から、逃れたらラッキー等と軽く考えてた。
したら、ぶっ飛んでたお願いだった。(汗)
連れて行かれた先は、王妃様の私室で、待ち構えていた王妃様が転移魔法を唱えて、一瞬の後には別の部屋だった。
別の部屋と言っても、窓から見える景色は絶対に王都じゃないのは理解した。山がドーンと聳え立ってるし。ポカーンとしてる俺に少し待っている様に告げて、母上達は部屋から退出した。
その後は、怒濤の一言に尽きる。母上は髪を一つに縛り、冒険者の剣士の様な出で立ちで戻って来た。上下は黒い服、腰には剣を下げている。王妃様の服装も魔術師特有のローブを身に纏い、冒険者と同じ様な動き易い上衣とズボンである。二人とも裕福な家ではない出の、言ってしまえば背伸びしてそれなりに良いものを着ている感じを出していた。
二人の後から来た人物は、知らない、すげー羨ましいガタイを持っている、灼熱の熔岩の髪色と、同色の瞳の男前な僧兵……モンクだった。服装が肉弾戦に特化した形だから良く分かる。また、神殿で支給されている僧兵服だから余計に分かった。
「リュシアン様、お初に御目にかかります。フェイ・リュウと申します。数日間宜しくお願い致します」
「あ、はい」
ぼへっとしてたので、慌てて反射的に声を返す。
「あらあら、リュシーは良く解っていないようね?」
クスクス笑いながら、言ったのは王妃様その人である。俺は愛称で呼ばれたので、ぎょっとすると同時に思わずどうして良いか分からないので固まった。
「アーリア様、それは酷と言うものです。私は何も伝えずに連れてきたのですから」
「私以上に酷いわね、マチルダ」
ふふふふふと笑い合う、王妃と側妃の異様な光景にあんぐりした。
事の顛末はこうだ。
不正を行っているかもしれない領地の監査をするので、その地で行方不明となった夫を捜しに来た、婦人とその息子と護衛二人(冒険者ギルドで依頼した風の仕込み)の計四人で旅をする。と、言う設定である。色々探しても、夫に繋がる情報が欲しいと言うことで押し切るらしい。探られても、行方不明者を探すことに消極的であれば何かを隠していると勘ぐられるし、拒否ればそれはそれで法律に抵触する事になる。それをダシに色々探り出そうと言う訳である。
フェイは二人共通の友人兼、協力者であると言う。どういう経緯で仲良くなったかまでは教えてはくれなかった。
初めは旅行気分だったが、野営をすると言うことを聞いて驚いた。兄上だったら、きっとぶーぶー文句言ってただろう。うん、人選理由が何となく理解できた瞬間だった。王妃様……この時は、アーリア母さんと呼ぶように強制された。(苦笑)
母上はマチルダさん、フェイさんはそのままフェイさん、の呼び方であった。アーリア母さんと呼ぶ度に、母上の楽しそうなニヤニヤ顔がすげーイヤだった。なんでそんなに仲良いんですか! 母上達は!! その上、どっかのバカより可愛いわーとか、アーリア母さんの呟きがめっちゃ怖かった。それは、実の息子に対してですよね?! とは言えなくて時折フリーズしていた俺である。
ーーーーまぁ、不正に関しては、最終的に水戸のご老公さまバリの感じで解決してましたが。あ、でも、どっちかって言うと暴れん坊な将軍さまかもしれないけど。暴れっぷりがだけど。母上&フェイが突っ込んで、王妃様が極大魔法でドカーンって死屍累々を作り上げると言うのを目の当たりにしました。ほんんんとスゲエエあの人ら。(滝汗)
公務と称していく場所とは、別の場所で暴れるお妃様ズ。父上は知らない方が良いと、思ったのは可哀想だからだ。だって、完全に疑似餌扱いなんだよ、父上って……哀れすぎる。
そしてこの時を境に、俺はこの国の女性は意外と絶対強いんではないかと思ったのである。
後でフェイにこっそり、母上どんだけ強いの? 前に見せて貰ったレベルっぽく見えないと訊いたのは良い思い出だ。




