魔王誕生秘話
「魔王ルティリウス。これでお前は終わりだああぁ!」
「待てよ、フィツル? 何がどうなっ、て――」
その時、封印の魔術が発動し、彼の意識は闇に閉ざされた。
そして、五百年が経つ。封印は徐々に綻びを増していった。
「――るんだ!? 説明してくれ! ……む?」
彼は左右を見回した。洞穴の中にいるようだ。
「いや、ホント何がどうなってんだ?」
困惑した彼の声に、答えるものは――あった。
「お前は魔王として封印されていたのだ。五百年という長い年月の間……な」
「誰だ? 姿を見せろ!」
「フフフ……いいだろう」
洞窟の外から微かに陽光が忍び行って朧に輪郭を照らしている中、黒い影が現れた。
「なっ、お前は……!」
「フハハ、その通り! 私は」
「嘘つきだな!」
「そう嘘つき……って、何故そうなる」
「鼻が長い」
「これはそういう種族なんだ! 差別反対!」
「あ、そりゃ悪かったな」
「分かればいいのだ分かれば」
「とにかく、俺が五百年封印されてたとか、嘘に決まってる。フィツルも皆もなんかおかしくなってたけど……話せばわかるはずだ」
「無駄だな。皆、お前を残して……いや、お前を封印して死んでいった。お前が魔王で裏切り者だと信じて……な」
「俺が、魔王? そういやフィツルもそんな妙なことを叫んでたけど……んなわけないだろ」
「そう、思うか? ただの人間が魔族の全てを屈服させ、操ることが可能だと?」
「っ……それは……とにかく、俺は人間だ。皆も話せば分かってくれる」
「無理だな。言ったろう。五百年の長い年月が流れたと。お前の知る人々は皆お前を魔王だと信じてここに封印したのだ。祖国を守るために魔族を使役したお前を、な」
「く……だとしても、仕方ないことだ。魔族を操れる俺は危険すぎる。抹殺されることも覚悟している」
「そうか? だがひどいとは思わんのか? 身を削って守った人々は敵と手を組んでお前を魔王と罵ったんだぞ」
「……仕方ないことだ」
「そうだな。ことによると彼らの非難は最もかもしれんしな?」
「どういう意味だ!」
「言葉の通りだ。お前はまだ信じているのか? 我らをただの人間が操れると」
「俺は、人間……我ら? お前、魔族だったのか!」
「我を覚えていないのか……?」
心なしか、長い鼻の輪郭を持つ黒い影はプルプル震えているようだった。
「あ、いや、全然……」
「…………。……ま、まあ、いい。うん。気にしてないぞ。これっぽっちも気にしてないぞ!」
「悪かったな……?」
「フン」
首を傾げつつの謝罪に鼻を鳴らしつつ、影の機嫌は治ったようだ。
「どうしても己は魔王でないし、人間を恨んでもないというのだな?」
「当たり前だ」
「そうか。だが、お前を魔王と信じて封印に命を賭けたやつだとているのだぞ。そいつらのために、お前は魔王であるべきだとは思わんか」
「命を……まさか、フィツル!」
「まあ、そんな名前だったかもしれん」
「そ、そんな……」
「そいつのためにもお前は魔王であるべきなのだ。そうだろう? お前が魔王でないなら、そいつは何のために死んだのだ」
「そ、そうかもしれん……」
「そうだ。お前は魔王ルティリウスだ!」
「俺は魔王ルティリウス……」
「魔王ルティリウス!」
「魔王、ルティリウス……」
「魔王ならやるべきことがあるとは思わんか?」
「やるべきこと?」
「そう、魔王の至上命題。何をおいても達成するべきこと……」
「至上命題……何をおいても……」
「そう、世界征服だ!」
「世界……征服」
「そうだ。お前は魔王だろう? では世界を征服し魔族のものとしたいはずだ」
「俺は世界征服したい……?」
「その通り!」
「そうか。俺は世界征服がしたかったのか!」
「そうだ。さあ、ともに世界を征服しよう!」
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